氣賀康夫

フィーニックスコイン
(Phoenix Coin)

<解説>

 柴田直光著「奇術種あかし」P134に「紙に包む銀貨」と題する古典的手法が図入りで解説されています。一枚の紙にコインを包み、紙を左右から畳み、さらに上も折り込みます。このとき、上の部分のサイスにずれがあり、その長い部分だけを折り畳むという作戦はなかなか巧妙です。ところがここからコインを抜き取るために紙を180度上下逆にする動作がどう考えても不合理であり、賛成できませんでした。(参考図参照)
 そこでその後、同じ目的を果たすよりよい方法を開発しました。以下にその方法の詳細とそれを活用した手順の提案を記述します。

参考図

<効果>

連続写真でお示しします。

写真1
コインを紙に包み
写真2
右側を折り

写真3
左側も折る
写真4
左右の折り目を確認

写真5
裏返しして
写真6
さらに上も折り畳む

写真7
小正方形になる
写真8
コインをテーブルにぶつける

写真9
紙を締めてコインを確認
写真10
ライターを出す

写真11
紙はピンセットで持つ
写真12
火を点ける

写真13
灰皿で燃やす
写真14
黒い灰を左手にパラパラ

写真15
黒い灰が銀貨になる!

<要具>

15㎝×15㎝の白い紙を用意します。ただし、操作の便のために、まず下から半分を上に折り曲げて折り目をつけます。このとき折り目線を3㎜間隔の二本の平行線にするのが大切なノウハウです。次に左右を三等分に折りたたみ、最後に上の2.5㎜部分を下に折り曲げて、全体の折り目を十分につけてから広げておくようにします。<写真16> コインは1ドル銀貨がお勧めです。なお、灰皿の用意が必要です。さらに小道具としてピンセットとライターを用意します。

写真16

<準備>

テーブルに灰皿が用意されます。紙とコインを取り出してテーブルに置きます。術者の左ポケットにはピンセット、右ポケットにはライターが用意されています。

<方法>

1.紙を観客に手渡して検めてもらい、さらに銀貨も検めてもらいます。

2.まず、紙を左手に持ちます。このときこの後の紙の折り畳み方に折り目を合わせておくのが賢明です。<写真17>

写真17

3.右手にコインを持ち、紙の向こう側(観客側)の中央上に位置させ、それを左手拇指、中指で保持します。

4.右手を放し、その手で紙の下半分を向こう側に折り曲げます。この動作によ ってコインは紙の陰になります。<写真18>

写真18

5.左右の拇指と中指の位置を端から5㎝の位置にしておいてコインがその間になるようにすると、コインは一旦中央に収まるでしょう。このとき左右の手の四指の根元を紙の左右の端に当てておくことが大切です。<写真19>さて、ここから紙の右側を折る動作に入りますが、そのとき紙を気持ち左下がりに傾けます。その傾斜の角度は10度で十分です。すると、二つ折になった紙の中で折り目に沿ってコインが左方向に転がりますが、左手の四指の根元がストッパーの役割を果たします。なお、最初に横方向の3㎝間隔の二本の折り目をしっかりつけておくと、折った紙の底がコの字状になり、コインがよく転がります。

写真19

6.ここまで来たら、何食わぬ顔で右手を使って紙の右1/3を向う側に折り曲げて、それを右手中指で押さえます。そして、右側の折り目を右手でしっかりさせる動作をします。<写真20>なお、このときは紙をやや右下がりに構えることが大切です。その傾斜は5度で十分です。

写真20

7.ここで大切な動作が一つあります。それは右手の拇指と中指を紙の中央近くに移動してそこをよく押さえておき、コインを確保していた左手の指を紙から放すことです。前項の右傾斜を怠ると、コインがその重みで紙の左側に転がり出すアクシデントに見舞われる危険があります。この動作はコインが中央にあるということを強調する意味合いがあります。

8.次に左手の拇指、中指を再び左端から5㎝のところに戻し、その左手で紙の左1/3を向こう側に折りたたみます。そして、その左手で左の折り目を確実にする動作をします。<写真21>
これでコインを中央に位置させ左右を折り畳んだように見えますが、実はコインは最後に折りたたんだ部分の内部に位置しています。このことを観客は知りません。

写真21

9.ここで紙の左右を左右の手で持ち、念を入れて、左手で左端を上から下に向かってしごき、更に右手で右端を上から下に向かってしごきます。この動作はコインが確実に中に留まっているということを強調する役割をはたします。

10.ここでそのまま左右を入れ替えて紙の表裏を逆にします。そして最後に、上の2.5㎝部分を手前に折りたたみます。その結果、紙は5×5㎝の正方形の大きさになります。

