古川令

フロントパーム

 前回のバックパームに引き続き、ここではフロントパームについて私の方法と考えを書いてみます。 まず、私が考える理想のフロントパームに必要な条件は以下の通りです。

  • 多数のカードを安定に保持できる
  • 観客からの視線の角度に強い
  • 自然な手の形で、出現させたカードも自然な形である事
  • 汎用性がある

(同じポジションから、1枚だし、ファンプロダクション、インターロッキング・プロダクションへの移行などが可能)


 私の場合にはあまり手が大きくないので、必然的にカードのバックが手のひら側となり<写真1>、観客の視線をカバーできるカードの位置も写真の位置に限定されます。 このポジションであれば、比較的角度にも強く、フルデックでも簡単に保持できます。 従って、フロントパームの場合には、パームの位置や方法に選択の余地はなく、この写真のポジションからの各種プロダクションの方法を検討するという手順になりました<写真2>

写真1
写真1
写真2
写真2

 4番目の条件である「出現させたカードの自然さ」について少し補足をしておきます。 <写真2>は私が行うフロントパームからの1枚出しを前から見たところです。 マジックに関係なくカードを持つ場合、普通は指先で縦に持つと思うので、一枚出しの場合もカードを縦に出すべきと思っています。 ファンプロダクションの場合にも、ファンの表も裏も見せられるという点にこだわっています。

 フロントパームがバックパームに比べて観客からの視線の角度に強いと言っても、意外に弱いのが上下からの視線で、これが問題になるのがビデオです。 最近はカメラの性能が良くなったために、客席の最後部からビデオ撮影がされる場合が多いですが、最後尾からでは、肉眼では距離的にも絶対に見えないはずのパーム漏れが、解像度の高いビデオでは見えてしまうというケースがあります。 カメラの性能が良くなるのも良し悪しというのが私の印象で、上からの視線に対して物理的にカードを見えなくするには、<写真2>のように,親指に少し力を入れてカードを押し曲げる事でパームの漏れを少なくするという対策で対応しています。

 フロントパームで大事な事は、パームの手だけではなく腕の位置と雰囲気です。 パームした手が「腰の位置で固まっている」場合には、パームは見えなくても「不自然な気配」が観客に伝わってしまいます。 すべての技法にも共通するのですが、腕や手首の脱力感など、自然なリラックス感を如何に醸し出すかが、最大のポイントです。

次回は、基本技法でありながら非常に奥が深いファンプロダクションについて書いてみます。


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