古川令

心地よさについて

 私はマジックにおける大事な要素に、「楽しさ」「心地よさ」があると思います。もちろん、不思議さは必要条件ですが、ここで書いてみたいのは「技術に基づいた不思議さによって醸し出される楽しさ、心地よさ」です。

 例えば、ブラックアートが使えるような暗い照明の中では、如何に不思議な現象を見せられても、何か「もやもや感」が残ってスッキリしない印象が残る事があります。また、学生マジックなどでも、音楽が耳障りに感じたり、激しい照明の変化に疲れたりする事があります。演技でいえば「どうだ」という見栄や、観客への拍手のアピールなども好きではありません。個人の好みでしょうが、石田天海さんのように、笑顔とさりげない動作の中で、びっくりするような現象がおきる演技が好きです。

 観客は不思議さに圧倒されるとどよめきますが、その中に笑いもあると思います。それは、タネが判らない不愉快さではなく、不思議さを心地よく楽しんでいる状態と思います。そのような演技には、観客の予想を超えるような不思議な現象だけでなく、明るい照明、楽しいBGM、力みのない自然体での演技などがポイントと思います。

 最近のカードマニピュレーションは進化して、ネタを使ってあり得ない出現現象を見せる、いわゆるインポッシブルプロダクションの時代になってきました。実はインポッシブルプロダクションを見せられる前には、私もそのような現象を見せたいと思っていました。しかし実際にそれをブラックアート的に見せられると、どうしても、ネタが気になってしまい、少なくとも私の場合には心地よさは感じず、結果としてスライハンドマジックとしての感動にはならないのです。 ジャグリングがマジックショーの中で非常にウケるケースも多いですが、ジャグリングは純粋に技を見て楽しめるからではないかと考える次第です。

 蛇足ですが、いつまで経っても無くならないのが種明かし番組ですが、私はそれも心地よさが関係していると思います。即ち、多くの視聴者が、タネが判らない事にストレスを感じていて、種明かしが無いと気持ちよさを感じられないのではないかとの見方です。それは裏返せば、心地よさの不足ではないでしょうか。ランスバートンの鳩の演技でタネを知りたいという気持ちが湧いてこないのは、その心地よさにあるというのが持論です。見終わった後、BGMを口ずさみたくなるような演技は本当に良い演技だと思います。

コンテスト照明について        吉峯昭二コーチ