11.ここで術者は正方形の左上隅を左手で摘まみ持ち、折り畳まれた紙をテーブルにぶつけます。すると中に隠されたコインがコツコツと音を立てるでしょう。

12.ここからの作業は、コインが中にあることさらに強調する意味があります。それは両手の指先でコインを包んだ紙を術者の方向に押しつけて、紙の表側にコインの形のしわができるようにする動作であり、観客側から見ているとコインの姿が紙に写ったのが確認できます。<写真22>

写真22

13.この作業の最後に術者は左手の拇指をコインが収まっているところにそっと差し込み、コインをそっと左に引き抜き、コイン半分くらい左側に飛び出すように仕向けます。そして左手四指の先が紙に左端ぎりぎりの位置になるようにコインと指の位置を調整しておきます。<写真23>

写真23

14.観客に向って話かけます。「さて、ご覧のとおり、コインを紙にくるみましたが、これからこれに火を点けるとどうなるか実験をしたいと思います。銀の融点は960度と高温ですが、280度以下で加熱すると銀は燃焼により酸化銀に変化します。この実験のためには手が足りませんが、お客様のお手をお借りしてもよろしいでしょうか。」これに対して観客は気軽に「いい」と応えるでしょう。

15.さらに続けます。「仕事は二つありますが、一つは燃える紙を持っている係であり、もう一つは紙にライターの火を点ける係です。どちらをお引き受けくださいますか。」この質問には誰でもがライター係を選ぶでしょう。

16.ここで術者は右ポケットからライターを取り出して観客に手渡します。

17.そして「燃える紙を手で持っていると指を火傷しますから、ピンセットを使うことにいたしましょう。」と言います。

18.ここで、術者は左手の拇指でコインをフィンガーパ―ムの位置まで引き、一方右手で紙を持ってそれを右方向に引きます。するとコインは自然に左手に残りますから、それを左ポケットに入れ、コインをそこに一旦置いてピンセットを持ち、手をポケットから出して来ます。そしてそのピンセットに紙を挟み、観客にライターでそれに火を点けてもらいます。

19.燃えているとき、ピンセットの向きを調整し、紙が縦になるようにするとよく燃焼します。そうしたら、紙が燃え尽きる直前に燃えている紙を灰皿にそっと置きます。紙は灰皿の上で完全に燃え尽きて灰となるでしょう。

20.ピンセットをテーブルに一旦置き、ライターを返してもらい、それを左手に持ちます。

21.左手でライターを左ポケットにしまい、その左手にコインを再びフィンガーパームに隠し持ってポケットから出します。その手で灰皿を持ち、右手にピンセットを持ち、ピンセットの先で灰をかき回しつつ顔を曇らせてみせます。これは芝居ですが、コインが無いのが意外だという表情です。「コインが残るはずでしたが、思ったより火が強く銀貨もよく燃えてしまいました。しかたがありません。この黒いのがその酸化銀です。この粉末を少し採ってみます。」と言い、ピンセットで紙の燃えカスの灰を少し採り、左手を握りこぶしにしてその上からかけます。

22.左手の掌を上向きにして四指を半開きにします。コインは薬指の根元のフィンガーパームの位置に隠されています。<写真24>ここでさらにピンセットで灰を採り、それを左手の上10㎝くらいのところからぱらぱらと落とすようにします。左手を一旦ぎゅっと握ってそれを一杯に広げます。

写真24
写真25

このとき握る動作でコインが掌部側に自然にパタンと倒れるので、手を一杯に広げると、コインが掌の真ん中によく見えます。<写真25>それを確認したら、そのコインをテーブルの上に滑り落とします。最後に「コインが不死鳥のように灰の中から生まれかわりました。」と説明します。

<注記>
この奇術と「コウンとコイン」について共通の考察に触れて置きます。それはスリットという種を用いる方法です。この奇術を例にとると、紙の底の部分に巾5㎝の切り目をカッターで作っておくという作戦です。この奇術の原案は、古典的な紙を逆さにする方法を改良し、側面からコインを抜く方法を採用しているのですが、スリットを用いるとコインを真下に抜くことができます。スリットを用いる場合には、紙を検めるとき切れ目が目立たないようにすること、その後のハンドリングでは指先で紙とコインを一緒にしっかりと挟み持つことです。そうしないとコインが下に出てきてしまいます。そして、コインを抜くには指の力を緩めるだけであとは引力が仕事をします。抜けたコインを自然な手で保持する配慮することも大切です。

第22回                 最終回