氣賀康夫

ダイアナ妃のカード
(Princess Diana Card)


    <解説>  この奇術の原理を筆者が初めて見たのは1969年のことでした。 そのときこれは英国の研究家パトリック・ページの作品と聞かされました。 この奇術では1枚のカードが魔法のように変化する不思議な現象を実現します。 それも、それを技法で解決するのではなく、巧妙な種の活用で解決しています。 たいへん手軽に演じられる原理なので、その後、世界中で人気を博しました。 当初の種はカードを単に縦に切ったものでしたが、ここではより自然に見える種の作り方を解説します。 この原理が輸入されてから、この種を使った奇術がわが国でも大流行になりました。 今日では、もはや古典の地位を獲得したと言っても過言ではありません。 それは原理が優れており、演ずるのがやさしいからですが、百円ショップで売られているジャンボカードを用いて演ずると、なかなか印象的な芸になります。 以下に説明するような手順を構成してみた。

    <効果> 普通の一組のカードを取り出し、中から一枚のカードを観客に選ばせます。選ばれたカードはダイヤの3です。このカードを一組に戻して、よく切り混ぜます。次にジャンボカード一組の中から印の異なるカード(D,C,H,S)四枚を取り出し、扇状に広げて見せます。そして観客は選んだカードと同じ種類のカード(例えばダイヤの5)を引き抜きます。ここで、術者が選んだカードは何だったかと質問すると、観客は「ダイヤの3」と応えます。手に持ったカードをあけてみると、それはいつの間にかダイアナ妃のカード(インデックスはダイヤの3)に変わっています。「選んだカードはダイヤナさんでしたか?」と確認します。ダイヤナさんがダイヤの3とひっかかっているのです。

    写真1

    <用具>

  1. ダイアナ妃をデザインしたカードが一枚必要です。 見本<写真1>をご紹介しますが、これは適当なダイアナ妃の写真をジャンボカードの大きさに拡大コピーしてジャンボカードの表にスプレー糊で貼りつけて作成するのがいいと思います。インデックスはダイヤの3のインデックスをカラーコピーして貼るか、細いフェルトペンで丁寧に画くのがいいでしょう。
  2. 次に、ジャンボカードを加工して、カードのすり替えのための種を作ります。その作り方を詳細に説明しましょう。例えば、スペードの8とダイヤの5を用いるとして、スペードの8の上にダイヤの5を<写真2>のような位置にセロテープで仮止めします。 ダイヤの5の左上隅がスペードの8の向う端の中央ぎりぎり(内側)、ダイヤの5の左下隅がスペードの8の左下隅の方向を向くというのが目安です。
    写真2
    次にダイヤの5を<写真3>のように裏返して、その接触しているサイドをセロテープでスペードの8の表にしっかりと止めます。そして、再び種を表にして、仮止めのセロテープをはがし取ります。
    写真3
    最後に<写真4>のようにダイヤの5の左上の部分だけを残して、スペードの8からはみ出す右下の部分を切り取ってしまいます。
  3. 写真4
  4. 木製の洗濯バサミを一個使いたいと思います。これを使う方が現象がスマートになるからです。

    <準備>

  1. 普通のカードを用いて、ダイヤの3をフォーシングする(観客が知らないに選ばされてしまう)方法を一つご紹介しましょう。一組のトップにダイヤの3を用意しておきます。 
  2. ジャンボカード一組のボトムの近くに、ハートの8、クラブの7、種のダイアナ妃のカード、種のついたスペードの8をセットしておくことにしましょう。

