氣賀康夫

美女とビール

<解説> このパズルは筆者の創作デザインですが、その元となるアイディアはマーチン・ガードナーの本に紹介されている「赤と青の色鉛筆」です。このパズルでは、消滅パズルを巧妙に二つ組み合わせて、「赤鉛筆」が一本消滅すると同時に「青鉛筆」が一本出現するようにデザインされています。1枚のパズルに「消滅」と「出現」の両方を組合わせて複合的にデザインしたところがユニークです。このような複合デザインはこの「色鉛筆」のほかには見たことがありません。なお、この色鉛筆はイラストでなく、本物の色鉛筆を適当な長さに切断して作ることも可能です。この複合パズルを見て、筆者はこれを鉛筆よりも、もっと込み入った興味深いデザインにすることを考えました。そのアイディアから生まれたのがこの美女とビールです。このプロットでは女性が一人減少し、ビールジョッキが一本増えるようにデザインされています。したがって、最初、美女の数に2本足りなかったビールの本数が、最後には丁度足りる状態になってエンディングを迎えることになります。

<用具> 1枚の図柄を3枚に切り離したものです。(写真1)
3枚の裏には次の文章を書いておきましょう。
① 小さい切片  すべての女性に、
② 中間の切片  ビールをプレゼントしましょう!
③ 大きい切片  ジョッキが何本足りませんか?

写真1
写真1


<演出>
1. まず、次のように話を始めます。「ある夏のことでした。有名なビール会社が、湘南の海岸でビール祭りを催しました。『美女にはただでビールを飲ませる』というセールスキャンペーンです。ただにする条件は、美人であることです。主催者は女性の半分くらいは自分が美人だと思っているだろうと推定しました。ところが、ビールがただという魅力に惹かれて、普段は自分が美人だと思っていない人も『私、美人です!』と申し出てきました。そのため、最後はビールが足りなくなりそうな事態に至ってしまいました。」

2. ここで、3枚の切片を一つに並べますが、この時点では、右上に一番小さい切片が位置するように並べます。(写真2)このとき、絵柄を数えてみると、美女が6名おり、一方ビールのジョッキが4本あることがわかります。そこで、「ご覧ください。まだ、行列に並んでいる自称『美女』が6人残っているのに、ビールの在庫が4本になってしまいました。この状態ではビールが2本不足しています。足りないからと言って、今から工場に取りに行くのでは間に合いません。どうしたらいいでしょうか?」

写真2
写真2

3. ここまでお話をして、3枚の切片を裏返しします。そして、そこに書かれた文章を「すべての女性にビールをプレゼントしたいのですが、ジョッキが何本不足でしょうか。」と読みあげます。観客は「2本足りない!」と応えるでしょう。

4. 「私にはいい対策があります。ご覧ください。」と言い、3枚の切片を表向きに整えますが、この時点では、一番小さい切片を左上に配置します。すると、どういうわけか、女性が5人に減っており、一方、ビールのジョッキが一本増えて、5本になっていることがわかります。(写真3)そこで、「女性が5人、ビールが5本、勘定が丁度あいました。めでたし、めでたし!」と話を締めくくります。

写真3
写真3

<後記> このデザインを筆者が最初に創作したときには、女性はヌードの絵でした。ところが、ある年にこれをTAMCの大会のお土産に使おうという話になり、それではビール会社にスポンサーとなってもらい、費用負担を宣伝費で支弁してもらおうという話になったのでした。当時、会には元アサヒビールの役員であった奥井さんがおられ、会社と交渉をしてくれました。ところが、最近は大会社は神経質になっているのですね。原作のデザインを見て、最近は、ヌードは女性蔑視だという議論がありえるので、女性に水着を着せて欲しいという申し出に接することになりました。これには困りました。というのは、元のデザインには微妙なデサイン上の工夫がほどこしてあり、それはヌードでないと成立しない絵柄だったからでした。しかし、スポンサーが降りてしまっては、TAMCの予算がかさみます。そこで、デザインを何とかしろ!という要請が強くなり、作者は苦心の末、水着を着た女性にデザイン変更をするはめになりました。この微妙な個所というのは女性が6人になるデザインの一番左側の女性の絵です。オリジナルの絵と、水着を着た絵とを写真4にお示しします。このパズルはそういういわくつきの作品なのでした。

写真4
写真4

第5回                           第7回