麦谷眞里

Rusduckの”the Cardiste”について

(まえがき)

 「ラビリンス」におけるカード・マジックの取り扱いは、すでに平川さんや気賀さんの貢献があって私などの出る幕ではありませんし、屋上屋を重ねる気もありませんが、これまで日本ではあまり取り上げられることのなかった、かつてアメリカ合衆国で1年間だけ刊行されたカード・マジック専門誌”The Cardiste”のことをこの際取り上げておきたい、と思います。
 Rusduckというのはペンネームで、本名は、J.Russell Duckという人です。1957年にカード・マジックの専門誌”The Cardiste”を創刊し、12号まで出しました。私の手元にあるのはオリジナルの雑誌ではなくて、Gene Shelleyによって1969年に合本されて限定版で出版されたものです<写真1>

<写真1>

 この本は、限定版(総発行部数は不明です)のNo.11で、発行人である、Gene ShelleyからLarry Jenningsに送られたものです。私はこれをアメリカ合衆国のディーラーから購入しました。この合本版は、さらに2006年にカナダのMicky Hadesによってやはり限定版(これも部数は不明です)で刊行されました<写真2>。ということは、カード・マジック愛好家の間に根強い需要があるということです。ちなみに私の所有しているこの版の番号はNo.35で、発行人のMicky HadesからStephen Minchに送られたものです。これもアメリカ合衆国のディーラーから入手しました。これらの例が示すように、本や雑誌は、贈るほうはこの人にぜひ、と思って謹呈するのですが、それはあくまでも贈るほうの価値観で、もらったほうは必ずしも重宝しているわけではないのは明らかです。私は、このような本をたくさん所蔵しています。エドワード・マーロー宛に贈られたものや、ダイ・バーノン宛に贈られたものもあります。さらに、日本の現存するマジシャンが自著を、やはり日本の有名な推理小説家に謹呈したものが、当然のごとく署名入りで私の手元にあります。これは、日本の古本屋から購入したものです。本はあげてしまえば、もらった人の自由ですから、どう処理されようと文句は言えません。私も謹呈した雑誌を売却された経験があります。自分が恵存と署名した本や雑誌が、市場で販売買されているのは、なんとも言えない複雑な気分です。

<写真2>

 さきほど12号まで刊行されたと書きましたが、Rusduck自身は1959年の5月24日に永眠していますから、実際に最後の12号が出たのはMilton Kortの手によって1960年の3月でした。さらに1969年になって特別号の13号が追加されて完成しました。刊行された1957年の購読価格は1年12冊で3ドルです。当時の3ドルをいまの日本円に換算するのは簡単ではありませんが、ドルの価値は約9倍で、換算レートは1ドル360円でしたから、9720円くらいです。実際は当時の円の購買力平価から行くともっと高いと思われます。1冊16ページで、原稿はタイプライターで打って、それを印刷したものと思われます。複雑なカード・マジックを書いているのに、写真は論外としても図版や絵が一枚もないのにも驚かされます。前述した上記の2冊は現在では入手困難ですが、ほぼ原型に等しいものをVanishing Inc.から約20ドル(約2200円)でダウンロードすることができます<写真3>。ところどころ不鮮明な部分もありますが、判読するのはそれほど困難ではありません。

<写真3>

 さて、1960年と言えば、昭和35年ですから、「奇術界報」はもとより、「奇術研究」は「4枚のA特集」の第17号が刊行された年です。二川滋夫さんも、「17号を読んだときの衝撃は忘れられない。宝物だった」と述懐されています。ところが、当時、どの奇術雑誌にも、上梓された奇術専門書にも”the Cardiste”から紹介・引用したものはありません。高木重朗さんは、間違いなくこのカード奇術専門誌の存在をご存知で、実物も読んでおられたと思います。ところが、高木さんの著書にも「奇術界報」にも「奇術研究」にも「トップ・マジック」にもこれに触れたものはありません。後年、大阪の松田道弘さんが、大阪奇術愛好会の会誌「スベンガリー」の中で、一組のデックのセット・アップを述べられたときにRusduckと彼の “the Cardiste”について概要を紹介されましたが、それが日本語になった唯一のものだと思われます。

