長谷和幸

第一回 デヴィッド L. ヒューイット
「原始怪人対未来怪人(TV)」(謎編)

 ヒューイットと聞いても、恐らく全てのマジシャンの方々が「誰?」と思われる筈です。1939年サンフランシスコ生まれですが、奇術史上では全くの無名です。 ヒューイットは元々、ある特殊な形態のマジシャンでした。(構成上、特殊な形態の内容については後述するものとします)
1960年代初頭、マジシャンだったヒューイットは何故か突然、映画の脚本を執筆します。私が彼の作品に初めて触れたのは、タイトルに惹かれてテレビで観た「原始怪人対未来怪人(TV)」という映画で、これこそが正に、そのヒューイットの初脚本作品だったのです。(日本では劇場公開されず、まずテレビにて放映された作品は、「」内に放映題を記し、(TV)を付します。以下同)

 同作の原題は‘The Time Travelers’、タイトルを変えて何度か放映された後、「タイムトラベラーズ」のタイトルでVHSソフト発売、現在も同題にてDVDが販売されています。タイムトラベルした科学者達が、107年後の未来で種族間の争いに巻き込まれるという、はっきり言えばウェルズ作「タイムマシン」の焼き直しです。が、そのストーリーの結末、科学者達は無事現代に戻れる訳でも未来に留まる訳でもなく、SFセンス溢れる運命を迎える点ともう一つの理由故に、今も同作はファンに、“愛すべき珍品” として語られています。

左:「原始怪人対未来怪人(TV)」アメリカ・オリジナル劇場公開版ポスター            
右:アメリカ・オリジナル劇場公開版ロビーカード(ロケットを引き倒すミニチュア・ショット)

 監督・脚本は、面白いSF映画を撮ることで定評があり、後に売れっ子作家へと転身するイブ・メルキオール。そのメルキオールと共同で脚本を執筆したのが、ヒューイットということになっています。実は元々ヒューイット一人で書いて売り込んできた脚本に難色を示したプロデューサーが、実力のあるメルキオールに書き直させたものだそうです(因みに、東宝のゴジラシリーズ第二作「ゴジラの逆襲」の脚本をアメリカ向けに書き直したのも、メルキオールです)。同作にてヒューイットは、脚本と共に特殊効果も担当し、実はその特殊効果に、マジシャンとしての彼の経歴が活かされることとなります。前述した、ファンに愛されるもう一つの理由、というのが、ヒューイットの担当したこの特殊効果なのです。何の予備知識もなく同作を初めて観た私の第一印象は、「面白いけど、何で…?」というものでした。

劇中シーンよりスクリーン・ショット(フィルムのひとコマ)

 科学の進歩した未来世界を訪れた科学者達は、様々な最先端テクノロジーを目撃するのですが、ここに彼の特殊効果が活かされます。木には数秒で実がなり、グラスの液体は見る見る減ってゆきます。丸い金属のリングは一瞬で正方形に(演じるのはフォレスト J. アッカーマン)、リングは一瞬で繋がり、透明板の間には瞬間的にカードが現れます。…と申し上げればお分かりでしょう。何とこの映画の未来描写には、全てマジックが応用されているのです。実がなるのはウーダンのツリー・トリック、グラスはミルクタンブラー、丸と四角はサークルトゥスクエア、リングはスイッチング・トレイで透明板はテレビジョンカードなのです。

 マジックの描写はまだまだ続き、薄い板の上に仰向けになった女性は一瞬で消失してしまいます。私はこのイリュージョンを、ウォルター・ギブソン著「Houdini on Magic」にて初めて知りましたが、鏡の設置とタイミングの難しい、ほとんど観賞の機会に恵まれないマジックです。
更に劇中最大の見せ場は、ロボット修理工場のシーンです。横たわるロボットの頭部を取り外すと、別の頭部が取り付けられます。通常であればこの種のシーンは、カットを細かく割って表現されるのですが(「エイリアン」のアンドロイド頭部が取れるシーンを思い出してください)、この映画ではこれが何と、長いワンカットなのです。種を明かせば、仕掛けのあるテーブルを用いた初歩的なイリュージョンなのですが、それにしても手間と時間の掛かることをしたものです。
これは推測ですが、初めて書いた脚本を大幅に手直しされてしまったのを悔やんだヒューイットが、せめて任された特殊効果の範疇で、自身の経歴を活かし思いっきり遊んでしまったのではないでしょうか。私はこの作品の成功の8割は、監督であるイブ・メルキオールの才能によるものだと思っていますが、それにヒューイットの経験が少なからず貢献したのは、紛れもない事実です。現行ソフトが販売されていますので、ぜひ一度ご覧ください。

劇中シーンよりスクリーン・ショット

 さて、脚本・特殊効果のデビュー作が好評を持って迎えられたヒューイットは、翌年いよいよ自身の監督作を送り出します。
それが映画‘Monsters Crash the Pajama Party’です(本邦未公開の作品については、‘ ’内に原題のまま表記するものとします。以下同)。ティーンエイジャー達がある館に入って行くと、そこでは科学者による怪しい実験が行われていて…というありふれた内容で、とりたてて語るべきクオリティではありません。そんな映画でヒューイットは、製作・監督・脚本・更には音楽担当と大活躍します。ところがこの映画が、どうもおかしいのです。
まずこの映画は、上映時間が30分少ししかありません。当時の観客は、果たしてこれで満足したのでしょうか?更に妙なのはこの映画には、モンスターが暴れまわるシーンがあるのですが、タイトルでもあるこの最大の見せ場になると、何故か突然画面は真っ黒になり、効果音のみが延々と続くのです。一体このおかしな演出は、いかなる意図によるものなのでしょうか?

‘Monsters Crash the Pajama Party’
左:アメリカ版DVDパッケージ 右: 同ポスター

 …というところで残念ながら、第一回は自己紹介に文字数を費やし過ぎ、ここで紙数が尽きてしまいました。
一体何故そんな歪な構成となってしまったのか、そしてヒューイットが元どんなマジシャンだったのかについての解決編は(実はこの二つには、密接な関連があります)、ぜひ第二回をご覧ください。

※参考文献:
 ‘The Psychotronic Encyclopedia of Film’(Michael Weldon)
 ‘The Time Travelers’
 ‘Monsters Crash the Pajama Party’
  IMDb(International Movie Database)

※画像出典:
  DVD「タイムトラベラーズ」(ラン・コーポレーション)
  IMDb(International Movie Database)

                    第2回