麦谷眞里

ニュー・マグネテイック・
カッパー・アンド・シルバーの話

(まえがき)

 さて、前回は「アルティメイト・カッパー・アンド・シルバー」の基本的な構造と手順を述べました。 その中で、シェルとダブル・フェイスを物理的に合体させるのではなくて、 ダブル・フェイスの中に磁石を仕込み、シェルのほうに鉄のシム(芯)を貼るギャフ・コインの話をしました。 それが、今回扱う「ニュー・マグネティック・カッパー・アンド・シルバー」です。 このセット商品がいまでも売られているかどうかは確認してありますので入手は可能です。 そうでなくても、コイン工房等で販売されている個々のギャフ・コインを個別に購入して構成することも可能です。 そこで、まず、コインの構成を述べます<写真1>

  1. 中にマグネットを仕込んだ銀貨(ハーフ・ダラー)と銅貨(イングリッシュ・ペニー)のダブル・フェイス 1個(ただし、口径は小さく削ってある)
  2. ①のダブル・フェイスに被せることのできる銀貨(ハーフ・ダラー)のシェル。エクスパンデッド・シェルではありません。このシェルには磁石でくっつくように鉄のシムが貼り付けてあります。 1個
  3. 普通の銅貨(イングリッシュ・ペニー) 1個 (ただし口径はシェルが被さるように削ってある)
  4. 普通の銅貨(イングリッシュ・ペニー)に鉄の芯を入れて磁石にくっつくようにしたもの。 1個 (これも口径は削ってあります)
<写真1>

 今度もシェル以外のコインはシェルが被さるように口径をやや小さく削ってあります。このうち、①~③は、ロックが物理的か磁石かの違いだけで、コインそのものの構成はまったく同じですから、「アルティメイト・カッパー・アンド・シルバー」で行なった銀貨と銅貨の交換現象はそのままこのセットでも行えます。「アルティメイト・カッパー・アンド・シルバー」のセットにはなかったコインは磁石にくっつくように鉄の芯を入れた④の銅貨です。この1枚が加わることによって、新たな現象をいくつか見せることができます。

1.錬金術

 これは、ジョンソン・プロダクツの解説に書いてあるものです。 絵や写真は1枚もありませんので、昔の日本人のように実演を観ないでアメリカから通販で買った人の中には意味のわからなかった人がいた可能性があります。

[現象]

 1枚のカードの下で、銀貨が銅貨に、銅貨が銀貨に変化します。

[使用するもの]

  1. 銀貨のシェル
  2. 磁石のダブル・フェイス
  3. 普通の銅貨
  4. カード 1枚

[使用するもの]

  1. 普通の銅貨にシェルを被せたものを観客の手の上に置きます。ジョンソン・プロダクツの解説では進展させた指先の上、となっています。これは、掌では窪みがあってシェルの存在がわかってしまうおそれがあるのと、手の甲では載せたコインが滑り落ちてしまう可能性があると思われるからです<写真2>
  2. <写真2>

  3. この状態で、客に、銀貨が手の上にあることを確認させ、カードを1枚だけその上に載せます。そして、このカードの上に、ダブル・フェイスのコインを銅貨が上になるようにして載せます。載せる前にもう一度、客の手の上には銀貨があることを確認します。この銀貨はシェルで、その下には普通の銅貨があります。その上にカードがあり、今度は、そのカードの上に、ダブル・フェイス・コインを銅貨の面を上にして載せます。位置は、客の手の上にあるコインのちょうど真上あたりです<写真3>
  4. <写真3>

  5. 客に、カードの下にあるのは銀貨か銅貨か訊ねます。答えは銀貨です。そこで、カードの上にあるのはどちらか訊ねます。見えているので愚問ですが銅貨です。「よくご覧ください」と言って、マジシャンが右手の指先でカードの長いほうの縁を持って持ち上げると、カードの下にあった銀貨が客の手の上で銅貨に変化しています。これは、カードの上に置いたダブル・フェイス・コインの磁石にカードのすぐ下にあるシェルがくっついたのです<写真4>
  6. <写真4>

  7. 客に、手の上にある変化したコインを調べてもらいます。これは普通の銅貨です。 この間に、カードの長い端を左手の指先で持ち替えて、さらには右手を、右手親指が上、他の指が下になるようにしてカードを持ち替えます。 このとき、右手の親指でカードの上の銅貨(ダブル・フェイス)を押さえ、カードの下に回した他の指でシェルを下から支えます<写真5>
  8. <写真5>

