平川一彦

私とエド・マーロー
第11回

<マーローのカードテクニック:5>

 次の解説は、ポール・カリーという人の“カリー・チェンジ”をマーローがやり易いように改良したテクニックです。以下はその事について述べている文です。

 カリー・チェンジというテクニックをここに説明した我々の目的は、そのチェンジがトリックによっては、1枚のカードだけでなく、数枚のカードでも交換できるように、我々によって何年も前に開発されていたという事です。

 ポール・カリーが解説したオリジナルのテクニック(1939年発行・ジーンヒューガードの“モア・カード・マニピュレーション No.2”参照)を知っている人々は、我々が、まさに説明しようとしているこの方法が、いくつかの興味深い点を持っているということに気付くでしょう。

  1. デックを持つ位置に、より簡単に入れます。
  2. 実際のチェンジの時には目に付く指の動きは何もありません。
    したがって、“指でほうり出す様子”は見えません。
  3. テーブルへ接近しての動作は、テクニックを、よりカバーします。
  4. 数枚のカードも1枚のカードのように、より簡単に交換できます。
  5. テーブルへのカードは、どんな位置にでも置けます。
  6. 新しいテクニックは、マジックで使うカード以外のどんなカード、例えば名刺とか、のチェンジにも、うまく使用できます。

 ここでは、“準備”を説明するために、1枚のカードのチェンジを解説します。しかしながら、前述の同じテクニックが、第12回目で解説するコリンズ・エース・トリックの中で使う数枚のカードとしても使用できます。

 そしてもちろん、このチェンジは、外見上、1枚のカードをまるでフェイスダウンにターンしたように見せているか、あるいは、フェイスアップにターンしたように見せているだけです。以下に続くチェンジの説明では、テーブルカードをフェイスアップにターンしている最中に行っています。

  1. チェンジされるカードをテーブルへ、フェイスダウンで置いておきます≪写真1≫。その位置は、実際には重要ではありませんが、説明のために、そのカードが最も交換しやすい位置にあるとします。この意味は、そのカードをたてに、しかも左手に容易に入手できるところのテーブルの左サイドに置いておく、という事です。
  2. 写真1
    写真1
  3. デックのトップカードは、テーブルカードの代わりになるカードであり、しかも“準備”をしなければならないカードです。
  4. つまり、デックのトップカードを単に、左手親指で、右側へ押し出します。そうすると、左手の指は、そのカードを下から上へ押し上げられます。
  5. そのカードを引き戻して、デックのトップに一直線にそろえますが、左手小指の指先でブレイクを保持します。しかし、この左手小指の先を、そのブレイクに入れてはいけません。単に、小指の先の肉片で保ちます≪写真2≫
  6. 写真2
    写真2
  7. 左手人さし指は、デックのトップエンドに曲げておき、その結果、デックは、メカニックグリップで持っています。
    しかし、左手人さし指がもっと自由に動かせるように、いくぶん、左手に低く持ちます。左手人さし指の位置は、≪写真2≫のように、自動的にデックのより高い所になります。
    左手の指の位置に注意するために、この写真の形をしっかりと覚えて下さい。
  8. 上記の動作は、左手が体の横にあるときにセットします。そして、そのセットした左手は、テーブルカードに伸ばします。そして、左手の親指をインナーサイドに付けて、左手人さし指をカードの反対側のサイドに付けます。左手人さし指の位置は、カードの右エンドから約2.5cmのところにあり、左手親指も、インナーサイドの、だいたい、同じ位置にあります。≪写真3≫は、この段階を右側から見たところを示しています。
  9. 写真3
    写真3
  10. 次に、左手人さし指は、カードの反対側のサイドを、テーブルから、持ち上げ始めます。しかし、インナーサイドは、まだテーブルに接触しています。その動作は、ちょうつがいで付けられた落とし戸をぱっと開けたのとよく似ています。さらに付け加えたこの動作は、右側から見た≪写真4≫に示しています。左手人さし指が、カードの下にすべり込んでいるのに注意して下さい。
  11. 写真4
    写真4
  12. その動作を続けます。手は、いつも、テーブルに接近しておきます。そうすると、カードの反対側のサイドは、テーブルカードがほとんど垂直になるまで、決して、テーブルから持ち上がって離れていきません。
    ちょうどこのときに、左手は、カードを下方へ下します。すなわち、このカードがデックそのものを少し通り過ぎていることに注意して、テーブルカードが≪写真5≫の位置になるまで、このカードをテーブルの方へ下します。これは、そのカードが次の動作の最中にロックがかかって、ひっかからないようにさせるので、重要なポイントです。
  13. 写真5
    写真5
  14. 今までのところでは、デックのトップカードを放すことはしません。しかしながら、≪写真5≫の位置になったら、左手の指は、トップカードを≪写真6≫のように落とします。しかし、テーブルカードは、多少、左手親指の叉とデックの間にはさまれています。
  15. 写真6
    写真6
  16. トップカードは、一度デックを放れると、それは、テーブルへ、フェイスアップに落ちます≪写真7≫
    同時に、左手はテーブルカードとともに後ろに動かします。
    後方への動きにおいても、左手は、テーブルへ十分に接近したままです。左手親指の後ろ側が実際にテーブルの表面を擦ります。
    この接近した動きは、その巧妙な早わざ(スライト)を、もっとカバーするだけでなく、同時に、テーブルカードをデックのトップへ、よりすばやく揃えるように持っていきます。
  17. 写真7
    写真7

