氣賀康夫

金と銀
(Gold and Silver)

<解説>

 コイン奇術の巧妙な技法に中国人から伝えられたとされるハンピンチェンムーブと呼ばれる手法があります。
 20世紀に至り、名人ダイ・バーノンとトーニ・スライディニがこの手法を活用した近代的な手順を発表しました。バーノンはそれをA Chinese Classicと呼び、スライディニはSix Silver Coins and a Pennyと呼びました。その二つの手順は演技スタイルを別にすれば、ほとんど同じ内容であると言っても過言ではありません。この作品により素朴なハンピンチェンムーブが洗練された近代奇術に姿を変えたのです。
 ところが、筆者はあるとき、その手順の中に、「できることなら避けたい個所」があることに気づいたのでした。それはどういう個所かというと、最初に左右の手にコインを3枚ずつ持ち、その両手をわざとぶつけるという怪しい動作をしてみせる手続きのところです。それは見ていて怪しい動作なのですが、実際には何もしないのです。
 参考のためバーノンとスラディニの手順解説の原本のその個所を<写真1>に紹介しておきます。

写真1

 なぜ、こんなことをするのかというと、それは、その直後に両手のコインをあらためる理由を作るためです。それでは、なぜそこで両手のコインをあらためなければならないのか?それはそのコインのあらための動作がないとハンピンチェンムーブを実行できないからです。しかし、よく考えてみると、このことは術者サイドの台所事情であって、観客側には関係がないことです。
 そこで筆者は、1970年にこの不自然な動作を取り去る方法を開発したのでした。当時、この解決案をニューヨークでバーノンの愛弟子であるパーシ・ダイヤコニスに見せたところ、合理的だと絶賛されました。それは、3枚の銀貨と一緒に使われる一枚の金貨だけがテーブルを貫通するという奇術を最初に見せる手順構成によって、握り拳をぶつけるという怪しい動作を除去するというアイディアだったからです。
 なお、バーノンとスライディニの手順は二段構成ですが、ここに解説する金と銀の手順は四段構成になっており、その流れが全体にストーリー性のある楽しい演出になっています。筆者はしばしばアンコールの第五段もつけ加えて演じております。効果は連続写真<写真1-40>で紹介します。

<効果>

1.まず6枚の銀貨と1枚の金貨が紹介されます。イントロダクションとして銀貨がテーブル貫通する奇術の瞬間芸を見せます。

2.そして「銀貨は金貨が一緒だと仕事をいやがる」という奇妙な話をして、両手に銀貨を3枚ずつ持ち、左手に金貨を加えてコインをテーブルに貫通させようとしますが、なるほど金貨しか仕事をしません。そして金貨が居ないと銀貨が仕事をすることを確かめます。

写真2
コイン7枚をHの字に並べる
写真3
左右の手に銀貨3枚を持つ

写真4
金貨を左手に取る
写真5
右手をテーブルの下に

写真6
左手をテーブルに叩きつける
写真7
金貨がなくなっている

写真8
左手で銀貨3枚を取る
写真9
左手を握る

写真10
右手を伏せる
写真11
右手でコインを拾う

写真12
銀貨3枚と金貨がある
写真13
右手をテーブルの下に

写真14
左手をテーブルに叩きつける
写真15
左手を開ける

写真16
右手から7枚が登場する

3.銀貨を両手の3枚ずつ持ち、今度は金貨を最初から右手に持ちます。すると左手の銀貨はすぐ仕事をします。

写真17
金貨は右手に、両手を拳にする
写真18
左手を開ける

写真19
左手で銀貨3枚を持つ
写真20
右手を開ける

写真21
右手で金貨と銀貨3枚を持つ
写真22
右手をテーブルの下に

写真23
左手をテーブルに叩きつける
写真24
右手から7枚が登場する

4.次に、紛らわしい金貨を取り除き、銀貨を3枚ずつ両手に持ってトライすると簡単に銀貨がテーブルを貫通します。

写真25
銀貨3枚を左右の手に持つ
写真26
左手を開ける

写真27
左手に銀貨3枚を握る
写真28
右手を開ける

写真29
右手に銀貨3枚を持つ
写真30
右手をテーブルの下に
写真31
左手をテーブルに叩きつける
写真32
右手からコイン6枚が登場

5.「両手をテーブルの上で演じろ」というリクエストがよくあるので、やってみると宣言します。すると銀貨3枚が左手から右手に飛行します。

写真33
両手に銀貨を3枚持つ
写真34
左手を開ける
写真35
銀貨3枚を左手に握る
写真36
右手を開く
写真37
右手で銀貨3枚を取る
写真38
両手をゆする
写真39
左手は空である
写真40
右手で6枚を出してみせる