 ここからは私の想像です。“the Cardiste”に扱われているカード・マジックはいわゆるポーカー・ディールが多いのです。日常的にポーカーを行わない日本の観客にとっては、手札の優劣も説明しなくてはいけませんし、4人ないし5人の参加者を想定して、4つや5つの手札を点検しながら、さらにマジシャンであるディーラーの手札を見せて行く長い手順は、退屈であまり読者の興味を惹かないと判断されたのだと思います。その判断は正解で、今日に至るまでも、最後にロイヤル・フラッシュのクライマックスを見せる小品はあっても、長々とポーカー・デモンストレーション(ポーカー・ディール)を行うカード・マジックは日本の主流ではありません。

 もうひとつ大事な要素があります。後で詳しく述べるように、Rusduckは、“the Cardiste”の第1号で、”STAY-STACK”なるシステム(彼がシステムと呼んでいるのです)を発表し、一世を風靡しました。デックのセット・アップは、「サイ・ステビンス・システム」や「二コラ・システム」のように、システムと呼ばれることが多いのです。彼の”STAY-STACK”は、Ed Marloの興味も引くし、後年、これにつながるものに、Juan TamarizのMNEMONICAがあります。ところが、後述のように、この”STAY-STACK”には、パーフェクト・リフル・シャッフルが必要です。パーフェクト・リフル・シャッフルは、テーブルの上で行なうにはマットが必要ですし、流れるように行なうにはかなり練習が必要で、それでもうまく行かない場合があります。それに代わる方法として、Rusduck自身はパーフェクト・フェロー・シャッフルを提唱していますが、これでも当時の日本の標準的な奇術愛好家にはハードルが高いと高木さんは判断されたのだと思います。

 そういう経緯があって、長い間、Rusduckは取り上げられて来ませんでした。今回、取り上げようと思ったのは、パーフェクト・フェロー・シャッフルはみなさんが頭で思うほど難しくないことと、今回取り上げないと、おそらくこれからも日本では埋もれてしまうと思ったからです。

1.STAY-STACK SYSTEM

 これは、1957年2月に創刊された”the Cardiste”No.1の12ページに掲載されました。何回も繰り返しますが、写真や図版は1枚もありません。しかもRusduckは決して解説が上手ではありません。英語がかなり達者な人でもこれを文章だけで理解するのは困難だと思われます。ここでいまのデックの状態を書いてくれたらいいのに、と途中で何度も思いました。これは自分で動きのわかっている人が解説を書く典型で、たぶん、自分の頭の中ではデックの状態が描けているので、ひとつひとつ書かなくてもいいと思うのでしょう。手品の解説には、往々にしてあることです。むしろ、よくわかってない人が演者に確認しながら解説を書くのが一番いいのです。その典型例が、バーノンの手品の解説を行うルイス・ギャンソンです。そうでなければ、もともと解説の才能があって、上手に他人の手品の解説を書くことのできるハリー・ローレインかカール・ファルヴズが良いのです。そこで今回は十分な写真で補うこととしました。

  1. 新しいデックを1組用意してください。ジョーカーや広告のカードは取り除きます。52枚だけ使います。写真ではタリー・ホーを使っています。新しいデックは、メーカーによっても異なりますが、一定の順序で並べられてパックされています。USプレイング・カード社の場合は、表向きにデックを持つと、最初にスペードのAからKまでの13枚で、その次にダイヤのAからKの13枚、それから、今度は逆順でクラブのKからAが13枚並び、最後にハートのKからAが13枚になっています<写真4>
  2. <写真4>

  3. もし、この順に並んでいない他社のデックを使われる場合は、練習の便宜上、この順にカードを並べてください。中央のダイヤのKとクラブのKのところでデックを左右に分けます。これは26枚ずつのカードです<写真5>
  4. <写真5>

  5. この左半分を左手に、右半分を右手に持って、パーフェクト・フェロー・シャッフルを行ないます<写真6>。コツは、新しいデックを使うことと、最初に、左手の半分の左下隅と右手の半分の左上隅だけを目で見ながら、下から確実に一枚ずつ互い違いに入れて行くことです。下側の4分の1くらいが入れば、後はスムーズに上まで入ります。フェロー・シャッフルにはトップ・カードがそのままトップに残るアウトのフェロー・シャッフルとトップ・カードが2枚目になるインのフェロー・シャッフルとがありますが、これはアウトのフェロー・シャッフルです。実はどちらでもかまわないのですが、ここは練習のためにアウトのフェロー・シャッフルにしてあります。
  6. <写真6>

