古川令

FISM Korea 2018

 FISM Korea 2018が終わりました。 残念ながら入賞できませんでしたが、大変多くの皆様からの暖かい多大なご声援を頂きました事、改めて御礼を申し上げます。私自身は次のテーマがクリアになって落ち込み感はありませんが、今回のステージほど皆さまのご声援を感じ、そのご期待に添えなかった事が残念だった事はありません。コンテストに興味を持つ方のご参考になるかどうか判りませんが、ここでは舞台裏的な部分を書いてみます。

 私のコンテスト手順は観客の反応の割にスコアが伸びませんが、その主因は演出面にあると考えています。そこで今回のFISMではミリオンカードの集大成を目指し、演出面を考慮して、BGM、衣装、道具などを新しくして臨みました。

 私にとっての最大の変化(課題)は、かけっぱなしで最後はフェードアウトだったベンチャーズのBGMをFISM予選から曲ピタのBGMにした事です。残念ながらお名前は書けないのですが、有名なミュージシャンの方が私の過去の演技に合わせてBGMを編集して下さいました。大変素晴らしいアレンジで、起承転結に合わせてはっきりと曲が変わるのではなく、全体に流れのある曲のつなぎの中、一枚出しの間に曲やテンポが変わるなど、プロの発想と技術の奥深さが味わえました。

 その一方で私にとっての大きな課題(問題)は、今まではその時の調子や観客の反応に合わせてアドリブ的な見せ方で30秒位は前後していた演技を、演技の途中も最後も音楽にぴったり合わせる事でした。BGMの勝手な編集は許してもらえなかったので、新しい現象を入れるには、他の部分をカットして音楽に合わせる苦労もありました。

 たまたまなのか、そこまでのお考えだったのかは分りませんが、BGM(4曲)のメインの曲が、マリリン・モンローの”Diamonds are a girl’s best friend”というダイヤモンドをおねだりする曲でした。何度も聞いていると、“Diamonds!、Diamonds!”のメロディーに合わせて、後半の左右4回のファンを全部ダイヤのカードにするアイデアが浮かびました。ミリオンカードで、BGMの歌詞に合わせた演出というのは見た事が無く、レギュラーカードの部分はある程度犠牲にしてもFISMはこれで勝負と決めていました。

 衣装はワインレッドのドレスシャツの袖まくりでブラックアートやスティールを使わない事のアピールとし、捨て場のトップハットも衣装に近いワインレッドの生地に張り替えました。私の場合、照明はとにかく明るくするしかありません。

 FISMのような大会では、独自性がある突き抜けた現象が必要です。私がアピールしたかったのは両手マンモスカードだけでなく、ファンプロダクションに代表されるこだわりのミリオンカードの部分もありました。しかし、カードの出現をBGMのリズムやタイミングにあわせようとすればするほど、ちょっとした間での効果的な見せ方が難しくなりました。1年以上頑張りましたが、結局そこは妥協して新しいBGMの効果に期待をしました。

 
 

 肝心の本番では、残念ながら信じられない不具合もあり、レギュラーカードの部分は不本意な結果でした。その後開き直ってのマンモスカードはお蔭様で大歓声、最後にスタンディングオベーションも頂きましたので、一応形だけは整いました。

 写真家のArto Airaksinenさんからは、「何十年もFISMで撮っているけど、君のような演技は見た事ない」「何で入賞しなかったか、私は信じられない」とまで言って頂きましたし、会場で写真やサインもそれなりに求められたりした事から、マンモスカードについてはオリジナリティなど十分アピールできたと思います。

 

 そのマンモスカードのパートで残念だったのが、歌詞に合わせてダイヤのカードのファンを連続して出現させた演出にほとんど気づいてもらえなかった事です。「FISMという場で、あれだけ盛り上がったから良いではないか」と言って頂いても、「それはそれ、これはこれ」と言うのが正直な心境で、自分でも不思議な位FISMの事は忘れて次の事しか考えていません。

 私が今回のFISMで感じた事は以下のような点です。

  • ステージ部門では、照明や音楽など演出の影響、効果が圧倒的に大きい(今回のグランプリのミゲル・ムニョス(天井から水)やマニピュレーション1位のフロリアン・セインベ(衣装のLED、イリュージョン)の演技を見ても、完全に演出の勝利でした)。
  • コンテストの暗めの照明では、ブラックアート的見せ方や、カードや紙吹雪を床に散らす方が捨て場に捨てるより華やかに見え、スモークなども演出的な効果も大きい。
  • ライトの色が変えられるだけでなく、音楽に合わせて角度を動かしたり、パターンを変えられる事からも、今後はプロジェクターの利用も含め、ステージでは演出の重みがさらに増す。
  • カードケースから取り出したカードだけでの約4分の私のレギュラーカードのパートは、自分が追求する見せ方ときっちりBGMに合わすという事は水と油。中途半端な妥協は禍根を残す。
  • パーラーマジックは、見方によれば小さなステージマジックのサイズ。音響や照明での演出効果は出しにくく細かなテクニックが伝えられるという事から、演出に頼らないクラシカルなスライハンドに向いている事を再確認。
  • FISM本戦では、アシスタントをつければ演技に合わせた曲チェンのキューが出せる(予選ではダメ)。それなら前半をアドリブの演技で行い、最後だけ曲ピタの手順も可能となる。
  • 観客は、BGMの歌詞はほとんど聞いていない。

 今やステージだけでなくクロースアップでも、ブラックアートやメカが台頭してきています。CGと疑うほどの超不思議な現象も良いですが、私はマジックの世界でも古き良きスライハンドを見直すルネッサンス的な見方があっても良いと思います。 私が子供の頃にあこがれたスライハンドマジックには、変な圧倒感、もやもや感もなく、テクニックで醸し出される「楽しさ」がありました。ブラックアートやメカを否定しませんが、私が見せたい、見たいマジックは古き良きスライハンドの現代版(ルネッサンス)です。蛇足ですが、ルネッサンスの前の時代は「暗黒時代」と呼ばれていました。

 今回のFISMは自分にとって節目になる特別なコンテストになると思って臨みました。マンモスカードの完成形は披露できましたが、残念ながらスライハンドへのこだわりは伝えられず、結果として単にひとつの通過点でした。
 以前に御園座の大きなイベントでの失敗から両手マンモスカードのアイデアが生まれたように、今回も大きなステージでの失敗から課題解決の手がかりを掴んでいるので、私の挑戦はまだまだ続きます。そしてこのラビリンスのコラムも続きます。

起承転結(3)