氣賀康夫

サファイア原石の鑑定
(Examination of Sapphire Samples)


    <解説>
    最近、NAMCの相羽洋一先生がログビネンコ錯視を活用した興味深い奇術の演出法を見せてくださいました。そこで、さらに、デザインと色を工夫して、「サファイア原石の鑑定」という演出を構成してみたのがこの作品です。筆者は相羽先生が提供くださった素材をハサミで切り貼りして試作してみたのですが、相羽先生はそれを見て、新にパソコンのグラフィックソフトを使ってわざわざその種を製作してお届けくだいました。ここのそれをご紹介しましょう。

    <現象>
    術者はまず「これは世界でも有名な宝石商が使うサファイア原石を鑑定するときに使う色モデルです。」という触れ込みで色見本を紹介します。次に鑑定すべき原石A,B、Cの三つを見せます。それを色鑑定のモデルに比較してみると、Aは最高級の深青色の石に見えますが、Bは鮮青色、Cは一番安価な薄青色の石に見えます。そこで、「確かに、このAは最高級の品質であり、Bはランクが一つ下の石であり、Cは一番安いランクの石です。間違いありませんね?ところで、有名宝石店では、このランクの低い石を最高級の石に変えることができるのです。よくご覧ください。」と言い、Bの標本を、上に一枡移動すると色がワンランク上がったように見えます。そして、Cをモデルの下から上にゆっくりと移動していきます。すると、移動するに従って、その薄青色のCの石が、淡青色から鮮青色を通り過ぎて、深青色の最上級の色にまで変化してしまいます。

    <用具>

  1. 上記の演出のための色モデルが<写真1>です。このランキング色見本は上から六段階に分類されていて、一番上は暗青色、以下、深青色、鮮青色、淡青色、薄青色そして、最後は水色とだんだん下に行くに従って色が薄くなるようにデザインされているように見えます。ただし、実際には一番上が濃く、一番下は薄いのですが、中間の4色は同じ濃さなのです。ところがデザイン上の色のグラデーションの手法によってログビネンコ錯視が働き、その四段階が別の濃さに見えるのです。
  2. <写真1>
  3. そして、鑑定すべきA,B,Cと三つの原石を表わす切片が必要です。 <写真2>この3枚は実は中間の四段階の菱型と同じデザインなのです。

  4. <写真2>

    <準備>
    特別の準備は要りません。色モデルを用意するだけです。なお、鑑定するべき 原石の切片A,B,Cは裏面にAスリランカ産、Bミヤンマー産、Cタイ産と表示して、最初は裏向きにしておきます。

    <方法>

  1. まず、色モデルを見せてサファイアの説明を始めます。「サファイアはとは鉱物学の世界ではコランダムと総称し、それは化学的には酸化アルミニュームの結晶の意味です。そしてコランダムは、色が赤い場合だけ、それをルビーと呼び、それ以外のものをすべてサファイアと呼びます。したがって、サファイアには透明なもの、黄色いもの、桃色のものなどいろいろな色のものがありますが、何と言っても人気のあるのは青いサファイアでしょう。ここにある色モデルは青いサファイアを鑑定するためのものです。この一番下の石の色は水色ですが、これはアクアマリンと言いまして、サファイアではありません。アクアマリンはエメラルドと同じベリルと呼ばれる鉱物の一種ですが、エメラルドほど高くありません。アクアマリンの上に表示されている五ランクの色はサファイアです。サファイアは一般に青が濃いほど高価ですが、一番上のように黒ずんだ暗青色になりますと、最上級とは見なされません。最上級はこのモデルの上から二番目の深青色のものです。以下、鮮青色、淡青色、薄青色とだんだん色が薄くなるにしたがって値段が安くなります。」ここまでは本当の話です。観客は話を聞きながら、表示されている英語や1カラット辺りの価格を興味深そうに見るでしょう。
  2. 次に、3枚の原石モデルの菱型を紹介します。A、B、Cと表示があります。Aはスリランカ産、Bはミヤンマー産,Cはタイ産と表示されています。
  3. 術者はこの3枚を手に持ち、そこで表向きにして、色モデルと原石モデルの菱型とをしげしげと比べてみてから、慎重にAをRank 1の一番左の位置の菱型に重ねます。この菱型を置くときに大切なことが一つあります。それは菱型をよく見て、色が薄い方の先端を上向きに置くということです。これを逆にすると錯覚がうまくいきません。
  4. 次に、BをRank 2の一番右に重ね、最後のCはRank 4の一番右の位置の菱型に重ねます。このときも、色が薄い方の先端を上向きにしなければなりません。こうすると、そのAとBとCはその左右の色と同じ濃さに見えるでしょう。
  5. ここで、次のように話します。「ご覧になってお分かりのようにRank 1 の石はRank 2 の石より色が濃く、同様にRank 2 の石は、Rank 3 の石より色が濃く、そして、Rank 3 の石はRank 4 の石より色が濃いことがお分かりと思います。ところが、有能な宝石商はこのランクの低い石をなんとか工夫して、だんだんに色が濃くなるようにする方法を知っています。それで時間をかけてランクの低い石を最高ランクの石に変えるのです。では、その過程を実際にご覧いただくことにいたしましょう。」
  6. そう言って、Bの原石の菱型を一段上に移動します。そして、次に「よく見てください。」と言い、Cを一段ずつ上に向かって平行移動します。これはゆっくり動作してください。すると、一段移動する毎に、色が左右のモデルと一致していき、最後にRank 1 のところまで来ると、Aと同じ色になっているのがわかります。実は、このデザインでは、中間の4ランクは同じ色なのですが、その巧妙なデザインの工夫によって上に行くほど濃くなるように錯覚が生ずるように作図されているのです。これは錯視のデザインを奇術として演出するいい見本だと思います。

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