  7. シャッフルが終わった状態のデックを<写真7>に示します。あたりまえですが、トップ・カードとボトム・カードはAになっていますし、2枚目はそれぞれKになっています。
  8. <写真7>

  9. この状態から、もう一度中央でデックを分けて(赤と黒で別れています)、26枚ずつの半分をパーフェクト・フェロー・シャッフルします<写真8>。そうすると、ことごとくペアのカードのデックができあがります。これを中央で分けて(ダイヤの7とクラブの7との間)、26枚ずつの半分をさらにパーフェクト・フェロー・シャッフルします<写真9>。すると、次に述べるデックの基本構造は、何回パーフェクト・フェロー・シャッフルしても変わらないことが判明します。
  10. <写真8>

    <写真9>

  11. 上半分と下半分は常に対称となっていて、たとえばトップ・カードとボトム・カードは、スートは異なるものの数字は同じで、以下、2枚目も数字は同じです。その特徴を列挙すると次のようになります。
    1. 各々の半分は、どの数字のカードも2枚ずつ含む。
    2. 各々の半分は、13枚の赤のカードと13枚の黒のカードから構成されている。
    3. 各々の半分は、AからKまでの13枚のすべての数字の赤と黒のそれぞれ1枚ずつから構成されている。
    4. 一方の半分は、逆順でもう一方の半分の補完的位置構造(鏡像)になっている。
  12. Rusduckの記述は、このあとPinochleデックの話になって、このシステムを使ったカード・マジックなどは述べられていません。Rusduckは、大発見のように書いていますが、そもそもパーフェクト・フェロー・シャッフルをしているわけですから、何回やろうとこのような構造になることは数学的に明らかで、Persi Diaconisとか松山光伸さんから見れば、至極当然のことを言っているとしか映らないと思います。ただ、このような法則を発見して奇術雑誌に掲載したのは彼が初めてかもしれません。Rusduckの本職は警察官ですから、とても数学の素養があったとは思えませんので、実際にシャッフルを重ねて、このような構造を発見したのは、科学の基本アプローチとしては評価するに値します。それでは、これを手品に応用するにはどうしたらいいでしょうか?それにはEd Marloの登場を待たねばなりません。

2.Ed MarloのSTAY-STACK MIRACLE

 これは、”the Cardiste”の最後の号No.12に掲載されたものです。最初にポイントを言っておきますと、「シャッフルしながら何回も繰り返すことができる」のがこのスタックの利点です。

[現象]

 マジシャンは、デックを数回シャッフルしたあとで、客にデックをカットさせます。カットしたパイルは裏向きのままテーブルの上に置きます。マジシャンは残りのデックをカットして表向きで一瞥した後で、ただちに客がカットしてテーブルに置いたパイルのボトム・カードの名前を言います。この現象を、デックをシャッフルしながら何回も繰り返すことができるのです。

[準備]

 デックを次の順に揃えておきます。トップから裏向きで、クラブのAからK、次にハートのKからA、その次に、スペードのAからK、最後に、ダイヤのKからAです<写真10>。ダイヤのAがボトム・カードで、これにクリンプを付けるように解説ではなっていますが、基本的にその必要はありません。


<写真10>

[やり方]
  1. 以下のシャッフルは、すべてパーフェクト・フェロー・シャッフルです。客にシャッフルの回数を指定させることもできます。演技は1回目のシャッフルの後からできますが、原理の説明のために2回シャッフルしたあとから解説してみます。
  2. まず、1回目のシャッフルです。準備されたデックを中央のハートのAのところで分けます。ハートのAは、左手の上半分のボトム・カードです。ここが26枚の分岐点です。左手に上半分、右手に下半分を持って、アウトのパーフェクト・フェロー。シャッフル行ないます。終わった時点でのデックは<写真11>です。
  3. <写真11>

  4. 2回目のシャッフルを行ないます。分けるところは、スペードのKです。スペードのKは左手の上半分のボトム・カードです。ここが26枚目の分岐点です。1回目と同様に、左手に上半分、右手に下半分を持って、アウトのパーフェクト・フェロー・シャッフルを行ないます。2回目のシャッフルが終わった時点でのデックの状態は、<写真12>です。
  5. <写真12>

