土屋理義

マジックグッズ・コレクション
第12回

「魔術の女王」のスチール写真

 稀代の女奇術師・松旭斎天勝(初代)が、引退興行を始めたのは昭和9年(1934)3月の新橋演舞場からです。そして昭和11年3月21日に、舞台生活40年の総決算として製作されたトーキー映画「魔術の女王」(製作・P.C.L.-東宝の前身)が、東京の日本劇場で封切られました。天勝一座の美貌の秘蔵っ子・情熱のマリ子(竹久千恵子)が、花形曲芸師・吉田(滝沢修)と道ならぬ恋の逃避行に走り、やがて落ちぶれて師匠の天勝に、無断で退団したことへの許しを乞うという筋立てです。

「魔術の女王」の映画広告、右・マリ子役-竹久千恵子、左・吉田役-滝沢修
①「魔術の女王」の映画広告、右・マリ子役-竹久千恵子、左・吉田役-滝沢修

 旬報の「浅草東京花月劇場ニュース」(吉本興業直営)には、早くも2月29日発行の第12号から3回続けて予告が載っていて、「豪華絢爛、世界的大魔術の展開する舞台を背景にひらく、淡々として清き師弟愛と燃える様な情熱の物語。天勝とアメリカから帰った竹久の顔合わせに、滝沢修、赤木蘭子、丸山定夫、御橋公、三島雅夫、小島洋々、生方賢一郎、ヘンリー松岡等PCLのソウソウたる処がずらりと出演・・・。中にも天勝一座得意とする大奇術、水蔭の高潮場面は皆様を神秘の夢幻郷に誘ひませう。」と書かれ、同劇場では4月1日から封切られました。ヘンリー松岡とはアメリカ仕込みの綱渡りの名人で、坂綱を張って傘を片手に持ち、上から後ろ向きに滑り降りる離れ業を、曲芸師吉田の代役として演じています。

 宣伝文も面白く、雑誌「日本映画」(大日本映画協会発行)では、次のように書かれています。『「魔術の女王」で映画初出演の天勝嬢?魔術の如く衰へざる容色は現代の不思議です。監督木村荘十二君がその秘法を聞かんと詰めよると「天勝がこれこの通り」と立ってゐる女の子の姿を消してしまひました。曰く「人を消せる位ですから、顔を美しくする位はネ」と。』

撮影スナップ-天勝(右)と木村荘十二監督(左)
②撮影スナップ-天勝(右)と木村荘十二監督(左)

 映画の中では「夕涼み」「人造人間」「鳩すくい」「アワー・ワンダー・スクリーン(伸びる体)」「ミイラの棺」「人形の家」「浦島太郎の水芸」「ダブルトランク・ミステリー」「エジプトの楽園」など、天勝奇術の当たり演目が多数披露されています。

 ③はアシスタントを箱の中に入れ、その上から5枚の刃が落ちる「人体切断」の魔術です。リハーサルではマネキン人形を箱の中に入れて、本当に切断されバラバラになるところも見せています。

(「人体切断」の演技指導をする天勝のリハーサル風景
③「人体切断」の演技指導をする天勝のリハーサル風景

 「夕涼み」(④)は、大きな空の壺をあらためてその中に水を注いだ後、中からランタン、のべシルク、傘、最後に大きな幕を取り出す和妻です。中央が天勝、左が後に二代目天勝となる天勝の姪の正天勝、右が当初の二代目候補だった小天勝です。余談ながら、小天勝は後に花柳寿山として日本舞踊で大成し、103歳になった今でも長崎でお元気にしておられます。(2016年12月末現在)

和妻「夕涼み」で傘を取り出す天勝
④和妻「夕涼み」で傘を取り出す天勝

 ⑤は空の小箱から数羽の小鳥を取り出す手品です。

「小箱からの小鳥の出現」
⑤「小箱からの小鳥の出現」

 ⑥はどさ周りの劇場で「指抜き」を見せるマリ子。「指抜き」は天勝の師匠であった天一が得意とした芸で、別名を「サムタイ」、「柱抜き」といっていました。めくりに「指抜き天勝」と書かれています。実際に、天勝が引退興行を始めた当時、全国各地にニセ天勝が出現したといわれています。

マリ子の「指抜き」の演技
⑥マリ子の「指抜き」の演技

 ⑦は無断で退団した不義理に対して申し訳ない思いから、毒をあおりながらも天勝に許しを乞うマリ子と、それをやさしく抱く天勝の姿です。

天勝に許しを乞うマリ子、周りは一座の娘子連
⑦天勝に許しを乞うマリ子、周りは一座の娘子連

 なお、木村荘十二監督(十二男)の兄の木村荘六(六男)は、独特な話術を用いて一世を風靡した有名な奇術師・木村マリーニでしたので、木村監督も奇術には造詣が深かったのかも知れません。

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