氣賀康夫

ワインの月予算
(Monthly Wine Budget)


    <解説>
    珍しい聴覚によるマジックです。この話が不思議をもたらすかどうかは、もっぱら話の進め方に依存しています。標準的話の進め方を以下に説明します。

    <効果>
    「ワイン党の亭主でも、ワインを買うのには奥方の了解が必要であり、我が家では月予算が1万円というルールになっています。」と説明します。 そして、ワインを購入する話をしていきますが、1万円を上手に使うと10500円分のワインが買えるという不思議な話です。

    <用具>
    もともとはメモと話だけで演じていましたが、以下のように小道具を駆使すると、さらに錯覚が強まると考えられます。 用意するのはワインボトルの写真6枚、それはフランス、スペイン、チリのワインそれと日本のワインの写真が3枚です。 それぞれの写真の裏面にそれぞれのボトルの値段を書いておきます。 その価格表示は¥5000、¥2500、¥1000、¥500、¥500、¥500です。 あとはメモ用紙と筆記具です、筆記具はフェルトペンが良いでしょう。

    <方法>

  1. 「我が家では、月の始めに10000円を手渡され、ワイン代はこの範囲で考えることを指示されます。 すると、最初はお金があるというので、少し気が大きくなり、このような高級なフレンチワインを買ったりします。」と言い、<フレンチワインの写真1>を示します。
  2. <フレンチワインの写真1>
  3. 写真を裏返すと5000円と書いてあります。そこで、次のように話を進めます。 「このブルゴーニュのワインはデパートだと8000円くらいはしますから、街のワインショップで5000円と言われると、つい手が出てしまいます。」
  4. ここでメモを取りあげて、上の方に5000と書きながら、「5000円のワインを買うと残りはいくら残りますか。」と質問します。 観客は当然「残りは5000円!」と応えるだろう。
  5. 次にメモをテープルに置き、<スペインワインの写真2>を示します。そして語る。 「フランスワインを飲み終わると、次に美味しそうなスペインのワインが目に留まり、それが欲しくなりました。」 写真の裏の値段を見せと、2500となっている。 「正札を観ると2500円となっており、これは先ほどのフランスワインの半額です。 まだ残金が5000円あるということなので、それを思い切って買うことにしました。」と言う。 そして、「これを買うと残りの予算はいくらになりますか。」と質問しながら、 術者はメモを取りあげて、5000の真下に2500と書き込む。
  6. <スペインワインの写真2>
  7. 観客は「残りは2500円」と応える。
  8. 「さて、このときは、半月もしないうちに高目のワインを二本も買ってしまったので、 さすがに残金が少なく、これからはもう少し庶民向けボトルを選ばなけれぱいけないと実感しました。 次に目をつけたのはこれでした。」と語り、 <チリワインの写真3>を見せる。 そして「店長にこれはいくらですかと質問しました。」と言い、写真の裏を示す。 そこには1000円と表示されている。 「店長は『1000円です』と応え、私も、それならばまだ予算内だと思いました。 そこで残る2500円から1000円を支払い、このチリワインを求めることにいたしました。 まだ、予算が残っていますが、あと幾らですか。」と質間する。観客は「1500円」と応えるだろう。 とこで、術堵はメモを取りあげて、2500の真下に1500と書き込む。「だんだん予算が少なくなってきたので、 予算超過しないように私はメモを取りました。」と言い。 ここには実は巧妙な作戦が隠されているのであるが、そのことに観客は気づかないであろう。 というのは、最初に5000と書いたとき、それを買ったフレンチワインの値段のように思わせたのであるが、 実はその金額は購入後の予算残高とも同じ金額だったのです。 そして第二のスペイン産ワインのときも2500という数字を書き込んだが、話との絶妙なタイミングで、 それが購入ワインの側設なのか、購入後の残高なのかに術堵が言汲しないので、 それが、実は書いている数字が買ったワインの値段なのか、購入後の残高なのかがあいまいのままだったのです。 そして第三のチリワインの話が進んだ段階で、初めて術者はワインの値段ではなく予算残高を書いたわけです。 この点が観客にとってあいまいになっているところがこの話法のミソです。 したがって、1500と書いたときそれが残高だということには触れてはならない。 そのようなセリフを誤って発するといわゆる薮蛇になってしまう。