  6. この段階で原理を説明しておきます。ペアになるスートは「クラブとダイヤ」それに「ハートとスペード」です。ダイヤとクラブの状態は、トップからボトムへクラブのA~Kが順序良く並び、逆にダイヤは、ボトムからトップへ向かって逆順にA~Kが並んでいます。同様に、スペードがトップから順にA~K、ハートが逆にボトムからトップに向かってA~Kと並んでいます。パーフェクト・フェロー・シャッフルを続けて行くと、もちろん、カードの位置や順序は変わりますが、ペアのスートのカードがトップからの順序とボトムからの順序と逆になっている基本構造は変わらないのです。何回かパーフェクト・フェロー・シャッフルした後のデックの状態をその都度示しますので、言っている意味がわかると思います。
  7. では、<写真12>の状態で、[現象]の項の手品を説明します。この状態でデックをテーブル上に置きます。客に、デックを好きなところで分けてくれるように言います。ただし、半分以上は取らないように注意しておきます。客がデックから任意の枚数を取ったら、それをテーブルの上に裏向きで置いてもらいます。この段階では、マジシャンにも客にもテーブル上のパイルのボトム・カードはわかりません。
  8. マジシャンは残りのデックを裏向きで取り上げて、何回かカットします。最後にカットするときは再びダイヤのAがボトムに来るようにカットします。このために、ダイヤのAにクリンプをかけておくとカットしやすいのですが、このあとすぐに、この残りのカード群を表向きにしますので、表を見ながら、ダイヤのAをボトムに持ってくるようにカットできますから、あえてクリンプする必要はありません。
  9. ダイヤのAがボトムに来た手元のカード群を表向きにします。このカード群のトップ・カードを見ます。仮にスペードの3であったとします。このペアはハートの3ですからハートの3を探します。するとハートの3の右隣にはスペードのJがあります。したがって、テーブルの上のパイルのボトム・カードはペアのハートのJであることがわかります。
  10. 別の例をやってみます。左手のトップ・カードがハートの10であったとします。ペアはスペードの10ですから、それを探し右隣のカードを見ます。ダイヤの4です。したがって、テーブルの上のパイルのボトム・カードはペアのクラブの4です。
  11. これは何回シャッフルした後でも同じようにできるのです。

3.Ed Marloの追加

  1. パーフェクト・フェロー・シャッフルするとき、デックを正確に26枚ずつ半分に分けなければならないので、そのための中央のカードを覚えておくと、すぐに半分に分けることができます。それは、最初に、このMarloのデックのセット・アップから始めたときは、以下のようになります。
  2. 1回目のシャッフルのときのカット ハートのA
    2回目のシャッフルのときのカット スペードのK
    3回目のシャッフルのときのカット ハートの7
    4回目のシャッフルのときのカット スペードの10
    5回目のシャッフルのときのカット ダイヤの9
    6回目のシャッフルのときのカット ダイヤの5
    7回目のシャッフルのときのカット ダイヤの3
    8回目のシャッフルのときのカット ダイヤの2

  3. ご存知とは思いますが、パーフェクト・フェロー・シャッフルを8回行なうと、デックは再び最初の順序になります。したがって、9回以上のことは書いてありません。次にこのSTAY-STACKの組み合わせの特徴を列挙しておきます。これを実際の手品にどのように応用するかは読者のみなさんの自由です。
  4. 最初のパーフェクト・フェロー・シャッフルが終わったときは、デックは26枚の赤と26枚の黒とに分かれています<写真13>。かつトップからボトムへA~Kのペアと、ボトムからトップへのA~Kに並んでいます。4枚のキングは中央にあって、スペードのキングで分けるとデックを26枚ずつに分けることができます。 。
  5. <写真13>

  6. 2回目のパーフェクト・フェロー・シャッフルが終わった段階では、赤と黒が交互になっていて、4枚の7が中央に来ています<写真14>。赤いカードはボトムからトップへの、黒いカードはトップからボトムへのA~Kの循環になっています。
  7. <写真14>

