氣賀康夫

コイン・スルー・ザ・テーブル第二部
(Coin Through the Table Part Two)

<解説>

コイン・スルー・ザ・テーブルは通常4枚のコインを、一枚ずつテーブルを貫通されるように演出することが多いですが、それが終わると、コインの数を減らして同じ現象を見せるように手順を構成することがよく行われます。
筆者はこの演出に魅力を感じ、1960年頃からいろいろな異なる手法を駆使してそのような演出を効果的に見せる方法を研究してきました。
以下にその決定版のバージョンを解説します。

<効果>

4枚のコインを用いるコインスルーザテーブルが終ったところから、4枚から1枚を取り除いて演技を行い、それが終わると、さらに1枚を取り除き2枚だけで演技を行い、さらに最後は1枚減らして、最後の1枚で演技をしますが、それが見事テーブルを通り過ぎると最後に登場するのが特大のジャンボコインになってクライママックスを迎えます。
この経過を連続写真でご覧いただくことに致します。

写真1
4枚は多すぎでしたか
写真2
3枚にしましょう

写真3
1枚はどけておきます
写真4
3枚をテーブルに叩きつけます

写真5
2枚しかありません
写真6
右手に1枚あります

写真7
2枚を叩きつけます
写真8
左が1枚になりました

写真9
右手は?
写真10
右は2枚です

写真11
最後の1枚です
写真12
消えました

写真13
3枚です
写真14
1枚取り除き、左右に1枚ずつ取ります

写真15
コツコツ!
写真16
右手に2枚です

写真17
1枚にしましょう
写真18
もう一枚はどけます

写真19
コツコツ!
写真20
消えました

写真21
これなら見えますか?

<用具>

コイン4枚を使いますが、クライマックスに取り出すべき大きなコインを必要とします。
奇は術用具店ではしばしばジャンボコインを取り扱っていますが、手に入らないときは、大きめの丸いメダルを使うという便法があります。

<準備>

膝にナプキンかハンカチを敷くのが便利であることは第一部と変わりません。
追加的に必要な準備は、ジャンボコインの用意です。
筆者はだいたいジャンボコインを左側の下肢と椅子間に保存しています。

<方法>

<3枚の手順>

1.第一部が終わったら、「どうも、コインが多いとお客様が混乱するようですからコインの枚数を減らしましょう。」と言います。このときコイン1枚を減らす動作の間に1枚のラッピングを終らせてしまうという作戦を採用します。

2.第一部の最初と同じようにコイン4枚をテーブルの左右に並べます。右手で4枚の一列のコインのうち右側の3枚のコインをごく普通に指で拾いあげて揃え、テーブルの上に垂直に立てるようにしてから、その3枚を持ちあげます。
そのとき、1枚のコインを拇指で少し引いておきます。<写真22>
そして、左手の掌にコイン2枚を放りこみ、コインを受取った左手を握ります。右手はその間に保持したコインを一旦フィンガーパームの位置にします。

写真22

3.ここで、1枚のコインを隠し持った右手の食指をテーブルの上に残っている1枚にかけます。そして、それをそのまま手前に引いてきます。
そのコインがテーブルの端まで来たら、そこでそのコインの下に右手拇指をかけてそのコインを取りあげるのですが、その位置では、右手中指、薬指、小指はテーブルの端よりさらに手前に位置しているはずです。<写真23>
そこで、隠しているコインがちらつかないように、その指をやや下げ気味にしてフィンガーパームのコインをひざに落としてしまいます。

写真23

4.ここで、右手は直ちに食指拇指でコインをつまみあげて、その手の甲が下を向くように手を回転し、指先のコインをテーブルの端に沿って右の方に運び、邪魔にならないところにそれを置きます。

5.ここから3枚のコインの手順が始まります。
右手をテーブルの下に持っていき、左手を開いてテーブルに叩きつけます。今度は右手をそのままテーブルの下に置いたままで、左手を手前方向でなく、左にどけて手が空であることを示し、テーブル上に確かにコインが2枚しかないことを示します。
そして、左手でその2枚を拾いあげてそれを掌の上でよく見せてから、その手を握ります。ただし、そのとき掌の中のコイン2枚を分けて、食指中指で1枚を確保し、もう1枚を小指で軽く押さえておくようにします。<写真24>

写真24

6.そして、左手は拇指が上を向くような姿勢を取ります。ここで、右手でコインをテーブルの上に持ってきてそれをテーブルの上に放り出します。
このタイミングで左手を手前に引いて、小指を緩め、1枚のコインがテーブルの手前でひざに落ちるようにします。

7.右手でテーブルの上の一枚のコインを5cmくらい向うに押し、その動作に合わせて左手をテーブルの中央に向かって移動しておきます。<写真25>

写真25

8.以上で一枚目の現象を見せている間に、2枚目のラッピングは完了します。

9.右手でテーブルの上のコインを拾いあげ、それをテーブルの下に持っていきます。

10.「では、よく耳を澄まして聴いてください。」と言い、左手を開きテーブルに叩きつけます。そのとき一瞬間をおいて、右手で持っていたコインを膝の上のコインの上に落としてチャリンと音を立てるようにします。

11.そうしたら、右手で1枚だけコインを拾いあげ、その手を握ってテーブルの上に出します。左手を左にどけて、そこにコインが1枚しかないことをよく見せます。

12.左手でコインを拾いあげて握ります。
ここからは第一部の最後と同じハンピンチェンムーブを実行する作戦がいいと考えます。そうすると、ハンピンチェンムーブの結果、観客からは術者の右手から2枚のコインが出て来たかのように見え、左手にはコインが1枚残っているように思えるのですが、事実は右手からはコイン1枚が出て来るだけであり、左手の1枚が密かに加えられるので、最後は左手が空になります。

