古川令

Osaka Bill からジャンボカード

 今回は趣向を変えて、私が40年近く使ってきた思い入れのあるネタを紹介します。 Osaka Billというお札のプロダクションがあります(YouTubeなどでも映像があります)。大学2年(1975年)の時に大学のコーチから教えて頂いた原案では、お札の出現の度に手の中のお札を持ちかえる必要があるのが気に入らず、お札を重ねてセットする方法を考えました。この方法だと、片手(両手)で連続的に出現させる事が可能となり、見た目にも新しい現象になりました。たまたまソウルのコンベンションにゲスト出演させて頂いた後の懇親会で、オリジナリティ(考案者)を明確にする事の大事さの話題になり、私が改良した技法が考案者不明で、関西から広まったという事でOsaka Billという名前で呼ばれている事を知った次第です。 今回はその技法でのジャンボカードのプロダクションの紹介ですが、正確にいうと、プロダクションの方法の解説が目的ではなく、現象や手順を考えるうえでの「流れ」が重要である事の説明の材料にジャンボカードで考えた方法を紹介します。

 学生時代、TVで見たリチャードロスのジャンボカードでのマニピュレーションがきっかけで、ジャンボカードでのミリオンカードをやりたいと考えました。ミリオンカードとして演じるには1枚出しとファンプロダクションの2つの方法を考える必要がありました。幸いファンプロダクションは今のマンモスカードで行っている原理が浮かびましたが、困ったのが一枚出しでした。たまたまお札のプロダクションの改案している時に、ジャンボカードに応用できると気づきました。

 このような経緯で、とりあえずジャンボカードの技法はできたのですが、意外に困ったのが手順の連続性でした。 ジャンボカードの一枚出しとファンプロダクションは、それぞれ完全に独立したマジックですし、それだけでは手順は組めません。従って、ジャンボカードの一枚出しとファンプロダクションとレギュラーカードの手順をどのように組み合わせるかが問題でした。またお札の方法でのジャンボカードの一枚出しは、カードに折り目があるというのもネックでした。

 そこで考えたのが、折り目がある事を逆手にとって、最後のジャンボカードを折りたたんでレギュラーカードのファンにする事でした。フロントパームからのファンプロダクションを行うと、タネのカードは捨てられて、手にはレギュラーカードがフロントパームの状態で残るので、スティール無しに、そのままレギュラーカードの手順に移行できます。私は手順においては、このような連続性が大事と考えています。

 例えば、大きなカードで演技して、その後、普通のカードを取り出して演技して、さらに大きなカードを取り出して演じると、3つの現象がバラバラです。しかし、大きなカードが小さなカードのファンに変って、そのままプロダクションが続けると、最後にまた大きなカードを取り出しても違和感が無くなります。以下、お札のプロダクションのネタばらしになるといけないので、判る人には判るような写真で示します。札プロのネタをご存じない方は、手順などの考え方だけ読んで頂ければと思います。

 お札のプロダクションの要領でジャンボカードを4つ折りにセットし、一番内側に20枚ほどのレギュラーカードを仕込みます。右の写真では折ったジャンボカードは2枚ですが、学生時代は数枚のカードを仕込んでいました。最後のジャンボカード(ハートのK)の裏にはレギュラーカードのハートのKと裏のカードを張り付けます(写真右側)。そのままジャンボカードのフェイスを内側に4つ折りにすると、レギュラーカードのハートのKの表裏が見せられるのがミソです。

 現象としては、右手のジャンボカードを左側にある捨て場(私は左利き)に捨てるために左手に取ると同時に右手からジャンボカードが一枚ずつ出現するという形でシングルプロダクションが行われ、最後のハートのKがレギュラーサイズのハートのKに変わり、さらにレギュラーカードのファンが出現するという流れです。

 最後の部分を詳しく書くと、一枚出しの最後のハートのKが出現した状態では、バックのカードを張り付けた部分(の少し上)にレギュラーカードのパケットを保持している状態です。そこから、ジャンボカードを上から観客側に2つに折り、次に観客にレギュラーカードのハートのKが見えるように折ると、ジャンボカードが四つ折りでレギュラーカードになり、その後ろにレギュラーカードのパケットがあります。これらを右手の押し出しファンにすると、写真のようにファンの裏も見せる事ができます。

 

 しかもそこからフロントパームのファンプロダクションの技法でカードを捨てると、ネタのカードは処理されて、右手には十数枚のレギュラーカードがフロントパームされて残ります。そのまま木の葉カード、さらにファンの出現などと続けられます。

 この方法で気に入っているポイントは、仕込んである20枚のレギュラーカードで押してジャンボカードを出現させるので、最後の1枚までジャンボカードをシャープに出現させられる事です。また変化したカードのファンの表も裏も堂々と見せられる事などだけでなく、なにより、カードが小さくなるというマジックの現象でジャンボカードからレギュラーカードの手順に「流れを途切れさせず」に続けられる事です。

 それでは、なぜこの現象を止めたかというと、やはり、お札と違って、本来カードは折らないのに折っているからです。理想のマジックを考えた場合、私の基準には「そもそも」の考え方が大事だと思います。例えば最近流行のカラーカードがあまり好きでないのは、そもそも「トランプは白い」と考えるからです。マジックに変化を持たせるために、鳩に色をつけたマジシャンもいますが、私は、「そもそも鳩は白」だと思います。鳩と違ってカードは印刷だからパステルカラーでもなんでもいいんじゃないかという意見もあると思います。しかし、色を変える事で白では無かった感動があるのでしょうか?
 例えば、ファンプロダクションで毎回色が変わるという現象は、ファンプロダクションを知っているマジシャンには不思議です。しかし、毎回ファンは全部捨てたと感じる一般の方には、ただ準備したトランプの色を変えただけに見えると思います。従って、華やかさには有効と思いますが、あくまでマジシャン向けのアピールであり、必要な練習やセットの手間の割には効果が少ない技法だと思います。

 流れを作れる手順にも関わらず、何年か前にやめた理由は二つあります。まず、そもそも「トランプは折らない」という事があります。色は白にこだわる一方で自分が演じたい現象のためにカードを折るのは良しとするのは、どう考えても矛盾があると思った事と、写真のような、明らかなタネのカードを使う事にも抵抗がありました。私は文字通り、Slight-of-handへのこだわりがあり、ブラックアートも含め道具やネタに頼るのはそもそも好きではありません。

 このジャンボカードの出現方法は、たまたま新しいお札のプロダクションに接し、ちょっとした改案が他のマジシャンにも使われるようになった(Osaka Bill)だけでなく、ジャンボカードを手順に組み入れる事ができたという事で、私にとっては非常に愛着のあるオリジナルです。しかし、このまま眠らせてしまうよりは、今後技法や手順を考える方に少しでも参考になればと思い、具体例としてラビリンスで紹介してみました。
 次回は、私がマジックを考える際に重要と考える「ずれ」について書いてみたいと思います。

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