ボナ植木

価齢なるマジシャンの「思いやり理論」

みなさんこんにちは。私は71歳(2023年)の新人ピン芸人マジシャンのナポレオンズ・ボナ植木です。

このたび、東京マジックさんのマジックラビリンスに参加させていただきます。

これからここに公開しようとする文章の大元は2015年のとあるレクチャーの時に参考書として出したものであり、その後2016年に「臆病なマジシャンのための秘密ノート・7」の巻末の付録につけたものです。このノート・7は、今は絶版となっており現在は手に入りません。

そこで今回、その原稿に加筆して、ここに新たに公開することになりました。

私がマジックを演技するとき何を考えているかというと、観客をいかに楽しませるか、そしてショーのあと気持ちよくお帰りいただくか、ということなのです。

言葉を換えれば「ああ、面白かった!」「心地よかった」
「また見てみたい」「誰かに紹介したいな」「今度は誰々さんとこよう」という感情が湧くということです。

そのためにはどうしたらいいのか?
そこには「思いやり理論」が必要なのです。

思いやり理論とは?

マジシャンはどういう考えでマジックを見せればいいのか?
はっきりいってプロに限らずアマチュアの人でもその考えの基本は全く同じです。

大前提でマジシャンとは何かを考察してみます。

道具を買ってくれば不思議な現象は起こせます。
しかしそれはマジシャンではありません。
トリックを見せているだけです。
トリックとは不思議さをだすためのメカニズムやシステムであり早い話がタネのことであります。
重要なのはこれをどう演技として演出するかがマジシャンの仕事なのです。

例えば美味しい新鮮なキュウリ1本があったとして、そのまま出しても食べてもらえれば少なくとも美味しいでしょう。

でも皿に乗せ、塩をかける。あるいはマヨネーズ。あるいは食べやすいように切って出す。
酢の物にアレンジしてもいいでしょう。

マジシャンはある意味料理人と同じことです。
素材をいかに演出するかということなのです。
それにはどうしたらいいのか。
何を考えればいいのか。
まず第一に『お客様のことを考える』ということです。
それは『思いやり』といってもいいでしょう。

例えばフォースカードにサインをさせることを考えるならば絵札はいけません。
字札で少ない数字がいいと、これくらいはどんなマジシャンでも考えるでしょう。
でもフォースでなくても普通に取らせるときでもトップ側数十枚に覚えやすいあるいはサインしやすいカードにセットするところまでしている人は少ないでしょう。

確かに毎日演技をしているバーマジシャンは「そんなことしなくてもいいよ。至近距離だからわかるし」と言うかもしれませんが、だめです。
ちょっとセットし直すだけのことです。『気遣い』といってもいいでしょう。
とはいえ、毎日毎日演じているバーマジシャンにとってはそれは面倒でしょう。絵札でもクロースアップなら大丈夫ですしね。
でもね。酔ったお客様にも気遣いは必要でしょう。
簡単な数字のカードが覚えやすいでしょ? そのちょっとした気遣いをすることでそれが身についていくのです。
この思いやりはさまざまところに出てきます。
だから身につけておく必要があるのです。

時々、カードを選んだ人がそれが何かを忘れてしまうことがよくあります。
高齢化社会?だからでもありますが、よく考えてほしいのは「カードを一枚とって覚える」という作業は、一般の人にとってはかなりのプレッシャーなのだ、ということです。
マジシャンは当たり前だと思っても、お客様の立場になってみてください。
観客としてマジックショーを見に来て、カードを選ぶということは相当なプレッシャーです。

『思いやり』とはお客様を緊張させずにショーを楽しんでもらうことです。
カードを引かせる前提のマジックでお気楽に参加してもらうためには、いろいろ方法があります。
1:選んだカードをデックに戻さずに持たせておく。
2:サインさせる。
3:他の観客と一緒に覚えてもらう。

そして最近、私がやっているのは――
4:観客の半分側は「マークを覚えてもらう」、そして残りの半分側は「数字を覚えてもらう」
それを確認したあと、デックに戻すのです。

これで忘れるという心配はありませんし、お客様にとって観客全員が参加できるという「ワクワク感」も体験できます。

それらはちょっとしたコツであります。これからそのような「思いやりのコツ」を発表していきますが、その前に大前提があります。
思いやり理論の大事な肝をお話したいと思います。

それは「お客様と同じ目線に立ちなさい」ということです。
マジシャンはいわゆる魔法ができるということで「観客より優位に立っている」とお客さまもそう感じているし、マジシャン自身も勘違いしている人がいます。

上から目線の言動や横柄な態度はいけません。
その空間ではマジシャンと観客は同じ人間同士です。
その一般常識を持ち合わせてから演技してください。

もちろんマジシャンの性格上、カリスマ的なキャラの場合はこれにあらず。とはいえそれには相当な演技力が必要ですが。

私のような演芸?マジシャンにはやはり「思いやり」をメインに考えて演技するのがいいでしょう。

それでは、次回から、価齢なる思いやり理論を紐解いていくことにします。

                         次回