13.最後の左手のコインがテーブルを貫通し、右手が3枚になるところの演出は第一部の最後と同じで「コツコツ、パチン、グイ、チャリン」の演出がいいと思います。

2枚から1枚まで手順

14.ここで、「まだまだコインが多いようですね。コインが3枚もあると二つの目で追うことが難しいでしょう。」と言います。そして、3枚のコインのうち1枚を取り除く動作を行うのですが、その動作が終わったときには、もう残りの2枚の内の1枚のラッピングが終わっているという作戦です。
しかし、観客には左右の手に1枚ずつコインがあるように見えます。それは左右の手の操作のタイミングのずれ(オフビート)を活用した手法です。

15.3枚の手順が終了したときテーブルの上に出された3枚のコインを左右に一列に並べます。その位置は始まりの時とほぼ変わりません。
ただ、コインの数が4枚でなく3枚であるという点だけが違いです。

16.最初に右手中指を、一番右のコインにかけて手前に引いてきます。
それがテーブルのをクリアする瞬間に、左手中指を一番左のコインにかけます。<写真26>

写真26

17.右手はコインを中指と拇指で取りあげて、それをテーブルの右の方に置きます。その位置は先ほどどけたコインのあるところです。このタイミングでは左手はコインをテーブルの端まで引いてきています。
そして、左拇指を下に回してコインをつまみあげる動作をするのですが、実際にはコインを掴まず、ひざに落としてしまいます。<写真27>

写真27

18.このとき、右手中指を真ん中のコインにかけ、それを手前に引き始めます。左手はコインを摘んだ姿勢のままテーブルの中央に来ます。<写真28>

19.そうして最後に右手がコインをテーブルの端で拾いあげます。<写真29>

写真28
写真29

20.右手はやや遅れてテーブル中央に来ます。そうしたら、右手のコインを空中に放りあげてそれを同じ手で受け取ります。

21.ここで、右手をテーブルの下に入れ、左手をテーブルに打ちつけ、その手を左にどけて空であることを示し、右手でひざのコインを拾いあげ、コイン2枚をテーブルの下から持って来てテーブルの上に出します。コインが左右に並びます。

22.いよいよ最後の1枚の貫通ですが、ここでは、コインが一枚しかないため、カバーする方法がありません。このためコインの処理がたいへん難しいのです。この最後のラッピングはテンス・アンド・リラックスの絶妙なタイミングで一瞬に実行されることになります。そして、最初から術者のお尻の左下に隠しておいた巨大なコインを出現させてクライマックスを演出します。

23.では、最後の動作を詳細に説明しましょう。
テーブルの上の2枚のコインのうち左の1枚を左手でその位置のまま真上に向かって取りあげて指先に持ち、それを観客に示して「まだコインが多すぎるようです。」と言います。
このとき術者の視線は観客の顔を覗きこみ、いわば気持ち的にテンスの状況にあります。<写真30>

写真30

24.次に、急激にリラックスの状況を作り、視線を右手に向けてその手で右のコインを取りあげます。この瞬間左手を下げてテーブルの端に休めてコインを密かにひざに落とします。<写真31>このとき大切なことは左手の指先を十分曲げてコインが観客から見えない位置に持って来るという配慮です。
しかし、これは一瞬のことであり、ただちに左手を再度持ちあげて今度は左肘がテーブルの端に当たるくらいの姿勢にしてその動作を休みます。
このとき右手はコインを右にどけて前のコインに加えてしまいます。<写真32>ここでテンスな状況を作り、「最後ですから、今度は一枚でやってみましょう。
人間の目は二つあっても、一つの目で左を見て、もう一つの目で右を見るということはできない仕組みになっていますから・・・。」と言います。

写真31
指先を曲げる
写真32
ひじをつく

25.空の右手をテーブルの下に持っていき、膝のコインを拾います。そして、「コツコツ、パチン、グイ」の演出をします。
ただし、最後の「チャリン」はありません。それはコインが1枚だからです。
右手は仕事を終えたら持っているコインを再び膝にそっと置き、代わりに隠しておいた巨大なコインを椅子の上からそっと取ります。

26.左手が空であることをよく見せます。右手で巨大コインをテーブルの上に放り出して、「これならよく見えますか!」と言い、演技を終了します。

27.以上で手順としては十分ですが、最後に巨大コインの貫通を演出する愉快で厚かましい手法がありますので、ご紹介しておきます。
手の角度とタイミングが上手くいくと驚きを生みます。

(1)テーブルの上のジャンボコインの向こう側に右手の中指をかけて、それをテーブルの端まで引いてきます。そこで拇指をコインの手前端にかけて、中指と拇指でコインが水平のままそれを持ちあげます。

(2)ここで左手の掌を上に向けてジャンボコインを受取る準備をします。術者は視線をその手に送ります。このとき右手をテーブルの端で休めて、静かにコインを膝に落とします。<写真33>

写真33

(3)右手はコインを持っているふりをしたままで、そのコインを左掌に置く動作をします。<写真34>その瞬間に左手の手首から先を時計方向に180度回転させて、左甲が上向きになるようにしなければなりません。<写真35>

写真34
写真35

(4)右手の掌を上に向けて手を広げ、食指でテーブルの中央を指さします。

(5)右手をテーブルの下に持っていき、膝のジャンボコインを取ります。

(6)左手を右手が指さした場所に叩きつけます。そのとき右手でタイミングを合わせて、ジャンボコインをテーブルの下面にぶつけるのがいいでしょう。

(7)左手を持ちあげて掌を上に向け、空であることを示します。

(8)右手で膝のジャンボコインをテーブルの上に持って来て、そこに放りだします。

第8回                次回へ続く≫