氣賀康夫

パーム
Palm


    <解説>
    カード奇術の世界で非常に大切であり、忘れてはならない技法の一つにパームがあります。この技法は技術的に特別に難しいものではありませんが、それを実行するには勇気が必要です。
     ところで、パーム(palm)という言葉は本来手のひらのことを表します。 奇術の世界では「手にものを密かに隠し持つ技法」を一般にパームと呼ぶようになりました。 もともと隠し持つのは手のひらの位置だったので、その場合にはこの表現はピッタリだったのですが、 ものを隠し持つ位置が手のひらでない隠し方もパームと呼ぶのが慣習です。 極端な例では手の裏にものを隠し持つバックパームと呼ばれる手法すらあります。 奇術でよくパームされるのはコインとかボールであり、それですと文字通り掌に上手に隠し持つことができます。 一方、カードはコインやボールよりサイズが大きいので、パームには苦労があります。 今回は最も標準的なカードのパームの方法を取りあげてご説明します。

     左手に持った一組のカードからトップカードを右手にパームする方法、それとボトムカードを左手にパームする方法を中心に取りあげます。実はトップカードを右手に密かにパームするのはなかなか神経の要る仕事なのです。 一番いけないのは右手の手のひらが左手で保持している一組のトップカードのところまでお迎えに行く動作です。 現代の研究では、逆にトップカードの方が、右手のひらの方に出かけて行くという手法を用います。そのコツをご説明します。

     トップカードを右手に取るためには右手に一組を持ったまま右手片手だけでそれを実行する「ワンハンドパーム」という技法があります。その方法も覚えると便利です。カードをパームした手は、緊張してこわばることは禁物であり、緊張を避けるためには手は何気ないリラックスしている姿を呈することが大切です。また、術者の態度にもリラックスが必要です。この点で、奇術家はカードをパームしている手をどう扱うかに頭を使っています。 なお、パームしているカードを一組に戻す場合にも、パームするときと同じ思想で、パームしているカードを一組の上にお届けに行く動作は禁物であり、現代の研究ではカードだけが一組の上に出かけて行くように工夫をしています。いまではその方法をリプレースメントと呼び、独立の技法として取り扱う研究家も多くなっています。右手にパームしているカードを左手の一組のトップの位置にリプレースメントするには、右手が保持しているカードの両サイドを左手の拇指と中指で挟んで一組のトップの方に引くのがコツです。ぜひ、ご研究ください。





第9回              第11回