古川令

カードの捨て場

 今回はミリオンカードでの道具(捨て場)について述べてみたいと思います。一般には帽子や箱などがよく使われますが、必然性のある捨て場は何かとまで考えると意外に難しいと思います。

 捨て場を使わずにカードを床に落とす人も多いですが、カードが踏まれるのではないかと気になってしまいます。捨て場と床の両方に捨てるのは、動きの中でカードが踏まれる確率が高いだけでなく、いかにもマジシャン(手順)の都合という印象が強く、個人的には好きではありません(誤解のないように補足すると、噴水カードや、客席へのカード飛ばしなどまで否定するのではなく、捨て場に捨てれば良いカードを、わざわざ床に捨てる事には違和感があるという話です)。

 私の学生時代には、床に逆さに広げた傘の中にカードを落とすというのが流行っていましたが、その由来は不明です。カードが雨のように降ってくるというイメージからかとも思いますが、単に傘はポータブルで受け口が大きいという事からかも知れません。

 少し粋な演出と思ったのは、私の1年先輩の発表会の演技で、中割幕が少し開いて相合傘のカップルが登場、雨があがったというジェスチャーで女性が傘を床に置き(幕後に消え)、残った男性が、その傘の上にカードを落としていくという演出でした。

カードは3層構造です。
アピアリングテーブルと
トップハットの組み合わせ

 カードの捨て場に必然性を持たせる演出というのは、残念ながら、ほとんど見た事がありませんが、オーソドックスに演じるならトップハット(シルクハット)と思います。シルクハットはマジシャンのイメージですし、出現した帽子にカードを落としていくというのは、演技の流れとしても悪くは無いと思います。

 私の学生時代は、実際の正装の際に着用するトップハット(3万円近い高級品)しかなく、入手も困難でしたが、今ではマジック用に安価なものが買えるようになりました。カードファンがシルクハットになる商品がありますが、それ自身をマジックとして演じられるだけでなく、服の中に入れられるほどハンディな点が気に入っています。

 私のFISMのコンテスト手順は、何もないステージに歩いて登場して、アピアリングテーブル、続いてカードのファンをシルクハット(売りネタ)にして捨て箱にしてから演技を始め、最後は両手ジャンボカードのファンを空中に投げ上げて、歩いて退場するという手順で、写真のように非常にコンパクトです。

私がFISMのコンテストで実際に使った道具一式
(カードのトップハット、アピアリングテーブル、ジャンボカード、
レギュラーカード2箱:ミリオンカード用とブーメランカード用)
FISMのカバンに全部入ります。

 蛇足ですが、コンテスト手順では“ど派手さ”が必要という事をFISMで痛感させられ、その後、マンモスカードのプロダクションを手順に加えたのが、テンヨー大会などで披露させて頂いたフル手順です。マンモスカードを角度に弱いパームなどを使わずにプロダクションするのですが、大きな問題はカードと捨て場が嵩張り非常に重くなってしまう事で、閉口しています。

 出身大学のクラブには創世期からのコーチの方がおられます。その方から頂いた言葉に「沢山のカードを使って、沢山に見せるのは誰でもできる。少ないカードを使って、いかにも沢山出現したように見せられるのが本当に上手な人である」という言葉があります。私の基準の中では、「使うカードは少ないほど良い」というコーチの言葉に加えて、「道具もコンパクトなほど良い」さらに「セットや片付けが簡単なほど良い」というのが、重要な要素として加わっています(笑)。

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