松山光伸

手品の裾野を広げ多くのファンに
敬愛されたマーチン・ガードナー(1)

 マーチン・ガードナー(1915~2010)の名を聞いたことがある人は多いはずだ。身の回りの品を使う即席マジックや数理的なマジックを解説し、その知的で社交性に富むマジックの楽しさを広めてきた人物で、彼の著作に馴染んできた奇術愛好家はかなりの数にのぼるに違いない。

マーチン・ガードナー
マーチン・ガードナー

 それというのも完訳されたマジックの洋書が初めて日本の愛好家に紹介されたのは氏の著作であり、それだけ古くからガードナーの名が知られてきたからでもある。
 彼はマジックが主要な趣味だったことを公言していたが、氏の著作や啓蒙活動の領域は極めて幅広く、特にサイエンティフィック・アメリカン誌で25年にわたって担当していたマセマティカル・ゲームズ(Mathematical Games)欄の連載記事は、今や伝説的にさえなっている。その彼は2010年5月に95才で生涯を閉じた。氏を敬愛していた人はマジシャンのみならず、パズル愛好家・科学者・数学者・芸術家など広範に及んでおり、氏を囲む”Gathering For Gardner”(略称”G4G”)が毎年氏の誕生日(10/21)に自宅のあるアトランタ市で行われるようにまでなっていた。ガードナーに感化を受けた多くのファンが世界中から面白いものを持ち寄って情報交換や交流を楽しむのである。そして没後もこの集まりは継続しようということになり世界中でその会合が持たれる動きとなっている。(先日東京でも行われた)

ガードナーの初期のマジックのかかわり

 そのマーチン・ガードナーが著した最初の冊子は20歳の時に発刊した”Match-Ic" (1935)である。日本でも「マッチの即席奇術(高木重朗訳)」のタイトルで力書房から昭和33年に発行され、これが手品に関する海外の本としては最初に完訳されたものとなった。

Match-Ic と「マッチの即席奇術(高木重朗訳)」
Match-Ic (1935)と「マッチの即席奇術(高木重朗訳)」

 ただその中身となると30ページの本の中に手品といえるものは半分程度しか含まれておらず、残りはパズルとかひっかけ問題などを含むマッチを使った面白遊びを集めた冊子という性格のものであった。ちなみにそれ以前にプロフェッサー・ホフマンという人物が著した ”Modern Magic” というのがあり明治以降何度も翻訳が試みられてきたが、それらはいずれも完訳とはほど遠いもので、ほとんど日本への影響をもたらすことはなかった。

 そのような状況の中でガードナーの ”Mathematics, Magic and Mystery” (1956) が翻訳され、昭和34年に白陽社から「数学マジック」(金沢養訳)の名で刊行された。「マッチの即席奇術」が出た翌年のことである。これは一般書店でも広く入手できたため、多くの手品愛好家が生まれることにもなるというエポックメイキングなものである。

Mathematics, Magic and Mystery と「数学マジック」(金沢養訳)
Mathematics, Magic and Mystery と「数学マジック」(金沢養訳)

 さて、M.ガードナーの名が初めて奇術の誌面に現れるのはこれらよりかなり前の1930年5月号のスフインクス誌(The Sphinx)である。まだ昭和5年のことで、氏が15歳の時のことである。といっても無名の少年に過ぎなかったガードナーに編集部が記事を依頼したわけではない。誌面にコラムを持っていたロバート・ネルソン氏がガードナーの考えた古い手品への工夫を他の何人かのアイデアと一緒に取り上げて紹介したという経緯であった。これ以降、月を追ってガードナーのアイデアが誌面に載るようになっていく。これが彼のデビューである。ところが、実はそれに先立つスフインクスの同年1月号にガードナーの目を引く問題が掲載されていた。そしてそれこそがマーチン・ガードナーが手品やパズルに深くかかわる動機づけになっていたことがわかってきた。彼がこの世界に入り込むきっかけになったその問題をここで紹介しておこう。

15歳のガードナーが挑戦した「手品師のパズル」

 それはギルバートという通販のマジック・ディーラーが毎月掲載していた広告のページに記されていた。<写真1>は当該ページの上半分であるが、ここにマジシャンを題材にしたパズルが示されていて、正解を回答した読者にはプレゼントを進呈するというものであった。

広告のページ
写真1(クリックで拡大写真表示)

 その問題をわかりやすくここに図解してみよう。これは、3つのキャビネットを使ったイリュージョンを出し物として準備しているマジシャンが、装置の完成間際で難題に直面しているという設定の問題である。<図1>はステージを上から見たところと考えて欲しい。

見取り図
図1

 下方が客席で、舞台上には短い脚を四隅につけた空のキャビネットが3つ置かれている。また、それとは別に背後のカーテンの後側に客の目に触れないよう3つの仕掛けのボックスが置かれている(それぞれRadio, Light, Powerと名付けられている)。そしてこのトリックの仕掛けとして、3つのボックスのそれぞれから3つのキャビネットに個々に配線を施す必要があり、その配線が完了するとこのイリュージョンが上演可能になるというのである。但し、配線をするにあたってはいずれのコードも舞台の床面から浮き上がらないように這わせなければならず、加えて、コード同士がクロスして接触することが生じないようにしなければならないというのである。
 例えば、一つの配線例を図中に示したが、この例では印で示したように1か所で配線がクロスしているため まだ準備が完了できていないということになる。あなたはこの手品師の力になってうまく配線してあげられるだろうか、というのがこの問題である。

 すぐに答えを示してしまうのは余りに無粋というものだろう。ここは15歳のマーチン・ガートナーになりきってこの問題に挑戦してもらうことにしたい。スフインクス誌ではこの問題が出された翌月号で結果の発表があり、応募者の大多数は誤りだったと書かれている。ガードナーはごく少数の正解者の一人となって、その賞品としてウィル・ゴールドストンの”Tricks and Illusion”という書を獲得したのである。

 彼のこの体験が、手品やパズルへの興味をなお一層駆り立て、以降のスフインクス誌への記事掲載への弾みになったのは疑いないところだろう。

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