氣賀康夫

不思議の国の兎

<解説> このパズルは図形消滅パズルと面積消滅パズルとを一つの図案に組み込んだ珍しい作品です。図形消滅パズルの絵柄には兎を使いました。そして、面積消滅は図案の中央に正方形の穴があくようにしました。そこで、兎が真ん中の穴から逃げたという演出を使うことにして、裏に逃げる兎をデザインしました。なお、ストーリーをルイス・キャロルの不思議の国のアリスに結びつけるため、アリスの絵を画き加えました。

<用具> 1枚の図柄を4枚に切り離したものです。表は兎とアリスです。(写真1)
裏面ですが、最大の切片と最小の切片の裏は空白です。そして、大きい台形の切片の裏には題名が書かれています。中間サイズの切片の裏に画かれているのはクライマックス用の逃げる兎の絵です。(写真2)

写真1
写真1

写真2
写真2

<演出>
1. 最初に4枚の切片を裏向きにし、最大の切片を一番下にして、その上に文字のある大きい切片を置き、その上に兎の後姿のある中間サイズの切片を重ね、さらにそれが隠れるように、その上に最小の切片を重ねます。これに輪ゴムをかけておきます。(写真3)

写真3
写真3

2. まず、裏向きでテーブルに置きます。観客からは文字が見えていますが、兎の後姿は隠されています。

3. 次に、パズルを表向きにして並べます。右が最大の切片で、左が最大の台形の切片です。真ん中には中間サイズの切片と、最小の切片が入りますが、このときは、最小の切片を上に配置することが肝要です。(写真4)このときのデザインは全体が正方形に仕上がり、画かれた兎の数は12匹になります。次のように話が始まります。「ルイス・キャルルはご存知ですか。この前、こう質問したら、『カルル・ルイスなら知っている。』というお客様がおられました。それはアメリカのアスリートでオリンピックの100mで優勝した英雄のことですね。でも、この話はカルル・ルイスでなく、ルイス・キャルルで、それは『不思議の国のアリス』を書いたイギリスの作家です。この絵はそのアリスと兎を画いたものです。あの物語ではアリスは一匹の兎を追いかけて野原の穴に落ち込んでしまいます。ところが、実は、アリスが追いかけた兎には沢山の兄弟がおりました。これがその絵です。数えてください。兎は何匹いますでしょうか。」観客が兎を数えると12匹です。そこで「そうです、12匹、丁度1ダースですね。」と確認します。

写真4
写真4

4. ここで、左側の切片を裏返ししてそこに書かれた文字を見せます。同時に真ん中の二つの切片を何気なく重ねておきます。そして、「不思議の国のアリスはAlice in Wonderlandと言いますが、ルイス・キャロルがそれを書いたのは1865年のことでした。これを読んだビクトリア女王が『次の作品を楽しみにしている』とフアンレターを書いたという逸話が残っています。後日、著者から届けられた本は難しい数学の学術書だったとのことです。それはルイス・キャロルが実はドジソンという数学者だったからです。」と話を続けます。

5. 次に、この切片を表向きに戻し、また、真ん中の二つの切片も整えますが、このときは小さい切片を下にしなければなりません。そうして、四枚を整えると、不思議なことに全体の中央に正方形の穴が現れます。そこで、「兎の数をもう一度数えてみてください。」とお願いします。すると兎は11匹しか見つかりません。(写真5)

写真5
写真5

6. 「おかしいですね。一匹居なくなりましたか。どうしたのでしょうか。アッ、わかりました。あれはアリスが追いかけていた兎だったのでしょう。だからこの穴から逃げていったのだと思います。」と説明します。観客はそんなはずはないと笑い出すでしょう。

7. そこで、いよいよクライマックスです。右の大きい切片をそのまま裏返しし、左の大きい台形の切片をそのまま裏返しします。そして続けて小さい切片を裏返しして上に配置し、最後に中間サイズの切片を裏返しして下に配置します。これでパズルが丁度裏返ったことになりますが、そこには逃げていく兎の後ろ姿が画かれているのでそれを見て観客は大笑いするでしょう。(写真6)

写真6
写真6

<後記> このような図形消滅パズルと面積消滅パズルを複合したパズルは他に見たことがありません。同じ考え方で、上手に工夫したデザインを考えるとまだ他の物語が展開できる可能性があります。

第8回                 第10回