平川一彦

私とエド・マーロー
第2回

<マーローの“頭の良さ”>

 マーローの本を研究していると面白い事に気が付きます。ある時、私の良きライバル(現在でもそう思っている)である、Y氏(バーノン、スライディニーを得意とする“ジニー”愛読者)が、私に次のように言ったことがあります。

 “マーローの解説は、それ自体が奇術になっていて面白いですね”と。

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 私も本当にそうだと思います。例えば、彼の本を見ながら、カードをやっていくと、その本が私にマジックを見せてくれているのです。

 つまり、彼、マーローが「では、平川さん、次にこのカードを覚えて下さい。そして、デックに入れてシャッフルして下さい。もう、どこにあるか分かりません。このカードは?違う?では、どこへ行ったのでしょう?」とか「ここで、このテクニックを使うとこのカードはどうなると平川さんは思いますか?実は、何枚目にあります。やってみて下さい。どう?そうなったでしょう。」と、読者に問い掛けながらマジックを見せてくれているのです。

 ですから、マーローの解説どおりにルーティーンをやって、結果が出ても、初めは、“あれ?どうしてこうなったのだろう”とか“フシギー!”となります。他の人ではこのように感じられません。これはマーローの読者へのマジック的な配慮、マスターしようとする相手の立場を考えた解説の手法、繰り返し練習させるよう仕向けた解説、つまり、マーローの“頭の良さ”だと思わせる部分です。

<マーローの発展性>

 前記にマーローの“頭の良さ”を書きましたが、それを裏付ける証拠が彼の本に感じられます。

 何かというと、彼の本で1つのトリックを覚えたとします。次に彼の新しい本が出ると、そこにも前と同じタイトルのものが載っています。しかし、全く同じというわけでなく、改良されているのです。そしてまた次に彼の本が出ると、そこにも再度、改良された同じものが載っています。

 彼の頭の中には次々と新しいものが湧いてくるのでしょう。

<マーローの影響力>

 原書からマジックの世界を見ると、海外マジシャンは実に多種多様なマジックを研究しているという事が良く分かります。

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 マーローには、気心の知れた弟子と言われる次の人達がいます。アラン・アッカーマン、サイモン・アロンソン、スティーブ・ドローン、ドン・イングランド、ジョー・ハーテル、ケビン・ケリー、ミラード・リヒター、ビル・マローン、ジミー・モリナリー、ジミー・ヌーゾー、ジョン・ラッカーバーマー、デビッド・ソロモン、ランディー・ウェイクマン。

 これらのマジシャンは技術はもとより知識も並外れ、多くの作品を残しています。彼らが発表している本には必ずマーローの名前が出てきます。

 そのマーローの友人といわれている1人に、アルトン・シャープという人がおりますが、彼の“エキスパート・カード・ミステリーズ”という本には挿絵的に写真があり、その中の1枚に、1人のロングヘアーの女性がヌードで両手を片手ずつ縛られて、その腕を横に引っ張られている、とてもセクシーな写真があります。その下に、

 でも、マーロー君、バーノンが君はカードトリックしかやらないといっていたけど、ロープトリックもやるとは私は知らなかったよ!

 という文章が書いてあります。これを読んだ私は思わずニヤッとして、的を射た決め台詞に、実にうまいことを言うと感心させられました。

 確かに、マーローといえば、カード・コイン・ボールなどが知られていますが、ロープをやる(?)とは私も意外でした。マーローの本の中には、数は少ないもののシガレット、ハンカチーフ、ロープ、エッグバッグ、ウォンド、ペーパー、ウォレット、カップ、リング、他に細かなものが全般的に解説されています。

 マーローの本に馴染みのない人には、是非、読む事をお勧めします。解説に感心して、思わずそのマジックに引きずり込まれるかもしれません。私がマーローのマジックを読んでいる時は、“すごい!”とか、“ほんと?”などの言葉が、つい口から出てしまいます。それは既に述べたように、解説をしながら、まず私に、そのマジックを見せているからです。

 これまで多くの海外のマジシャンが来日しましたが、残念なことにマーローはそれがなかったようです。弟子のデビッド・ソロモン氏の来日の際は、彼のレクチャーを受けましたが、これがもしマーローだったら、もう嬉しくて、レクチャーの声も全然聞こえていなかったでしょう。

 ソロモン氏のトリックには、確かにマーローの考えが取り入れてあり、その内容(現象)には素晴しさを感じますが、マーローと違うところは、そのトリックを、まず私に見せていないという事です。これは、あまりにも私がマーローの本に浸り過ぎたせいかもしれませんが、ただ解説をしているとしか感じられなかったのです。ある意味、弟子でさえ真似のする事が出来ないマーローの凄さがここにあるのかもしれません。

 ソロモン氏が横浜を離れる時に、私は、彼にマーローの姿を投射して、横浜駅のホームで、カフスとタイピンのセットをプレゼントした事を今では懐かしく覚えています。

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