古川令

スピン&ファンプロダクション

 空中にスピンさせて投げ上げた1枚のカードをキャッチして、すぐにファンが出現するというオリジナル。適当な名前が思いつかず、スピン&ファンプロダクションと名付けました。最も一般的になった私のオリジナルが土星カードなら、ミリオンカードへのこだわりを最も反映できたのがこの技法です。学生時代には思いつかず、就職してから3年後頃に開発しました。
 無理をしなければ、連続してスピンさせた後でファンの出現も可能です。究極の見せ方は、左右の手からそれぞれ1枚のカードを空中で交差するように投げ、それぞれ逆の手でキャッチして両手にファンを出現させるというもので、FISMの手順ではこれがフィニッシュの演技でした。

 方法は極めてシンプルで、1枚のように出現させたパケットのカードを、そのまま1枚のカードのように空中に回転させながら投げ上げ、キャッチしてそのままファンにするというものです。よく仕掛けがあるカードではないかと言われますが、基本的にカードに仕掛けはなく、クロースアップでも見せる事ができるのが特徴です。

 カードマニピュレーションで、複数のカードを1枚のように見せる方法はいくつもあります。しかし、ほとんどの場合、カードの持ち方や動きが微妙に不自然に感じます。小手返しの改めを行うと、例えカードが見えなくてもパームを示唆してしまうように、1枚のカードの扱いが、ほんの少しでも不自然なら、その事が複数のカードを保持している事を暗示させてしまい、その結果、マジックとしての“不思議さ”は無くなるというのが私の見方です。

投げるカードの持ち方。
投げるカードの持ち方。
手首のスナップで回転させます。
(私は左利きなので左手の写真です)。

 そこで発想を変えて、“複数のカードを1枚に見えるような見せ方”を練習するのではなく、“一枚のカードである事の自然なアピールと全く同じ動きを複数のカードで行う事”を目指しました。1枚のカードでのごく自然な扱い(無意識のアピール)は、カードを空中でスピンさせる事かと考え、とりあえずパケットをスピンさせてみたら出来た!というのがこの技法の開発秘話(?)です。

 たまたま出来たとは言っても、それこそ最初は怖る怖るで、スピンの回転数や投げ上げる高さなどは、その後少しずつ改善されました。最初は写真のようなブーメランカードのポジションから投げて成功したので、カードの持ち方が重要と考えていましたが、他の持ち方やジャンボカードでも出来るので、カードの持ち方については厳密ではなくコツだけです。
 この技法ではキャッチしてすぐにファンにできるところがミソですが、ほとんどの場合、カードの短い辺が手のひら側でキャッチでき、すぐに押し出しファンができます。これは、カードの回転が見えているのではなく、おそらくカードが長方形という事によるものと推測しています。

 私のカードの加工はワックス(蝋)ではなく、ファンニングパウダーですが、粘着性のあるワックスの方がこの技法は簡単です。ワックスを塗ったファンカードを回転させて投げ上げると、意外にバラバラにはならない事は誰でも体験できると思います。
 慣れてくると、クロースアップ用のカードでも可能で、1枚(4枚)のカードを投げ上げてキャッチし、いきなりフォーエースの出現などといった横着なオープニングマジックも可能です。
 レギュラーカードの場合には、カードに隙間が無い事と、軽く反りがある方が安定するという印象です。ワックスを塗ったジャンボカードの場合には、カードに粘着性があるので、カードが歪みが無く揃っておれば、カード全体の反りはあまり関係ありません。

 私の手順では、ブーメランカードのフラリッシュだけでなく、プロダクションの合間にも、出現させた1枚のカードをスピンさせるという場面を何度か入れています。これには、カードを投げたり受けたりする自然な動作でカードのパームをカモフラージュする目的もありますが、実は後で行うこの技法のための布石でもあります。このようなサトルティが散りばめられて心理的な効果が期待できる手順が、ミリオンカードに限らず他のマジックでも良い手順と考えます。

 ≪ ラビリンス タイトルの変更             ジャンボカード