古川令

石田天海さん

 私は、石田天海さんの演技はアメリカの友人からもらったビデオなどでしか見た事がありませんが、大学のサークルで習った事の多くは天海さんの流れである事がビデオを見て判りました。例えば、スライハンドの基本として習ったシガレットの手順は天海さんが行っていた技法でした。

 ビデオでの天海さんの演技で特に親近感を感じたのが、その穏やかな演技スタイルでした。私は学生マジックなどでよく見られる、自意識の強い見栄をきるような演技が好きではありません。スライハンドマジックは、決して演者が挑戦的、あるいは自己満足的にテクニックを見せるのではなく、テクニックを表に出さずに如何に観客を楽しませるかが大事と考えます。そのために大事なのが笑顔と考えています。


 私が舞台での笑顔について考えたきっかけは、1年生の秋に初めての部内の発表会でのステージの後でした。結構テクニックにも自信があったのですが、ステージでは手が震えながらの情けない演技で、フラリッシュのカードも落とすなど散々な悔過で落ち込んだのですが、ある先輩から「失敗した時の表情は自然で良かったよ」と言われた事からです。失敗も笑顔でリカバリーできるならと、自然な笑顔や表情の作り方はずいぶん練習した事は良い思い出です。

 自然な笑顔を作るには気持ちも顔の筋肉もリラックスする事がポイントです。学生時代は出番の前に顔の筋肉のマッサージもやりました。緊張するステージで笑顔が作れるようになると、不思議と手の汗も震えも少なくなり、パームした手もリラックスしてきました。実際のステージでは、必ずしも本人は楽しくない場合も多々あるのですが、楽しそうだったと言われるのは、まさに笑顔の練習の賜物です。決してテクニックを自慢しない自然体で演じる自分のスタイルの始まりは、このように無理やりでも笑顔を作る事からでした。

 天海フォーラム(2015年)のパンフレットの天海さん、素晴らしい笑顔と思います。ビデオで見たステージの表情もこのような和やらかい雰囲気でしたが、パンフレットでより鮮明な写真を見る事ができてうれしく思いました。

 蛇足ですが、私と天海さんで見解が違うのは、カードのインデックスについてです。天海さんは、ファンのインデックスが見えるように、左利きなのに右手でファンプロダクションをされていました。その天海さんの理論からか、大学の先輩からも右手でファンプロダクションを勧められました。
 しかし私は、そもそもミリオンカードは両手で行うべきである(右手でファンプロダクションを行っても、左手のファンはインデックスが見えない)事と、そもそもステージではカードのインデックスまでは見えないという考えです。従ってファンプロダクションは5枚のファンで十分という意見です。
 そのインデックス問題も今はフォーインデックスのカードで解決され、サロンでも気にする必要は無くなりました。カードも薄くなり、今の時代は恵まれていると思います。

フロア対策        年齢とともに難しくなる事