  9. 「今度はこの銅貨を」と言って、左手でカードの上の銅貨を取り上げ、カードの下に回し、ダブル・フェイスの銅貨をそのままシェルの下に入れます。磁石でくっついて、両面銀貨になります。「今度もあなたの指の上に置きます」と言いながら、客に空いているほうの手指を進展して差し出してもらい、その上に、カードとその下のロッキングされた銀貨とを載せます。客は、カードの下は銅貨だと思っています。客にゆっくりとカードを取ってもらいます。下にあるのが銀貨なので客は驚きます(<写真6>。この時点で、最初の銅貨も次の銀貨もカードもすべて客の手にありますから、言うまでもなく、すべて調べさせることができます。
  10. <写真6>

[コメント]

 やってみると自分が思っていたよりも現象が鮮やかです。観客も驚きます。 最後に、マジシャンの両手が完全に空いてしまって、両手に何も残らないところがすっきり見えます。後半のダブル・フェイスにシェルを被せるところは、別にマグネットである必要はありませんが、マグネットのほうが、動きが柔らかくて自然に見えます。前半のカードを持ち上げて銀貨が銅貨になるところは、マグネットでなければできませんので、そこがミソです。

2.カッパー・スルー・カップ

[現象]

 透明なカップに入れた銅貨と銀貨のうち、銅貨だけがカップを貫通します。

[使うコイン]

  1. 銀貨のシェル
  2. 銅貨と銀貨のダブル・フェイス
  3. 鉄の芯の入った銅貨
  4. 薄手の透明なプラスチック・カップ

[やり方]

  1. 左手に鉄の芯の入った銅貨をクラシック・パームします。テーブル上に、透明なプラスチック・カップと、 ダブル・フェイスの銅貨面を上にしたコインと、銀貨のシェルを並べて置きます<写真7>
  2. <写真7>

  3. 透明なプラスチック・カップの底を持ってカップ全体を横向きにして、口が右側を向くように持ちます。 鉄の芯の入った銅貨は左手にクラシック・パームしたままです<写真8>
  4. <写真8>

  5. このカップの中の口のところに、まずダブル・フェイスの銅貨を載せます。次いで、それに重なるように、銀貨のシェルを載せます<写真9>
  6. <写真9>

  7. この状態で、観客の1人に、銀貨か銅貨かどちらかを選んでもらいます。これはマジシャンズ・チョイスですのでどちらでもかまいません。いま、銅貨が選ばれたとします。そのまま左手を立てると、カップの中のコインは重なってマグネットでひとつになります。 同時に左手にパームしていた鉄の芯入りの銅貨をカップの底に当てるとカップの中にあるコインの磁石によって、銅貨は底にくっつきます。ただし、カップの中の銀貨(シェルが被さったダブル・フェイス)とカップの底の銅貨を少しずらして示すと、あたかもカップの中に、まだ銀貨と銅貨があるように見えます<写真10>
  8. <写真10>

  9. 「ご覧ください。あなたが選んだ銅貨だけがカップを貫通します」と言って、右手でカップを左右に揺らすと、底にくっついていた銅貨だけがテーブル上に落下します。また、このカップを左右に揺らす作業によって、シェルが完全に被さります<写真11>
  10. <写真11>

  11. もし、観客が銀貨を選んだ場合は、もちろん、「あなたが選んだ銀貨だけをカップの中に残します」と言うのです。

[コメント]

 この現象は、基本的に、カップの底でなくても、何か薄いもの(たとえば不透明なシルク)を挟んで、下に鉄の芯の入った銅貨、上にダブル・フェイスの銅貨面を上にした状態にして載せれば、手を離しても下側の銅貨は落ちないので、シルクを2枚の銅貨がサンドイッチした状態になります。したがって、上側のダブル・フェイスの上に銀貨のシェルを重ねて載せて、シェルを完全に被せれば磁石で固定されて、上側の銅貨と銀貨は1枚の銀貨になります。同時に下側の銅貨を落下させれば、銅貨だけがシルクを通過して下に落ちた現象になります。
 また、上記の透明なカップでは、口側に置いたシェルとダブル・フェイスが重なってロックされて底に落ちたときに、一回転してシェルの側が下になっていると、シェルの分の厚みだけダブル・フェイスの中の磁石が遠くなって磁力が弱く、カップの底の外側にある銅貨がくっつかないことがあります。その場合は、無理にカップの中でロックされたコインをさらに回転させるようなことはしないで、鉄の芯入りの銅貨をそのままパームしておいて、カップの底を左手で持って、カップを揺らすときに左手から落下させます。