  8. 3回目のパーフェクト・フェロー・シャッフルを行なうと、赤と黒は2枚ずつ交互になって、中央は4と10のペアになっています<写真15>。スペードの10が26枚目の分岐点です。
  9. 4回目のパーフェクト・フェロー・シャッフルが終わったときは、4枚ずつのカードのいずれも、それぞれ、4つのスートから形成されています<写真16>。ダイヤの9が26枚の分岐点です。
  10. 5回目のパーフェクト・フェロー・シャッフルを行なったあとは、絵札以外の隣り合ったカードの合計は、9か10になっています<写真17>。ただし、9や10はそのままです。どこかでカットしたパイルのボトムが絵札だったら、すぐ下のパイルのトップ2枚の合計は9か10です。またカットしたパイルのボトムが絵札でなかったら、すぐ下のカードも見て、それが絵札でなかったら、ボトムの合計は9か10で、すぐ下のパイルのトップは絵札です。また、カットしたパイルのボトムから2枚目のカードが絵札だったら、すぐ下のパイルのトップは、上のパイルのボトムと足して9か10になる数字のカードです。
  11. <写真15>

    <写真16>

    <写真17>

  12. 6回目のパーフェクト・フェロー・シャッフルをすると、トップから13枚毎のカードが、クラブ・ハート・スペード・ダイヤの順序になっています<写真18>。各々の13枚は、3枚のスートが3セットと4枚のスートが1セットから構成されています。たとえばトップの13枚は、4枚のクラブ、3枚のハート、3枚のスペード、3枚のダイヤからなっています。4枚あるスートは、順番になっていて、トップから2番目の13枚では、4枚あるスートはハートです。同様に、3番目の13枚では、4枚あるのはスペードで、最後の13枚では4枚あるのはダイヤです。
  13. <写真18>

  14. 7回目のパーフェクト・フェロー・シャッフルを行なうと、奇数のカードと偶数のカードとがそれぞれグループ化されています<写真19>。しかも、これらのカード群は、クラブ、ハート、スペード、ダイヤの順になっています。
  15. <写真19>

  16. デックをダイヤの2のところで分けて、8回目のパーフェクト・フェロー・シャッフルを行なうと、デックは最初のセット・アップに戻ります<写真20>。これで、52枚のカードはSTAY-STACKの順番に戻りました。
  17. 上の解説は、最初にデックを特定のセット・アップにして行なったものです。新品のデックの順序は、メーカーによって異なりますので、すべての市販のデックが、このような順序になっている保証はありません。したがって、自分の多用するデックについては、どのような結果になるかを事前に点検しておく必要があります。
  18. <写真20>

4.コメント

 本当は、フェロー・シャッフルではなくて、テーブル上のリフル・シャッフルでやりたかったのですが、パーフェクト・リフル・シャッフルは、やるのも解説もかなり難しくて断念しました。テーブルド・リフル・シャッフルのできる方は、フェロー・シャッフルよりもそのほうがいいと思います。26枚の分け目も裏向きのまま左手でインデックス側をリフルするだけですぐにわかりますから、観ている観客からは、ずっと不思議に見えます。
 ところで、改めてパーフェクト・フェロー・シャッフルを練習してわかったことは、最大の障害は技術ではなくて視力だということでした。私もすでに老眼なので、パーフェクト・フェロー・シャッフルをするときにデックの隅を見ながら揃えるのに苦労します。眼鏡が必要になります。老眼鏡は常にかけているわけではないので、思わぬ伏兵でした。
 解説を書きながら、この手品は、商業誌に載せるのは難しいな、と思いました。かつて「奇術研究」や「奇術界報」などに載らなかったのは、技術の習得のための苦労の割には、現象が地味で、観客受けしないからだと思いました。現象だけを見れば、デックを数回シャッフルして、カットして、さらに客が自由にカットしたパイルのボトム・カードが当たるわけですから、特に、マニアはびっくりします。ただ、当然ですが、手品はマニアをひっかけるためのものではありませんから、同じような現象をもっと他の手段で実現できますので、何も52枚のデック全体をセットする必要がないのも頷けます。
 ということで、今回は、フル・デックのセット・アップを取り上げてみました。これをざっと読んで、「パーフェクト・フェロー・シャッフル」をするところで諦めてしまった方がおられると思います。でも、とりあえず練習してみてください。どのような入れ方でもかまいません。けっこうできるようになるものです。私もかつて、中学生くらいのときに、「パーム」と書いてあるだけで敬遠していました。それがいつの間にか苦もなくパームができるようになって、ホーミング・カードもカード・トゥ・ザ・ポケットもできるようになりました。誰かができることは自分もできるものです。Good Luck!