氣賀康夫

コイン奇術で用いるコインについて


     コイン奇術を実演するとき、どのようなコインを用いるかは非常に大切な要素です。 奇術家は何かコイン奇術を実演しようというときには、それに最適なコインを使うように配慮しています。 それでは以下に使うべきコインについての情報を整理しておきましょう。

    <サイズ>

     コイン奇術にふさわしいコインですが、筆者は直径が26㎜の500円玉と直径が38㎜のアメリカの一ドル銀貨の間の大きさのコインをお勧めいたします。コインが小さすぎるとよく見えないこと、また逆にコインが大き過ぎるとコインに見えなくなってしまうことがその理由です。サイズがあまりに大きいとコインでなくメダルに見えます。


    <コインのいろいろ>

     上段右からアメリカ1弗銀貨、オリンピック千円銀貨、スペイン旧100ペセタ貨、オランダ旧2.5ギルダー貨、二銭銅貨、 下段右から英国旧ハーフクラウン(2シング6ペンス貨)、アメリカハーフダラー(50セント)銀貨、英国旧1ペニー銅貨、500円玉、旧50円ニッケル貨

     世界的にコイン奇術家に人気のあるコインは直径30㎜のアメリカのハーフダラーと呼ばれる50セント銀貨です。このコインのサイズは十進法に変更前の英国の旧1ペニー銅貨と同じサイズであり、よくこの二枚を組み合させて奇術が演じられました。現在では英国の通貨が十進法になり、この旧1ペニー銅貨は古銭に分類されています。 コイン奇術を愛好する立場からすると、自分の国で流通している通貨で便利なサイズのコインがあると理想的なのですが、必ずしもそうはまいりません。 日本には戦前には2銭銅貨という直径32mmの銅貨がありましたが、戦後はコインが小さい時代が続きました。筆者がコイン奇術に馴染み始めたころは最大のコインは直径25㎜の50円ニッケル貨でした。ダイバーノンのカンガルーコインという名作について、原書の写真ではハーフダラーが用いられていますが、高木重朗師がそれを日本に紹介する際には50円玉がモデルになっていました。


     「自国にいいコインがない場合には外国のコインを使えばいいではないか」という意見もありそうですが、 実際にはそう簡単にはまいりません。外国のコインを取り出すと、見ている人は「日常品ではないものが登場したぞ!」と身構えることになるからです。筆者がコイン奇術に使うにふさわしいと思うコインは1ドル銀貨とハーフダラーの間のコインです。そこで愛用しているコインの一つは1964年東京オリンピックの千円銀貨(直径35㎜)なのですが、それでもそれを数枚取り出すと観客が「ホオッ!」と言って奇術よりコインに興味を持つようになるくらいです。これは演技のために決して好ましいことではありません。またユーロの登場で表舞台から退場したコインでなかなかいいと思ったコインにスペインの旧100ペセタ貨(直径34㎜)オランダの2.5ギルダー貨(直径33㎜)それと英国の2シリング6ペンス旧半クラウン貨(直径32㎜)などがあります。 なお、石田天海師の名作に「Two Penny Trick」と呼ばれる作品がありますが、これは意図的に小さいコインを使用するのが効果的な奇術の例です。用いるのは英国のペニーではなくアメリカの1セント銅貨(ペニーと俗称されます)です。日本でしたら10円玉が適当です。500円玉やアメリカのハーフダラーを使うのは好ましくありません。


    <コインの形状>

     コインの形状はほとんどが円形です。ただし、真ん中に穴が開いているコインがときどきあります。世界のコインのなかには珍しい正11角形(カナダ1弗貨)や正7角形(英国1/2ポンド貨)というようなコインもあります。日本には昔は長方形のコイン(一分銀)や長円形のコイン(小判、天保通宝)もありました。奇術には円形のコインを使うのがいいと思います。

    <コインの材質>

     コイン奇術で大きさと並んで大切な要素はコインの材質です。銀貨はもちろん銀色ですが、銀色のコインには銀貨のほかにクローム、ニッケル、アルミニュームの硬貨があります。クローム、ニッケルはよく光ります。銀貨はやや白っぽい銀色の光を放ちますが、直ぐ酸化して黒ずみはじめます。アルミはかなり白いです。世界中でこのアルミ貨が使われていますが比重が軽いので手に取るとすぐそれとわかります。銅貨はだいたい褐色です。そして黄銅貨は黄色です。その色の違いを活用するコイン奇術もめずらしくありません。金貨は常に美しいコインですが、本物は貴重であまり奇術には登場いたしません。奇術で使う金貨は、メッキした金貨のように見えるものを用いるのが一般的です。 奇術家にとって大切なのはコインの周囲のギザです。これがあるとないとで、コインのハンドリングとに大差が生じます。特にクラシックパームにはギザが大切です。それと手になじむかどうかは厳密にいうとコインの材質も大いに関係します。上に紹介したスペインのコインは銀貨ではなくギザもないのでそれが欠点です。同じ形状でも銀貨はニッケル貨やクローム貨よりはるかに手になじみます。その違いはコイン奇術の技法を練習するとすぐわかります。

    <磁性について>

     コイン奇術で磁石に良くつくコインがしばしば活用されます。最もよく用いられるのはニッケル貨です。日本では古い50玉(25㎜で穴のあるものとないものとがある)がニッケル貨でした。これは磁石によくつきます。クローム貨は磁石につかないのですぐ区別がつきます。 磁石につかなそうに見えて実は磁性を持っているコインが世界の市場ではしばしば見かけられます。褐色の銅貨に見えるのに磁石によくつく例としてユーロの1~5セント貨があります。これは鋼に銅メッキをしたものです。また黄色い黄銅貨に見えながら、実は磁石につくというものがあります。カナダの通常の1弗貨(26㎜)がその例です。一見銀貨のように見えて実はニッケル貨という素晴らしい硬貨がカナダの記念1弗貨にあります。これには各州が発行した例が複数あります。これはコインのサイズも大きく(32㎜)便利であり、その存在は記憶しておくに値するでしょう。


     右からカナダ1弗貨、カナダ1弗記念貨、50円ニッケル貨穴なし、50円ニッケル貨穴あり。


     銅に見えるが磁石につくコイン
    左ユーロ5セント、1セント、中央イギリス2ペンス、1ペニー、右アメリカの1セント、 下が1943年発行の亜鉛メッキ鋼鉄貨、上はそれをあえて銅メッキしたもの。
     最後に、話のついでに面白いお話を一つ、アメリカの(1セント貨)は銅貨ですが、戦時中の1943年に銅が貴重であったため亜鉛メッキの鋼鉄のペニーが発行されました。このペニーは鼠色をしています。あるときこれを入手してわざわざ銅メッキをして磁石でとらえる奇術を演じてみたことがあります。観ている人は種の想像がつかなかったそうです。

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