氣賀康夫

漢詩竹簡

<解説> このパズルのデザインそのものの仕組みは、最もプリミティブな「短冊の消滅」のパズルのデザインに過ぎません。ただし、上下が水平に切ってある短冊に替えて、切り口が斜めになっています。これを竹簡(木で出来ているものは木簡と呼びます。竹で出来ているものは竹簡と呼ばれます。)とみなす演出を考えました。しかし、それよりもこのパズルの最大の特徴はその竹簡に書かれた漢詩の玄妙さです。この漢詩は筆者が特にお願いして上海の友人である徐康楽さんに作詩いただいたものです。その玄妙さは以下の演出の説明を読むとよくわかります。

<用具> 用いるものは1枚の図柄を斜めに2枚に切り離したものだけです。(写真1)ただし、演出を効果的にするため、裏に巧妙なデザインをしました。(写真2)この中央に画かれた「竹」という文字がピッタリする位置で、2枚の切片を合わせ、左上と右下の隅を左右の手で上手に隠すと、2枚をずらしていることが気づかれないようになるという工夫がなされています。

写真1
写真1

写真2
写真2

<演出>
1. まず、2枚の三角形をした切片の裏を上に向けてテーブルに置きます。2枚の切片には「詩文竹簡」と大書してあり、さらに小さく「2002年発掘・於湖南断層」と書いてあります。そこで次のように話を始めます。「中国の湖南省には有名な断層がありますが、そこで2002年に珍しい竹簡が発見されました。木の切れ端に文字を書いたものを木簡と呼びますが、これは竹に文字が書かれているので竹簡と呼ばれます。この竹簡に書かれたものを読んでみるとそれは漢詩であることがわかりました。それをご覧に入れましょう。」

2. ここで、「詩文」と書いてある切片の左上隅を左手で持ち、「竹簡」と書いてある切片の右下隅を右手で持ち、その二片を持ちあげます。そして、その持っている隅の4cmくらいの部分の表側を両手の四指でしっかり隠しながら、裏面の「竹」という文字(少し割れている)がピッタリ合うように保持します。(写真3)このとき、術者は表を見ないで揃えますから、見ている人は二つの三角形がピッタリと合わさったものと錯覚します。

写真3
写真3

3. このとき観客からはデザイン上に9本の竹簡が見えます。(写真4)第一本目には「春日偶思」という題名があり、最後の一本は作者の署名です。本文の詩文を表わす竹簡は7行です。一行の文字数は6文字です。筆者はこれを中文で発音してみせるようにしていますが、その演出は省略しても構いません。ここで、観客に詩は何行に書かれていますか?と質問します。観客は詩の本文は7行であると応えるでしょう。

写真4
写真4

4. 次に、詩文の和訳を読んで聞かせます。それは次のとおりです。
「窓から遠くの山を眺めると、それは小雨に濡れている。
春の柳にもたれて、見ると白雲が映えている。
堤防を巡ると鶯がよく鳴いている。
東風がよく吹き、蝶は花に恋している。
若草には情が溢れ、粗末な家のたたずまいがある。
ふと来てみると、酒を飲みつつ歌を唄う声が春を包んでいる。
詩が出来あがったので、喜んで、碧螺春の銘茶を味わおうではないか。」

5. ここで、左右の手を離して、手に持っている三角形の切片をだいたい上下に10cmくらいの間隔を空けて、テーブルの上にそっと置きます。そして次のように話を続けます。「この竹簡は丁度、湖南省の断層のところに埋まっていたので、このように斜めに切断された状態で発見されたそうです。でも考古学者がよく調べて、いまご覧にいれたような詩文だと確認したのだそうです。ところが不思議なことが起りました。では、よくご覧ください。」

6. テーブルの上で二つの三角形の切片をピッタリと合わせます。そして、詩文の行数を確認してもらうと何と一行分がそっくり無くなっているではありませんか。(写真5)そこで、「一行がそっくり消えてしまいましたが、不思議なことにそれでも詩文の内容はかわりません。もう一度読んでみましょう。」言います。

写真5
写真5

7. 読みあげる詩は次のとおりです。
「窓にもたれて、遠くの山を眺めると、それは小雨に濡れている。
堤防を巡る春の柳は白雲に映えている。
東風がとうとうと吹き、鶯が鳴いている。
若草には蝶が花に恋をする風情が溢れている。
ふと来てみると、酒を飲み歌を唄う声が家を包んでいる。
詩が出来あがったので、喜んで、碧螺春の銘茶を味わおうではないか。」

8. 最後に締めくくります。「この詩はこのように、ときどき七行詩になったり六行詩になったりするという不思議な詩であることが考古学者の研究で明らかになりました。それにしてもどうして、詩が一行突然消えたり、また出てきたりするのでしょうか?」

<後記> このように詩文を一旦斜めに切って、それをずらせて合わせてみても漢詩として十分に意味が通じているというところがこのパズルの愉快なところです。筆者の注文に応じて見事な詩文を書き上げた徐康楽さんの才能には舌を巻きました。お陰さまで他に例を見ないユニークなパズル作品が出来あがりました。

第9回                           第11回