古川令

IBM(1997年)のコンテスト

 セントルイスに来るまでは、マジックのコンテストなどは考えた事がありませんでした。しかし、地元のマジックショーでの共演者が、「コンテストで受賞した演技(prize-winning act)」などと華々しく紹介される姿を見て意欲が湧き、結局セントルイス駐在中に3度マジックのコンテストにチャレンジしました。40才を過ぎてからのチャレンジで、自慢できるような賞を頂いた訳ではありませんが、今後コンテストにチャレンジされる方の参考になるかも知れないと思い、経験談を書かせて頂きます。

 出場するからには受賞できる大会が良いのですが、今さらゲスト出演したミッドウェスト・マジック・ジュビリーのコンテストとはいかず、IBMの大会(1997年 ミネアポリス)にチャレンジする事にしました。SAMでなくIBMを選んだのは、セントルイスのマジック仲間の一人が、当時のIBMの副会長(International Vice President)であったというのが大きな理由でした。

 その年のIBMは75周年の記念大会で、ミネアポリスのハイヤットリージェンシーホテルがメイン会場、夜のステージショーは近くのヒストリック・ステート・シアターという由緒ある立派な劇場での開催です。会場のホテルにコンベンションの特別料金で宿泊できて、文字通り朝から深夜までマジック漬けでした。ゲストも、ジェフ・マクブライド、マック・キング、ジェイ・マーシャル、ティナ・レナート、ノーム・ニールセン、クリストファー・ハート、マイケル・アマーなどビッグネームが揃っていました。


コンテストの決勝
(Stars of Magic Gold Medal Competition)での演技

 IBMのコンテストでは、特に予選やビデオ審査のようなものはなく、申し込めば誰でも参加できました。会場のホテルでの予選を勝ち抜いたファイナリスト6名が、ヒストリック・ステート・シアターでゴールドメダルを目指して決勝戦が行われるというスタイルでした。

 まずコンベンション開催前日の夜にコンテストについてのオリエンテーションがあり、出演について諸注意の連絡と、会場係との確認がありました。ステージのコンテスタントは30名弱位だったとの記憶で、意外と少ないとの印象でした。


IBMの会誌に掲載された写真(予選?)

 コンベンションの初日の朝から行われた予選の演技での観客の反応は非常に良く、特に土星カードで一番の反応がありました。残念ながら他のコンテスタントの演技は見られませんでしたが、演技中の観客の反応で予選通過は確信できました(内輪の情報ではトップかそれに近いスコアだったようです)。

 予選の後では、演技を見てくれた参加者やゲストマジシャンからいろいろと声をかけて頂き、大会でコンテストに出る事のメリットの大きさを実感しました。

 コンテストの決勝は、ヒストリック・ステート・シアターで“Stars of Magic Gold Medal Competition”というタイトルで、一般の方もチケットを購入できるマジックショーとしての開催でした。

Finalist Awardの表彰状


受賞者と記念撮影

 決勝の結果ですが、残念ながら順位が表示される2位以内に入れず、セントルイスの仲間の期待にも応えられませんでした。初めてのチャレンジで、コンテストでのコンディションの調整の大事さを痛感しました。
 決勝当日は、確か午前中から会場で照明や音楽などの打ち合わせがあり、夜の8時からが本番でした。私の場合には、捨て場は自分で持って出ますし、音楽は流しっぱなしで照明も変えないので、打ち合わせそのものはあっという間ですが、他のコンテスタントは、照明やキューのタイミングにものすごく時間をかけるので、待ち時間が本当に長く、緊張感と不安感でもあって、結局控え室でずっと練習していました。控え室は個室で1日自由に使えました。

 本番では致命的な失敗はなかったのですが、肝心の技の“切れ味”がさっぱりで、スムーズさにも欠けて、アドレナリン全開の予選とは別人のような演技になってしまいました。
 演技の後で、普段の練習でも経験が無いほど手の筋肉が疲れている事が判り、自分でも驚きました。結局、不安と緊張感から控え室で無意識に練習し過ぎた結果、筋肉疲労で切れ味のある演技ができなかった事が、楽屋に戻ってから判った次第です。初めてのコンテストでの教訓は、本番前のコンディション作り(如何にリラックスするか)の大事さです。オリンピック選手などが本番前に音楽を聴いたりして、リラックスと集中をしている理由が良く判りました。

 余談ですが、日本の有名なプロのマジシャンでもコンテスト本番前にアルコールを飲む人がいるという事を後で聞き、妙にほっとしました。アルコールの善し悪しはともかく、とにかく、コンテストの前は少しでもリラックスする事と、間違っても不安を無くすための練習はやるべきでなく、失敗も気にしないような気持ちのゆとりが肝要と思いました。
 また、私は一人での参加でしたが、コンテストの場合、個人よりもグループで参加する方がストレスのコントロールだけでなく、舞台の照明の細かなチェックできる事などからも望ましいとの印象でした。

 以上、私の最初のコンテストへのチャレンジは、やや不完全燃焼の結果ではありましたが、入賞という最低目標はクリアでき、参加者との交流などでコンテストに出演するメリットも感じ、その後のFISMへのチャレンジにつながりました。

 ≪ アメリカの紙幣                   FISM’2000(リスボン大会)