<用具>

使うのは銀貨6枚と金貨1枚です。バーノンはロンドンで英国のハーフクラウン貨(2シリング6ペンス)とリングを用いて演じています。スライディニはアメリカの1$銀貨と銅貨(英国の旧ぺ二―貨)を用いています。筆者が愛用するのは1964年発行のオリンピック1000円銀貨と模造金貨です。

<手順>

<第一段>

第一段のプロットは次のとおりです。まず、銀貨がテーブルを貫通する芸をデモンストレーションします。ついで左右の手に銀貨を3枚ずつ持ち、さらに左手にだけ金貨を1枚持ちます。左手をテーブルに打ちつけると金貨だけがテーブルを貫通します。次に続けて左手をテーブルに打ちつけると今度は銀貨3枚がテーブルを貫通します。

1.まず、銀貨6枚と金貨1枚をテーブルに登場させます。

2.第一段では最初に銀貨1枚だけがテーブルを貫通するというプロローグを用意しました。
まず銀貨1枚を右手で取りあげて、それを基本技法フェイクパスの手法を用いて左手に手渡したように振る舞います。どのフェイクパスを使うかは好みの問題です。そうしたら、右手をテーブル下に回します。次に左手を、コインを持っているふりして拳に握りしめ、それを開きながらテーブルに叩きつける動作をします。このとき本来ならパチンと音がするところですが、実は左手は空ですから音が出ません。
そこで、代わりにタイミングを合わせて右手でコインをテーブルの裏面に叩きつけて、それらしい音を立てるようにします。そして、左手を返してそれが空であることを示し、右手でコインをテーブルの上に放りだします。以上の動作によって「銀貨1枚がテーブル貫通した」という瞬間芸が演出されます。

3.「ご覧のように銀貨がテーブルを通り過ぎましたが、銀貨は金貨と一緒でない限り、このように喜んで仕事をいたします。ところが銀貨は金貨と一緒になると、出演料が不公平だと文句を言い、仕事をさぼることがあります。そのことをご覧に入れましょう。」と言います。

4.コインをテーブルの上にHの字のように並べます。
すなわち、左右の縦のストロークが各々3枚の銀貨であり真ん中の横のストロークの位置が金貨です。<写真41>

写真41

5.ここで左右の手で銀貨3枚ずつを拾いあげて掌の上にのせてそれをよく見せます。<写真42>そして両手をそのまま握り拳にします。

写真42

6.次に拳の左手の拇指と食指で真ん中の金貨を拾いあげて、それを左手に銀貨と一緒に握ります。ただし、観客に気づかれないようにその金貨は左手のサムパ―ムの位置に持つようにします。

7.「いま、この左手に金貨を持ちましたが、同じ手に銀貨が3枚あります。そして、このように金貨と一緒になった銀貨はご機嫌が悪くなり仕事を拒否します。よくご覧ください。」と言い、右手をテーブルの下に入れます。ここから右手は忙しいです。
まず、持っている3枚の銀貨を膝の上にそっと置きます。そうしたら、右手の上腕部をテーブルの手前端にピッタリつけておいて、そこを軸に下腕部を時計と反対方向に90度近く回転させて右手がテーブルの手前端の手前に位置するようにして、手をしゃもじのようにして待ち構えます。
このとき右手が観客に見えることのないように注意が必要です。<写真43>

写真43

8.ここで左手の拳の甲が上を向くように回転し、手を開いてそれをテーブルに叩きつけるようにします。すると銀貨3枚は手から解放されますが、金貨はサムパ―ムされたままの状態になります。<写真44>

写真44

9.ここで観客に左手の下がどうなっているかを見せる必要があります。
そこで、銀貨3枚を見せる目的で左手を手前に引き、サムパ―ムされた金貨がしゃもじのように構えた右手の真上に来るようにします。そして、左手のサムパ―ムを緩めます。すると金貨は右手に渡ります。<写真45>

