古川令

先入観の利用ついて(3)

 先入観について書き出すと、いろいろ筆が進みますが、あまり馴染みのないマニアックな事ばかりでは面白くないと思いますので、多くの方が演じておられるファンカードにおけるフラリッシュのアームスプレッドについて書いておきます。

 私は大学の奇術サークルに入るまで、ファンカードは憧れのテクニックでした。昔はファンカードでファンにするだけでも拍手がもらえましたし、当時の学生のミリオンカードの演技では、最初は両手にパームした状態からカードのプロダクション、後半にファンカードで終わるという手順が一般的でした。しかし、いつの間にか観客の眼が肥えて、今ではファンカードだけでは拍手がもらい難くなりました。しかしそれでもアームスプレッドなどのフラリッシュは今でもウケる現象だと思います。「非常に難しそうに見えて実は簡単」というのがマジシャンから見て良いフラリッシュと思います。

 私はアームスプレッドしたカードの一部をターンオーバーして投げ上げてキャッチする現象が好きで、実際に手順にも入れていますが、大きな理由は「難しそうに見える」からです(そして、その結果その後の秘密の動作(パス)がやりやすくなります)。 腕に広げたカードを半分ターンオーバーした状態にするだけでも難しそうで、それをさらに投げてキャッチするのは非常に難しいという錯覚(先入観)がありますが、実は「カードをターンオーバーする事で非常にキャッチしやすくなる」という事が今回の書きたいポイントです。

 写真で言えば、少し前方に投げてキャッチする場合、手前側のカードは右手の中で自然に揃います。したがって両端のカードが手の中でキャッチできれば、結果として全てのカードがキャッチできます。コツとしては、少し前に投げる感じで投げると比較的簡単にキャッチできます。

 実はこの技は、最初に現象を聞いた話だけで練習したもので、マスターするまで実際の演技の場面を見た事がありませんでした。従って、最初はかなり長くアームスプレッドして苦労しました。実はスプレッドの長さは観客にはほとんど判らないので、どんどん横着になって写真のように短くなりました。ファンカードで練習される場合には、もっと短い長さから始めれば簡単にマスターできると思います。

 なお、私の方法で特徴的なのは、受け手の右手の腕を伸ばした状態の高い位置でキャッチする事です。たまたま、現象を聞いた時に上に投げ上げるものと思いこんでいたためで、TVでプロの方が、上から下に受ける手を動かして床に落とさずにキャッチするという見せ方を見た時には逆に驚いたものです。今の若い世代はYouTubeなどで映像から入るので、このような事は無いと思いますが、昔は本で読んでも現象がイメージできないマジックは沢山ありました。例えばオーディナリーパームを使ったコインバニッシュのような基本技法ですら、文字と絵ではとても不思議さのイメージも理解もできませんでした。

 今回のフラリッシュは、私が現象を先に見なかった結果として、ダイナミックなフラリッシュになりました。お陰様で若い頃はこれだけでも大きな歓声を頂きました。しかし、最近はマニアックなプロダクションも増えたためか、以前ほどの歓声は無くなったような気もします。ファンカードだけでは大きな拍手が得られなくなりましたし、マジックの世界でも常に進歩が求められているのでしょう。

先入観の利用ついて(2)   ファンニングパウダー用の新容器