 テクニックを細かく説明しましたが、実際は全体の段階を一連の流れとして、単に、1枚のカードをターンしたように見せているだけです。

  実際のところ、一組のカードを持った手でカードをひっくり返すのは動作的に難しく非論理的です。そこで論理的な方法として、追って解説するコリンズ・エース・ルーティンのように、片手でひっくり返すという動作と同時に、もう一方の手で何か他の事で注目させるような動きを行う必要があります。

― Marlo In The Linking Ring P.2~3 ―

 このマーローの改良作品をやってみて如何でした?キラー・ターンノーバーとして著名なアーマンド・ルセロも、このチェンジを巧みに自分のものにして、手順に取り入れています。TVでもご覧になった方も多いと思いますが、パーフェクトに消化させると如何に効果が絶大であるか、改めて驚かされます。

 これでも、相当に練習が必要です。確かにオリジナルのカリー・チェンジは、素晴らしいテクニックですが、多くのカーディシャンは、それをマスターするのに、かなり苦労しているようです。そういう私も、なかなか上手にできないというのが実際です。

 マーローの凄いところは、彼が他人のテクニックをやってみて、これでは、確かに誰がやっても難しくて、できそうもない、一度できちんと揃わない、自然に見えない、などと思った時は、そのテクニックをやり易いように改良できる事です。例えば、エルムズレイ・カウント、ダミコ・スプレッド、チェンジ、プッシュ・オーバー、パス、リフト、パームなどなど。

 しかも、マーローは、ただ、他人のもの、自分のものを改良するだけでなく、そこから彼自身のオリジナルを創り出すのです。ここまでカード技法に集中し、研ぎ澄まされた才能を発揮したカーディシャンは他に見当たりません。これは実際に彼のマジックを研究してくると実によく見えます。

 例えば、オリジナルのダミコ・スプレッドに挑んだ人には分かり易いかも知れません。私の場合、何回も挑戦しましたが、満足するものではありませんでした。

 カードトリックを人に見せていて、このテクニックを使う時に、カードがずれたら、そのトリックはアウトです。そこで、“マーロー・ダミコ・スプレッド”を使うと、完全にできる訳です。

 また、私は今まで、多くのオリジナルと称するエルムズレイ・カウントを見てきましたが、動作が不自然で、カウントをやっていても、“何かをやっているな?”と懐疑心が起きました。しかし、マーローの改良作は、この点でも、動作が自然で安心してトリックができます。
これらマーローの改良作については、いつか解説させて頂くチャンスがあると思います。

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