写真45

10.ここでグズグスしてはなりません。右手は直ちに元のテーブルの下に戻り、そこから拳にしてテーブルの上に出すようにします。

11.同時に、左手は元の位置に戻りそこにある銀貨3枚を拾いあげます。そしてそれを掌の上でよく見せます。<写真46>

写真46

12.「金貨はご機嫌よく仕事をしてテーブルを通り抜けましたが、このように銀貨3枚はふてくされて仕事をさぼっています。」と説明します。

13.ここで左手を軽めに握りしめて拳にして、それをテーブルの真ん中あたりに位置させます。拇指が上、他の指は右側を向いています。
一方右手は金貨だけを握っていますが、左手の右20㎝くらいの位置に構えます。拇指が上向き、他の指は左側向きです。<写真47>

写真47

14.いよいよハンピンチェンムーブです。
ここではハンドリングにバーノンご推奨の方法を活用します。では、ハンピンチェンの動作を詳しく説明します。
まず、右手が動き始めます。右手はそのまま左に動き、左手に触りそうなところまで来ます。そして、左手ですが、指の握りを緩めて銀貨3枚が拳の小指側からテーブルに落ちるようにしむけ、空のまま握ったその手を左に20㎝くらい移動します。<写真48>
右手は手を開き、持っていた金貨を左手から出た銀貨の上にかぶせるようにします。<写真49>

写真48
写真49

15.ここまで来たら、右手を右にどけて掌を上向きにします。<写真50>
これでハンピンチェン作戦は終わりです。観客の目から見ると、術者の左手は銀貨3枚を握りしめたまま術者の左寄りにあり、右手から銀貨3枚(もともと右手が持っていたもの)と金貨を出したように認識します。

写真50

16.ここからは第一段の仕上げです。
右手で銀貨3枚と金貨を拾い、握りしめてテーブルの下に持っていきます。そこで密かに保存していた銀貨3枚も静かに取り、合計7枚を握りしめます。

17.左手をやや持ち上げて「さて金貨が仕事をして右手に行ってしまいましたので、この残る銀貨3枚はもうご機嫌が悪くありません。今度は仕事をすると思います。」と言います。

18.左手を開きながその掌をテーブルに叩きつけます。このとき音が必要ですから、右手で持っているコイン7枚をテーブルの下面に叩きつけるようにします。

19.左手の手の掌を上に向くようにして空であることを示します。そうしたら、右手の拳をテーブルの上に持ってきて、持っている7枚のコインがザラザラとテーブルに出てくるようにします。これで3枚の銀貨がテーブルを通り過ぎた演技が実現します。

<第二段>

第二段では、金貨が居ないと銀貨が喜んで仕事をするところをお見せします。なお、この「金と銀」の第一段と第二段の連鎖はバーノン、スライデイニの手順の二つの段をたまたま逆にしたような構成で効果をあげています。

20.コインを最初のHの字のように並べます。

21.今度はまず最初に右手で金貨を取りあげて握ります。「今度は最初から金貨を右手に取ります。」と言います。

22.続けて、左右3枚ずつの銀貨を左手、右手で取りあげて握ります。
ただし、ここでは右手が取りあげた銀貨3枚をそのままサムパ―ムして保持します。<写真51>

写真51

23.「さあ、今回は金貨が右手にありますから、左手の銀貨には何も不満がありません。」と言い、握った左手をあけて銀貨3枚をテーブルの上に示します。<写真52>このときの左手の動きは第一段のときの動作に準ずる動作で良いと思います。その動作に合わせて右手はやや右に引くのが良いでしょう。

写真52

24.左手で3枚の銀貨を再び拾いあげて軽く握り閉めます。

25.左拳がテーブルの中央付近にあり、右拳はその約20㎝右に位置しています。拇指が上向き他の指が内側を向いています。 <写真47参照>

26.ここからがハンピンチェンムーブです。
始動するのは右手であり、まず左拳に近づきます。そこで左手は握りを緩めて3枚の銀貨がテーブルの落ちるようにしむけ、そのまま左に20㎝移動します。
一方右手は手を開き、左手が落とした3枚の銀貨の上にかぶせるようにします。
すると左からの3枚の銀貨と右からの金貨がテーブルに落ち、右手がそれを覆うようになります。<写真47 48 49参照>
銀貨3枚はサムパームされたままです。ここの過程は、観客から見たところは第一段と全く同じです。違うのは観客から見えない舞台裏だけです。