  9. <チリワインの写真3>
  10. 「さすがに残る予算が1500円になると、私も懐が寂しくなり、次にショップに来たときはもうビールくらいしか買えないなあと思ったのです。 ところがそこで安い国産が目に入りました。これです。」そう言って<日本産ボトルの写真4>の写真を示す。 「価格を聞くとさすがに国産だけあり、500円でした。 最初の5000円のフレンチワインよりは味が劣るでしょうが、価格が1/10でも味が1/10ということはないと思いました。 コストパフオーマンスは十分です。そこで、この500円のボトルを買い求めました。 1500円から500円使ったのですから、残りはあと1000円です。」と語り、メモ帳を取りあげて、次の欄に1000と書き込む。
  11. <日本産ボトルの写真4>
  12. そろそろ月末が近づきましたが、まだ次の予算を奥方からもらえるところまでは来ておりません。 そこで、私は前回の日本のボトルを思い出して、店に行きました。するとまだ同じボトルが残っていました。 私は喜んで500円支払ってそれを買いました。」ここで、第二の<日本産ボトルの写真5>を示す。 そして裏面を見て「これも500円です」と確認し、そう言いながらメモを取り、500と書き込む。 実は、ここで再び買ったワインの価格を書き込んだことになるが、実はタイミングよく、 それは残高とも一致するようになっている。
  13. <日本産ボトルの写真5>
  14. いよいよ最後であるが、ここが大切です。「いよいよ月末であり、翌月になれば、また予算がもらえます。 そこで月末に最後の500円を使ってもう一度日本のボトルを買うことにしました。 なかなか値段の割に美味しいワインだったからです。」 最後の<日本産ボトルの写真6>を示し、裏を見せる、そこにも500円と表示されている。 「この500で予算を椅麗に使い果たし、残り予算はゼロとなりました。」ここでメモ帳を取り最後の500の下に0と書き込む。 これが大切な手続きです。
  15. <日本産ボトルの写真6>
  16. ここまで来たら次のように話を続ける。 「これが先月の私のワインの買い方でした。 さて、このボトルの買い方をお聞きになると、お客様はそうか10000円の予算を丁度使ったのだなとお思いでしよう。 しかし、実は違います。私はお店に気づかれないように合計で10500円分のワインを買うことに成功したのです。」 こう言いながらメモを取りあげる。そして5000の数字を指さし「最初は5000円と高いフランスワインを買いましね。」と言う。 そして、次にメモの最後の三行の1000, 500, 0と書いてあるところを指さし 「最後は予算が1500円しかないので500円のワインを三回買って1500円を使い切ったのでした。 それは間違いありませんね。」と確認する。
  17. ここで、観客にメモを手渡し、そこに書かれた数字を足し算してもらう。すると合計額が10500になる。
  18. 最後に「そうです10500円ですね。 このように上手く買うと10500円分のワインを10000円で買うことができるのです。 その買い方のコツを知りたい方は私のところにおいで下さればお教えします。 その謝礼はワインー本くらいで結構です。」
  19. この奇術の種は、術者が買ったワインの価格をリストして加算するのが正しい支出計算であるのにもかわらわらず、 書いている数字がワイン価格か購入後の予算残高をあいまいにして、 最後に残高を足し算させてしまうというところにある。 そもそも残高の合計という数字には何も意味はなく、それは支出額とも関係がない。 ところが、この話では残高の合計が最初の予算額に近い数字になるように話が作られている。 そのため加算の結果の数字が何か意味があるような錯覚に陥るというわけです。

    以下に参考のため、正しい価格計算と意味のない残高の合計とを列挙しておく。
  20. 購入価格 残高
    5000 5000
    2500 2500
    1000 1500
    500 1000
    500 500
    500 0


    10000  10500

第23回