古川令

衣装について

 学生時代にマジックサークルのコーチに教わったステージ・マジックの5大要素は、 重要な順に以下の通りで、「4番目まで揃えば、5番目はなんとかなる」というお話でした。

1.服装
2.音楽
3.照明(音楽と照明はほぼ同レベル)
4.顔
5.手品の腕

最初はジョークかと思ったのですが、「ミュージカルなど、マジック以外のショーを勉強しなさい」 「ダンスのステップを習いなさい」とか、 「もし、アラン・ドロンがマジックを演じたら・・」などの話を伺っている中で、 その言わんとする意味が判った次第です。
服装が音楽・照明よりも上なのは、「第一印象の重要性」によるのではないかと解釈しています。

 その服装についてのコーチのお考えは、「舞台で一番綺麗に見える色が白と黒」であり、 「シンプルな黒い衣装で光り物はつけない」というのが基本でした。 確かにズボンのベルトのバックルが光るというのは最悪です。 また学生は学生らしくという事で、阪大では鳩の演者も燕尾は着ずにダークスーツというのが伝統でした。
 従って、ミリオンカードの衣装はブラック・スーツか黒のフォーマルというのが結論になります。 もちろん、何かの演出に合わせた服装というのもあるかと思いますが、 鳩とカードは黒のフォーマルがスタンダードと思います。 スタンダードの形があるマジックというのは、流行歌に対するクラシックみたいなもので、 時代や流行に関係なく演技が出来るという意味で大変素晴らしい事と思います。



30年以上も使っているタキシード

 私の衣装は、学生時代は安いブラック・スーツ(当時は誰もタキシードなど着なかった)でしたが、社会人になると見栄えが良いタキシードが着たくなり、就職してすぐに誂えました。当時22万円でしたが、自分の披露宴での貸衣装代が浮きましたし、何と言っても30年以上も使っていますので十分元は取りました。 さすがに生地の痛みもあって、そろそろ新調する時期です。しかし舞台では細かな部分は見えないと考えると、あと10年位使えそうな気がしますし、なによりいろいろな思い出、愛着があるだけに悩むところです。ステージの衣装を誂えるメリットは、内ポケットなどを自由なサイズで作れる事だけでなく、多少体型が変わっても、マチが多いので仕立て直して長く着られます。

 “色は、「黒」をバックにした「白」が一番映える”という考えは、その後の多くのステージを見た今でもそのように感じており、結果として私のマジック感に大きな影響を与えています。
最近のミリオンカードでは、色付きのカードを使う手順が流行ですが、黒のバックで白がべストと考えると、それを他の色に変える事への魅力を私はあまり感じません。もちろん、「色が変わるのが不思議でビジュアルである」という考え方もあり、色の変化を見せるファンカードも否定はしません。ただ、私は、「色が変わるマジック」と「無からの出現マジック」とどちらを志向するかというと、私は迷わず後者だという話です。従って、私のカードの手順は、大学の発表会の初舞台から、カードのプロダクションのみの構成でファンカードは手順から外しています。 ペイントの演技で色変わりといったアレンジもありますし、カードを花びらなどに見立てるような演出はアリと思います。しかし、銀鳩の羽を染めて、シルクと同じ色のハトが出るというマジックは、色についての意味づけはありますが、今後も主流にはならないと思います。その理由は、やはり本来の色が一番美しいという事ではないかかと思います。  鳩と違って、色のついたトランプもありますが、トランプのイメージといえば白だと思います。また、一般にマジックショーではカラフルなシルクなど華やかな演技が多いと思いますので、その中で、モノトーンのカードマニピュレーションは、どのような演技とも相性が良いというメリットがあります。

衣装の話が脱線して色の話になってしまいましたが、衣装のポイントと考える事を最後に書きたいと思います。衣装において一番大事な事は、何を着ているかだけではなく、“その衣装での立ち姿が美しいかどうか”だと思います。馬子にも衣装と言いますが、正しい着方がベースで、さらに品とか風格も含めての「衣装が一番大事」という話でした。

 ≪ オリジナル・カードについて            BGMについて ≫