27.右手をそのまま右に移動して、テーブルの銀貨3枚と金貨との4枚がよく見えるようにします。<写真53>

写真53

28.ここで右手はテーブルの4枚のコインを拾いあげるのですが、この動作で大切なコツは右手の食指を使わず、中指と拇指だけでコインを拾いあげるということです。それが自然な動作に見えるための秘訣です。<写真54>

写真54

29.右手はいまや7枚のコインを持っていますが、そのままテーブルの下に回します。左手をやや持ちあげて、「今度は銀貨3枚がご機嫌よく仕事をするでしょう。」と言い、その手を開いて掌をテーブルに叩きつけます。このとき右手はコインをテーブルの裏面にぶつけるのがいいでしょう。そうするとそれらしい音がします。

30.左手を返して掌を上にしてそれが空であることを示します。

31.右手をテーブルの上に出してきて、コイン7枚をジャラジャラとテーブルに出します。

<第三段>

第三段では金貨を除外して同じ演技をします。
ここで使われるテクニックはバーノン、スライディニの手順に登場しない独特の手法です。そしてここでは左右の手が近づくことはありません。
したがって、観客は第一段二段で怪しいと感じていた要素が第三段で否定されるため、その疑いが晴れるようになります。

32.コイン7枚をHの字状に並べます。「ご覧になっていて、金貨の存在が紛らわしいという方がときどきおられますので、金貨を取り除いてやってみましょう。」と言い、真ん中の金貨を右手で取り、テーブルの右脇にどかします。

33.銀貨を左右の手に3枚ずつ取り、それぞれを握り、テーブルの左右に構えます。拇指が上向きで、他の指は内側を向いている状態です。<写真47参照>

34.ここで「金貨は取り除きましたが、この左手は銀貨を何枚持っていますか」と聞きます。観客は「3枚」と応えるでしょう。

35.そこで左手の拳をそのままテーブルの中央付近に持ってきて手を開きます。銀貨3枚がテーブルに落ちてジャラジャラと音をたてます。<写真55>

写真55

36.「確かに3枚です。」と言い、左下で銀貨3枚を拾いあげて軽く握ります。

37.次の動作が大切です。
右手をテーブルの中央付近に持ってきて手を開きますが、そのタイミングで左手をテーブルの端まで引き、握りを緩めて銀貨3枚を膝に落とします。<写真56>
本来、銀貨3枚をテーブルから膝に落とすと大きな音がしてその秘密がばれますが、この場面では右手からのコインのテーブル上の音が大きいので、その雑音がかき消されてしまいます。このような直接的な方法で複数のコインをラッピングする技法はあまりやっている人を見かけません。

写真56

38.右手で落とした銀貨3枚を拾あげて掌の上にのせて見せ、「右手にも3枚の銀貨があります。」と説明します。このタイミングでは左手の拳はテーブルの中央近くまで戻しておきます。<写真57>

写真57

39.右手をテーブルの下に運びます。

40.左の拳を開きつつ掌をテーブルに叩きつけます。音は右手がテーブルの下で作るのがいいと思います。

41.左手を返し、掌を見せてその手が空であることを示します。

42.右手をテーブルの上に出し、コイン6枚がテーブルの上に投げ出されるようにします。

<第四段>

この段では、コインがテーブルを通過するのでなくテーブルの上で手から手にコインが飛行する演出を実現します。この段で用いる技法は筆者特有のハンピンチェンムーブです。

43.「この奇術を演じていると手がテーブルの下に行くのでそこが気になる。すべてをテーブルの上でやってほしい!という人があります。これは難しい要求ですが、やってみましょう。」と言います。

44.左手に銀貨3枚、右手の銀貨3枚を取りあげてそれを握りしめて拳にして、テーブルの左右に位置させます。拇指が上向きで他の指は内側を向いています。このとき右手だけは3枚の銀貨をサムパームの位置に保持します。

45.まず、左拳をテーブルの中央あたりに持ってきて、7㎝くらいの高さで甲を上にして手を開きます。すると銀貨3枚がテーブルに落ちます。<写真58>それを見て「左手は3枚です。」と言います。

写真58

46.左手で銀貨3枚を拾いあげて、握ります。ただし、密かに3枚を左手四指の爪と拇指の根元の肉に挟み持つようにします。<写真59>このことを観客は知りません。なお、左手は甲を上に向けています。

