古川令

年齢とともに難しくなる事

 マジックを学ぶきっかけは大学で奇術研究会に入会した事でしたが、その当時と還暦を過ぎた今との違いが今回のテーマです。結論から言えば、大きな違いは上達への勢いの衰えとダメ出しの少なさです。

 大学1年の夏合宿で初めてミリオンカードを教えてもらい、2年の秋にはレギュラーカードの自分なりの技法は開発し、3年でジャンボカードのプロダクションの方法を考案しました。考えてみれば、大学の3年の発表会までに大半の技法は完成し、それ以降で明らかなオリジナルとして開発できたのは、カードスピンからのファンプロダクション位です。 最近、今までにないタイプの新たな技法のアイデアは湧いてきたのですが、脳のイメージと指先の動きのギャップは大きく、悲しい位に進歩がありません。練習での集中力が続かなくなっているのかも知れませんが、とにかく技法の開発にとても時間がかかるようになった事を痛感させられます。テクニックに関して言えば、習い始めの勢いのある時期に一気に上まで突き破る事が大事なように思います。

 またテクニックの衰え以上に感じる事は、厳しい意見や本音の意見が聞けなくなった事です。この歳になると、学生時代と違って過分に持ち上げて頂く事が多く、厳しい意見を頂く事はほとんどありません。出来の悪い演技で落ち込んでいる時には救われる事もありますが、指摘を頂けなければ、自分で気付かない事が改善されない事になります。
 例えば、ファンプロダクションの手の位置が後ろにならないように、ファンの裏が見える手の位置を心掛けているのですが、それがファンの裏を見に行っているようで気になるとの指摘で受けた事がありましたが、それは自分の映像を見ても判りませんでした。まだまだ改善すべき点は多々あるはずですが、それを指摘されない事で進歩が無くなるというのが、私のような我流マジシャンの問題、あるいは限界なのかも知れません。従って、積極的に意見を求める姿勢がより重要になってきたと感じます。

 今回は適当な写真が無かったので、先輩やコーチからのダメ出しをエネルギーに変えていた、懐かしい学生時代の発表会の写真をアップしました。このジャンボカードのファンプロダクションは、今のマンモスカードの方法の原案を発展させたものです。
 この当時、もうちょっと頑張っていたら、全く違う世界があったはずと思いますが、当時はコンテストなどほとんど無く、大学の発表会が終わればステージマジックはおしまいという雰囲気の中で、自分で満足してしまったのでしょう。

 「もう十分」と思ったところから、さらにあと一歩、あと半歩の頑張りができるかどうかが、壁を突き抜けるための鍵だと思います。そのためには、伸び盛りの時に常に目標を高くしておく事が大事と思います。また、「もはや、ここまで」と諦めたらそこで終わりでしょう。一方、まだやりたい事があるかぎりは伸びしろがあるはずで、年齢を言い訳にせずに頑張りたいと思います。

石田天海さん        カードのバックのデザインについて