    <方法>

  1. 普通のカードをケースから出し、次のフォールスカットを実行します。
    (1)カードをテーブルの上に置き、まず上2/3くらいを取り上げて、右に離して置きます。
    (2)その上の半分(最初の上1/3くらいに当たる)を取り、真ん中に置きます。
    (3)右の山を取り、左の山に重ねます。
    (4)真ん中にあった山を取り、左の山に重ねます。
  2. 次に以下のカットフォースを用いることとしましょう。
    (1)まず、一組を左手で持ち、右手の中指でカードの向う端をパラパラとリフルし、観客にリフルの間に指を差し込んでもらいます。ここからの動作の進め方が大切です。
    (2)まず、指が差し込まれたら、そこでリフルを止め、指が差し込まれた位置より上のカードを右手に持ち、「ありがとうございます。ところで、お客様、いま何指を差し込まれましたか?」と質問します。観客は「人指し指!」などと答えるでしょう。
    (3)この答えを聞いたら、「そうでしたね、では念のためその指先を拝見させてください。」と言います。そして、この台詞に合わせて右手のカードをテーブルの上に置き、観客が指を差し出したら、左手のカードを右手で取ります。
    (4)そして、空いている左手で観客の指を持ち、その指先をしげしげとよく見ます。このとき、何げなく右手のカードをテーブルの上のカードの上に重ねます。ただし、45度くらい回転させて二つの山がX字形に重なるようにします。「たいへんいい指紋ですね。これは頭のいい方に特有のすばらしい指紋です。」と言います。
    (5)ここで、右手でテーブルのカードの上半分を持ちあげて、左手の食指で残ったカードの一番上のカードを指差して、「ではこの分かれ目のカードを取ってご覧になってみてください。」と言います。そのカードはダイヤの3のはずです。
    (6)観客がカードを取ったら、持っているカードをテーブルのカードの上にポンと乗せます。
    (7)ここで、カード全体を揃えて手に持ち、再び右手の中指で向う端をパラパラとリフルし、観客に「止まれ」と言ってもらいます。
    (8)「止まれ」と言われたらリフルを止め、右手のカードを持ちあげて、選らばれたカード(ダイヤの3)を左手のカードの上に乗せてもらい、右手のカードをその上にポンと乗せて揃えてしまいます。
  3. 「これから四枚の大きなカードを使ってお客様のカードを当てることにしたいと思います。」と言います。そして、ジャンボカードを取り出し、カードの表を術者の方に向けて広げながら、種のついたスペードの8を見つけ、右手で引き抜いて、テーブルの上に裏向きに置きます。次は、ダイアナのカードを引き抜き、スペードの8の右に置きます。その次はクラブの7、最後がハートの8です。四枚が横一列に並ぶでしょう。なお、最初の2枚は絶対ですが、クラブはA,2,3以外なら何でもよく、ハートは何でもかまいません。
  4. 「さて、ここに、4種類のカードを選び出しました。」と言い、まず、右手でスペードの8を取りあげ、表が術者の方を向くよう立てて、左手に手渡し「スペード!」と言います。 次に、右手で、ダイアナ妃のカードを取り、それを種のスペードの8に重ねます。このとき、このダイヤナ妃のカードを丁度、種のダイヤの5の真下に、それとほぼピッタリと重なる位置に差し込むことが肝心です。<写真5>そして、「ダイヤ!」と言います。
    写真5
    次にクラブの7を取り、それを二枚の手前に置き「クラブ!」と言います。 最後にハートの8を取り一番手前に位置させて「ハート!」と言います。 この4枚は<写真6>のように扇型に広がる形となります。
    写真6
  5. ここで、扇の要の位置を洗濯バサミでとめます。
  6. この洗濯バサミを右手の食指と拇指で保持し、カード全体を表向きにして四枚のカードがあることを示し、「この四種類のカードの中にはお客様のカードそのものはないと思いますが如何ですか。」と質問します。観客はもちろん「ない」と応えるでしょう。
  7. 次に、カードの表を術者の方に向けて、ハートの8を抜き取ります。このとき、残りの3枚が乱れないように注意する必要があります。このハートの8を一旦裏向きにテーブルの上に置き、次に、その表を見せつつ「お客様がお選びになったカードはこのハート印ではなかった思いますがいかがでしょうか。」と質問します。する。観客は「違う印だ」と答えるでしょう。そうしたら、そのハートの8を表向きのまま、右脇にポンとどけておきます。
  8. 次に洗濯バサミを持って、3枚を再度表向きにして、「この中にお客様の選んだカードと同じ種類のカードがあるはずです。では、その位置を覚えておいてください。」と言います。観客は真中にあると覚えるでしょう。そこで、カードを一旦裏向きにします。
  9. ここで、「念のためもう一度ゆっくりと確認しましょう。」と言って、カードをもう一度表にして見せてから、ゆっくりと裏向きにします。
  10. そして、「では、お客様のカードと同じ印のカードを引き抜いてください。」と言います。観客は当然、真ん中のカードを引き抜くでしょう。観客はそれがダイヤの5だと考えますが、実は巧妙な種のおかげでそれが「ダイアナ妃のカード」とすり替わってしまいます。このとき、観客がカードをすぐに表にすることがないように注意することが大切です。
  11. 次に、洗濯バサミを取り外し、残る2枚のカードを裏向きに持ち、右手に種のカード、左手にスペードのジャックを持って、一旦カードを左右に引き離し、次にそれを再び重ねます。このとき、2枚のカードのインデックスは両方見えているのに種の部分が見えない程度にカードをずらせて保持することが大切です。そうしたら、その2枚をそのまま、表向きにして、ハートの8の上にポンと重ねてしまいます。観客には3枚のインデックスが見える状態になります。
  12. ここで「お客様のお選びになったカードの印はダイヤと分かりましが、その数を当ててみましょう。」と言い、額に指を当てて、「1,2,3,4.....そう『3』だと思いますが、如何ですか。」と聞きます。観客が「そうだ。」と答えたら、「それでは、お手にお持ちのカードをダイヤの3に変えてご覧に入れましょう。」と言い、カードにおまじないをかけます。そして、観客にカードを表向きにしてもらうと、そのカードはダイアナ妃のデザインですから、「はい、確かに『ダイアナさん』です。」と言います。このとき「ナ」の音を「na」と「no」の間くらいのあいまいな音に発音するようにします。観客はそのギャグに歓声をあげるでしょう。
  13. <注>
     英語でしばしば、ギャグとして使われるのは“The tree of hearts”です。 これは赤いハートが沢山実っている緑色の樹の絵をあしらったものが商品になっているほどです。 英語の“tree”の発音が“three”と似ているので、クライマックスに“The tree of hearts“とあいまいな「t」の発音をして、このカードを示そうという作戦です。
    日本語では何ができるかと考えて、筆者はダイヤモンドと蜂をデザインして「ダイヤの8」を作ってみたことがあります。すると、TAMC蔵原会員がダイアナ妃の描かれたダイヤの3で「ダイアノサン」と発音するという演出はどうかとご提案なされたのでした。これはなかなか面白いアイディアです。なお、この奇術はカードを選ばせるところからジャンボカードで演ずることも可能です。筆者は「ダイヤの4」を選ばせて、「ダイヤナ妃」と発音することも検討してみましたが、普通数字は「ダイヤのヨン」と発音し、「ダイヤのシ」とは発音しないので、これはボツにしました。

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