坂本圭史

カードは“旅の疲れ”を癒してくれる

 今でこそ 毎月のように海外に出かける人も少なくないが、第二次大戦以前は、観光はもとより 海外に業務出張する人も本当に少なかった。

 そのような環境の中で、私の伯父は「日本を代表する絹織物メーカーの役員」していた都合で、戦前4回、海外に出かけている。ワシントンを訪れた時はモーニングにシルクハットと言う姿でホワイトハウスを訪ねた・・・と言う話も聞き、その時の写真を見せてもらった事もある。戦前は、それほど海外に出掛ける事はめずらしい事であった。

 何故こんな話をするか? 実は航空機内で配られるカードも、もとを正せば昔の外国航路の船の中で、あり余る時間を紛らわすために配られたのがその起こりであるという事。そして一昔前、カードは数少ない貴重なゲームの1つであったと言う事を申し上げたかったのである。いまをときめくN社も取扱商品と言えば花札とカード(トランプ)からスタートしている。

 もう1つの視点は、航空機の場合 立て続けに丸1日以上乗ることは殆どないが、その昔 船でニューヨークに着くまでに「英会話が出来るようになる・・・」とか、マルセーユに着くまでに「坊主頭の日本人も(当時日本の若者はマル坊主が多かった)それなりに髪も伸び、ジェントルマンになったものだ・・・」と、私が子供のころ、伯父から聞かされたことを覚えている。それほど昔の海外航路(欧米)は長時間 船内に閉じ込められていた・・・という事を表すエピソードである。


写真1

 その長旅の気持を和らげる手段(役割)の1つがカードにはあったのである。

 <写真1>のカードは私が子供の頃 伯父からいただいたカードで、現在持っているカードの内、おそらく私が始めて手にしたカードであろう。

 最近になって調べてみたところ、American Mail Lineは今American President Lineと社名を変えて存続しており(但し貨物船のみで、客船は運航していないとの事)、船名はPresident Grantと見える。当時としては豪華客船。

 “Orient-Round The World”とあるのは“東洋経由の世界一周航路“という事だろう。調べてみると14124トンだったとの事であるが、残念ながら嘗てのこの豪華客船も 1948年にスクラップされてしまった。岡晴夫の“憧れのハワイ航路”より更に20年以上も前の話である。このカードを見ていると「自分ひとりでゆっくりと・・・」まさにスローライフだった、古きよき時代の外国航路の風景が瞼に浮かんで来る。


写真2

 今であれば、例えば日本一の豪華客船“飛鳥Ⅱ”(総トン数50000余トン、客室数436室、乗客数800名)に家族そろって乗る機会があったが、テレビ、電話は申すまでもなく、和食・洋食・中華はフルコースで選び放題、加えてショッピング、バー、ラウンジ、劇場における各種催物、屋内遊戯やスポーツ、美容サロン、フィットネスセンター、展望大浴場など・・・時間の経つのを忘れさせてくれる。マジックについて言えばイリュージョンも見ることが出来るし、マジック教室も開かれている。私も依頼を受けて船内の劇場で「趣味と人生~マジックあれこれ~」というテーマで講演をして、乗客に楽しんでいただいた事もある。

 海風を頬に感じながら至福を味わい、自由気ままに時のたつのを忘れ、魅惑のクルーズライフを楽しむ事が出来るのである。<写真2>は飛鳥Ⅱの船内で求めたカード(ジョーカー)である。

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