古川令

フラリッシュについて

 ミリオンカードと言えば“華麗なカードテクニック”という事で、当然ながらカードのテクニックが基本です。ただし、小手返しやマニアックな出現方法などでテクニックを全面に出すのではなく、「テクニックはあくまでマジック以外の部分で見せるべし」というのが持論です。手順の中で、いろいろなカードの出現方法を見せるマジシャンもいらっしゃいますが、私が見るポイントは、出現するカードの不思議さと美しさであって、マニアックなカードのプロダクションなどにはあまり興味はありません。「カードの出現はあくまで不思議さを追求し、技術を誇示したい部分はフラリッシュで追求すべし」という意見です。

 細かく言えば、見せる技術の追求にも2種類あると思います。ひとつはファンを開いたり、閉じたり、シャッフルする部分など、マジックとしての現象以外で見せる部分です。例えば、さりげなく帽子に投げ入れているカードが一枚もこぼれないといった見せ方が、私の好きな「テクニック」の見せ方です。そして2つ目が所謂フラリッシュでのテクニックの積極的なアピールという事になります。今回私の実際に行っている、ブーメランカードとアームスプレッドからのキャッチフラリッシュについて紹介します。

アームスプレッド
写真1

アームスプレッドからのキャッチでは、ダイナミックさがパスのミスディレクションになる事は前回述べました、
多くのマジシャンは右の写真のような状態から、逆の手で上から下にカードを取りにいくと思います。しかし私の場合には、受ける右手は上に高く伸ばした状態のまま、その右手の中にカードを投げ入れる(右手は動かさない)というような見せ方です。 たまたま誰の演技も見た事がなく、現象だけ聞いて自分で練習した結果です。最近はDVDやYoutubeなど、本よりも映像からマジックを知る事が多いと思いますが、人の演技を見ない方が良い事もあるという例です。

写真2
写真2

写真3
写真3

 ブーメランカードは、私の手順の最初の山場です。早い時期に拍手が貰える現象を入れておくと、後々拍手が得られやすいという効果があります。しかも、効果はそれだけではない事を最後に書きます。

 カードの飛ばし方は簡単で、<写真2、3>のように、親指でカードを弾くと、人差し指の付け根を軸に回転しカードが飛び出します。親指の爪は短めにすると良いでしょう。客席には飛ばさずにカードはシルクハットに受けます。技法そのものはオリジナルではありませんが、戻ってくるカードをシルクハットでキャッチしやすいように、内緒の工夫はしています。

 背面から飛ばすと、ブーメランのように、カードが戻ってくるのが判るので、確実に観客のどよめきが得られます。実はこの事が、ジャンボカードの土星カードの布石になります。
 いきなり土星カードでは技術かトリックか判らないと思いますが、それまでにブーメランカードを演じる事で、観客に「回転するカードは、ブーメランのように戻る」という概念を植え付ける事ができます。実は、ウソのようなホントの話として、「初めて仕掛けの無い土星カードを見ました!」とプロマジシャン(スライハンド系ではありませんが・・)に言われた事があります。自慢話をしたいのではなく、先入観が如何に大事かという事です。テクニックで勝負するより、サトルティで勝負する方がクレバーでしょう。

写真3
写真3

 ブーメランカードをされる方はご存知と思いますが、カードに少し反りがある方が、カードの戻りが良くなります。しかし、ステージで飛ばす前に反りをつけるのはちょっと品が無いという事で、私は写真のような立体ファンを見せる事で適当な反りをつけています。このファンは、最近はほとんど見ないので、オリジナルと間違われる事がありますが、古くからある技法です。

 最後に蛇足ですが、体を回転させない土星カードというのは、私が知る限りにおいて、世界で最初に私が演じました。シンプルで完成度が高いので、大学の3年以来その見せ方に改良の余地は無いと思っていましたが、ついに昨年、進化させる事に成功しました。ミリオンカードは、本当に奥が深いというか、なかなか出口が見えません(笑)。


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