写真59

47.ここで、両手が仕事をします。すなわち、左手は保持していた3枚の銀貨を放し、3枚がテーブルに落ちるようにしむけ、その拳を左方向に20㎝移動します。
そして同時に右手は甲を上向きにして7㎝くらいの高さを保ちつつ、左の手のコインが落ちた位置まで移動して、手を開きます。<写真60>すると右手のコインはサムパ―ムされたままですので、観客は3枚の銀貨は右手の3枚だと誤認します。

写真60

48.「右手も3枚です。」と言います。そして、右手で3枚の銀貨を持って握ります。このときも右手はコインをサムパームしていますから、テーブルのコインを拾いあげるのに拇指と中指を使うようにします。食指を使うのは禁物です。そして、この動作のとき左手は180度回転し、甲を下向きになるようにします。<写真61>

写真61

49.両手を左右に離して握り、「では、コインを手から手に飛行させましょう。」と言い、両手の握りを一瞬緩めて次の瞬間強く握りしめます。すると右手の中で「ジャラ」と音がするでしょう。

50.最後に左手を開きそれが空であることを示し、然る後に右手を開いて銀貨6枚がテーブルに登場するようにします。<写真62>

写真62

<アンコール>

筆者の標準的手順は以上の4段構成ですが、もう少し演技を続けたいという場合にはアンコールが一段用意されています。
それはギャロの創案によるギャロピッチと呼ばれるユニークな技法を活用する演技です。
ギャロピッチは独立したオリジナルな技法と考えている人が多いですが、筆者はこの技法はハンピンチェンムーブの一種であると認識しております。ただし、見た目が通常の動作と違う印象なので、ここでアンコールに使うのも悪くないと考えている次第です。以下にその方法を記述します。

51.ギャロピッチではテーブルの正面に大きな正方形を想定し、その対角線であるX字に沿って動作を行います。仮に正方形の左下をA、右下をB、左上をC、右上をDとし、対角線AD,BCの交点をOとしましょう。<写真63>

写真63

52.この手法を使う場合も最初に銀貨6枚を示し、左手に3枚、右手に3枚を取りあげて拳にするところまでは他の方法と変わりません。ただし、右手の3枚は密かにサムパ―ムで保持しておいて手を握ります。

53.ここで「コインをテーブルに出すときには、クロスして動作する必要があります。」と言い、その例示として左拳をAからDに、続けて右拳をBからCに動かしてみせます。

54.ここからがギャロピッチの基本動作です。まず、左手の拳の甲を上に向けた姿勢のままAからOまで動かして手を開きます。すると銀貨3枚がOとDの間に落ちることになるでしょう。<写真64>

写真64

55.そうしたら、左手の掌を見せてそれが空であることを示してから、その手でテーブルの3枚の銀貨を拾いあげて握ります。このときにコインを普通に握らないで、密かに3枚を拳の拇指と食指に挟んで保持することが大切です。このコインの持ち方をギャロは「フリズビ―グリップ」と呼びます。<写真65>
そして、その左手をAの位置に戻します。甲が上を向いています。

写真65

56.ここからがギャロピッチです。
原案では左拳をO点に構えますが、筆者はA点から始める方が自然だと考えております。左拳の甲を上に向けたままA点からO点まで運びます。そして、右手はやはり甲を上に向けたままB点からO点まで移動してそこで指を伸ばします。そのタイミングで、左拳を逆時計方向に180度回転させて、O点からややD点寄りのところで拇指の握りを緩めます。
するとフリズビーグリップしていた銀貨3枚がD点の方向に投げ出されます。<写真66>このとき、右手の保持していた銀貨3枚はサムパ―ムされて下向きになっていますから、見ている観客は銀貨3枚が右手から放られたと認識します。
左手は甲を下にしたままさらに左に移動し、右拳との距離を保つことが肝腎です。

写真66

57.ここで左手をさらに左に移動し、右手でテーブルの上の3枚の銀貨を拾いあげますが、このときも使うのは右拇指と中指であり、食指を使うのは禁物です。

58.両手を拳にして左右に距離を保ち、「ワン、ツー、スリー」の号令で握りをゆるめてからギュッと握りしめます。そしておもむろに左手を開くとそれは空であり、続いて右手を開くと6枚の銀貨が登場します。<写真67>

写真67

このアンコールを採用するときには、筆者は上記の第四段の前にこのギャロピッチの方法を演ずるようにしています。

第6回                 第8回