土屋理義

マジックグッズ・コレクション
第26回

付録・「おもしろ極意寶典」と「手品ブック」

 大正時代の終わりから、少年雑誌の中心的存在は、「少年世界」(博文館)から、「少年俱楽部」(大日本雄弁会講談社)に移っていきます。その「少年俱楽部」の付録として発行されたのが、「少年極意寶典」、「おもしろブック」などの題名を付けた、いわゆる「手品ブック」の小冊子です。河合勝氏が編纂した「日本奇術目録2001」によると、昭和4年(1929)に発行された「少年世界」の付録-「奇術種明かし」が、「手品ブック」の最初のようです。

 戦前(1945年以前)の附録のマジック本は、その多くが(大日本雄弁会)講談社から発行されています。私蔵する附録の中で、一番早く発行されたのが「少年極意種明かし」<図1左>(少年俱楽部附録・昭和9年(1934)11月発行、70種、80頁、大日本雄弁会講談社)です。

 「犬を早く馴らす秘訣」(食べ物に自分の唾をつける、頭や喉をさする)、「坂道や石段を楽に登る法」(「く」の字を書くように、ジグザグに斜行登りを繰り返す)等の、生活や科学の知恵が中心ですが、「小さな孔から大きなものを出す法」<図1右>や、「ハンカチの両端を持ったま々結目を作る法」<図2左>など、今でも手品本に載っているマジックの種も紹介されています。それぞれの「極意」には執筆者の名前が書いてあります。

<図1左>
「少年極意種明かし」
<図1右>
「小さな孔から大きなものを出す法」
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 当時有名だった奇術研究家の阿部徳蔵は、マジックではなく、「遠方の灯が来るか行くかを知る秘訣」<図2右>として、遠くの灯りが、目の前に置いた手のひらの上(遠くへ)と下(近くに)のどちらに動くかで、見極める方法を書いています。

<図2左>
「ハンカチの両端を持ったま々結目を作る法」
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<図2右>
「遠方の灯が来るか行くかを知る秘訣」
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 <図3>「おもしろ豆戦艦」(少年俱楽部附録・昭和10年(1935)9月発行、66種、96頁)は、マジックの種も多く記載されていますが<図4>、次第に軍事色が強まって行く世相を反映し、その表紙(豆戦艦)に違わず「捕虜の脱走」、軍事探偵の「隠しインキの作り方」<図5>などの項目が現れます。

<図3>
「おもしろ豆戦艦」


<図4左>
「魔法のコップ」
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<図4右>
「一枚の銅貨が忽ち二枚に」
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<図5>
探偵小説家-海野十三先生指導「隠しインキの作り方」
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<図6>「東京通信・少年極意寶典」(少年俱楽部附録・昭和11年(1936)7月発行、53種、56頁)

<図6>
「東京通信・少年極意寶典」


<図7>
「十字にまじはった紐をはづす法」、「相手の思ってゐる数をあてる法」
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<図8>「おもしろ遊戯ブック」(少年俱楽部附録・昭和12年(1937)11月発行、44種、82頁)
この本は、手品中心の編集に変わっています。「旗あて<図9>」などは、戦後に「松竹梅」の扇子の中、1本を袋に入れて紐で縛ってもらい、それを当てる手品として商品化されています。

<図8>
「おもしろ遊戯ブック」


<図9>
「旗あて」
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<図10>
「皆を驚かすカード手品」(スベンガリーデックの原理)
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 戦前の附録マジック本に共通するのは、奇術の種明かしよりも、生活の知恵(血止めの極意、疲れない急ぎ方、くしゃみを止める法等)が、記事の多くを占めることです。これは江戸時代の奇術伝授本(種明かし本)にも見られるもので、例えば有名な「秘事百撰」(嘉永五年刊-1852年)には、奇術の種明かし以外に「のどに刺さった骨を取る法」、「しゃっくりを止めるまじない」、「酔い覚ましの法」などが載っており、その流れを汲んでいるのではないかと思われます。

 戦後になると、付録の手品本の中味はがらりと変わり、実用的なマジックを、絵や漫画で、丁寧に種明かしをする小冊子となっています。小学館の他、講談社、集英社、旺文社や学習研究社などの学生図書の付録として出されています。手品の指導・監修者としては、石川雅章(天勝一座の元文芸部長)、高木重朗(奇術研究家)、上野景福(TAMC会長)、柳沢よしたね(奇術研究家)などの名が見られます。

<図11>「おもしろ手品集」(表紙-表・裏、小学六年十月号ふろく・昭和24年(1949)10月発行、30種、32頁、二葉書店)
手品だけ30種を集めた種明かし本で、内容も本格的なものを含んでいます。出版社は児童雑誌「小学○年生」を刊行した小学館(千代田区神田一ツ橋)ではなく、昭和20年代前半に「小学○年」、「初等二年」や児童図書を出版した、今は無き二葉書店(北区稲付町)です。

<図11>
「おもしろ手品集」

 「東西、東西、ここにごらんにいれますのは、和洋手品のトラの巻・・・読者の皆さん学校の、演芸会の会場で、あっといわせるおもしろさ、さあさあ手品の種あかし、お友だちには、ないしょ、ないしょ」の書き出しで始まります。

<図12>
「ハンカチから三色テープ」、「トランプのカードあて」
(マジックの道具として汎用性が高く重要なネタであるサムチップを使用)
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<図13>「奇術ブック」(中学生の友2年7月号付録・昭和33年(1958)7月発行、28種、64頁、小学館)
ちょっとしゃれたデザインの小本。中学生向けの実用的な手品が、使用する道具ごとに、食卓品、ハンカチ、おかね、ひも、カードに分かれて解説されています。

<図13>
「奇術ブック」


<図14>
「服からぬけるひも」
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<図15>「やさしい手品と種あかし」(幼児と保育・12月号付録・昭和45年(1970)12月発行、岡田康彦編、32種、66頁、小学館)
手品本とは思えない幼児と子犬の表紙、月刊雑誌「幼児と保育」の付録です。「誕生会、クリスマス会を楽しくするために」と銘打って、幼児を抱えた母親向けの手品を掲載。食べものを使った手品がユニークです。監修の岡田は十数冊のマジックの実用書の著者。

<図15>
「やさしい手品と種あかし」


<図16>
「食べられるろうそく」
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<図17>
「リボンの出るミカン」
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<図18>「大魔術入門」 (小学三年生11月号付録・昭和51年(1976)11月発行、59種、192頁、小学館)
イリュージョンも含めて、漫画で解説したマジック本で、この付録だけで単行本に出来るボリュームです。

<図18>
「大魔術入門」


<図19>
「うかぶ人間」
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<図20>
「十円が五円になった」
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<写真21>「マジックブック」(小学二年生1月号ふろく・昭和61年(1986)1月発行、15種、96頁、小学館)
ドラえもん、のび太くん、のんきくん、のストーリー漫画で解説しています(作画は松田辰彦、村田ヒロシ)。

<図21>
「マジックブック」


<図22>
「われない風船」
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 このような附録の「手品ブック」を読んで、どれだけ多くの子供たちが胸をワクワクさせ、一生懸命に練習をして、手品で友達たちを楽しませたことでしょう。

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