3.磁石と鉄芯の利点を生かして

 「ニュー・マグネテイック・カッパー・アンド・シルバー」は、単純に物理的なロックが磁石のロックになっただけでなく、鉄の芯の入った銅貨がセットになっているところがミソです。そこで、その利点を生かした手順を上に2つ紹介しましたが、すでに述べたように、この鉄の芯入りの銅貨を使わなくても「アルティメイト・カッパー・アンド・シルバー」の手順は完全に行なうことが可能です。
 しかし、もし、磁石のロックがそれほど強くなければ、「アルティメイト・カッパー・アンド・シルバー」の最大の弱点であった、最初に銀貨と銅貨の両面を観客に見せることができない、という課題を克服することができます。それには、この弱い磁石のロックを外すために鉄芯入りの銅貨が必要なのです。基本的な手順は同じなので、最初のところだけ簡単に書きます。右手にロックされた両面銀貨を指先に持ちます。左手は、鉄芯の入った銅貨を指先に持ちます。この段階で、両手の指先でコインを回転させて、両方のコインの両面を見せます。確かに、右手は銀貨、左手は銅貨です。見せたら、右手の銀貨をシェルが上になるようにして、右手の親指と人差し指とでコインのエッジを持ちます<写真12>

<写真12>

 このコインに下から左手の銅貨を当てます。すると、磁石ロックが外れて、シェルの中のダブル・フェイスが左手の銅貨にくっついて来ますから、ただちに2枚の銅貨を重ねて、さらにその上に銀貨のシェルを少し重ねて左手人差し指と親指で挟んで持って示します<写真13>。銅貨が2枚あることは、他の指で隠れて厚みが見えません。

<写真13>

 この状態で、右手の親指を上から銀貨(シェル)に当て、他の指を下から銅貨の下側になっている鉄芯入りコインに当てて、上下のこの2枚だけを右方向に引っ張ると、シェルの中に銅貨が入って、これで、「アルティメイト・カッパー・アンド・シルバー」の最初の形になります<写真14>。したがって、ここから前回の「アルティメイト・カッパー・アンド・シルバー」の手順に入ることができます。しかも、演技の最後に再び銅貨と銀貨の両面を見せることができますから、演技の最初と最後にコインをすべて改めたことになります。

<写真14>

 商品として販売されている「アルティメイト・カッパー・アンド・シルバー」の仕様は、磁力の強いものから弱いものまでいろいろです。 したがって、すでに所有している磁石ロックのコインがセット内の鉄芯入り銅貨では簡単に外れないものもあります。 その場合は、シェルを少し緩めるのも方法ですが、銅貨を鉄芯入りのものからやはり内部に磁石を装着したものに替えると簡単です。 こうすれば磁力が強いですから、ダブル・フェイスは比較的簡単にシェルから外れます。 この磁石入り銅貨はセットには含まれていないので別途購入しなければなりません。 幸い、磁石を装着した銅貨は、国内外のディーラーで容易に入手が可能です。 ただし、言うまでもないことですが、単体で売っている磁石内蔵銅貨は、口径が通常の銅貨のままですから、 そのままでは、セットのシェルに入りませんので、周囲を少し削らねばなりません。 ヤスリを使って上手に削るのはけっこうたいへんな作業です。 すでに書いたように、テーブル・ホッピングで演じている職業奇術師は、バンリングを使ってシェルを外す余裕などありませんから、 いきおい、磁石ロックの「ニュー・マグネティック・カッパー・アンド・シルバー」を使うことになります。 実際に練習してみますと、テーブル・ホッピングの移動中に磁石ロックのシェルを外すのもそんなに簡単ではないことがわかります。 そこで、もし、この手品をどうしても自分のレパトァに入れたいのなら、いずれにしても磁石でロックされたコインを客に改めさせないという前提で、 むしろ、口径を削ったコインではなくて、通常のダブル・フェイス・コインとエキスパンデッィド・シェルを使うやり方をお勧めします。 磁石でなくてもそれなりにロックされていますし、口径を削ってないコインのほうが扱いやすいです。