平川一彦

オン・ザ・テーブル
第7回
ザ・リング・オン・ザ・ウォンド <方法3>

ダイ バーノン


 これは、エドワードマーローの“リング・オン・スティック”には使われていませんが、この種のトリックには非常に役立つテクニックですので是非やってみて下さい。

準備

 同型同色のリング2個とウォンドを用意します。
先ずリング1個を<写真1>のように左手の小指の位置にフィンガーパームします。もう1個のリングとウォンドをテーブルに置いておきます。両手の平は下向きでテーブルエッジに付けておきます。

写真1
写真1

ルーティーン

次の動作は、パフォーマーがトリックを始める前に、ただ単に右手でウォンドを取り上げて左手に持ち替えただけという動作を示しています。

  1. パフォーマーは何気なく右手でウォンドを取り上げて、その左端を左手にパームしているリングに通して、左手をリングと共にウォンドの中央にスライドして握ります<写真2>

    写真2
    写真2
    そしてここからトリックをはじめるという態度を客に示します。
  2. 左手はウォンドを立てて保持し、右手はテーブルからリングを取り、ウォンドの一番上にはめて右手を放します。
    するとリングはウォンドをスライドして<写真3>のように左拳に当たります。
    右手は手の平を上に向けてウォンドの下に位置させます。
    すぐに左手の親指と人差し指をゆるめてリングを拳の中へ沈めます。
    写真3
    写真3
  3. リングが拳の中へ入ったら、左手の小指を緩めてパームしていたリングをウォンドの下から右手の平へ落とします<写真4>
    写真4
    写真4
  4. ウォンドの上から入れたリングは左拳の中に残ります。
    次に左手はウォンドを横にして、右手はリングでウォンドを数回叩きながら「両端を強く持って下さい」と言って左手を客の方へ出します。左手はウォンドの中央を握ったままにしておきます。

  5. 客がウォンドの両端を持ったら、パフォーマーは右手を左手の下へ持って来て、あたかもリングをウォンドにはめるかのような動きをします。しかし実際はリングを左手のサムパーム、またはクラシックパームの位置に入れます。

    そして右手は手の平を下に向けて左拳の上から前(客側)へ持って行き、前もってウォンドにはまっているリングが客に見えないようにカバーしながら左手と入れ替えてウォンドの中央を握ります。


  6. 当然ながらパフォーマーは左手をパームしたリングと共に、自然に体の横へ下ろして右手をじっと見つめます。

    右手は激しくリングをスピンしながらウォンドを放します。

『Louis Tannen:Stars Of Magic』:
"The Ring On The Wand" by Dai Vernon P.87


第5回、6回、7回と紹介してきたザ・リング・オン・ザ・ウォンドの方法1、2、3は如何でしたか?
演技を成功させる為の適切なミスディレクションとタイミングが相手の心理を上手く突いているトリックだとは思いませんか?

手順の理想的なタイミングとミスディレクションは、お互いに調和や同時性やバランスを上手くブレンドしていて、マジックのムードを作り出すための基本的原理を教えてくれていると思います。

こう考えてみるとマジックは本当に素敵なエンターティメントの世界ですね。

さて、ここで、もし、この種のトリックをもっと専門的に研究しようとすると、 かなり多くのリング(指輪)を用意しておく必要があります。

客から借りたリングを使う場合は事前に、 それに似たリングが必要になりますので、 少なくともゴールドとシルバーのリングぐらいは前もって準備しておいた方が良いと思います。

私は客から宝石や模様の無い普通のリングを借りて行っています。

この種のトリックを行う時にもう一つ、ウォンドにはめたリングを音も無くウォンドの中央へスライドさせるという重要課題が残っています。

完全に音を消すのは不可能ですが、バーノンはその方法としてウォンドを持った手の指をリラックスさせて、固く握り締めない事、つまり、手の平ではなく指1・2本の僅かな力でスライドさせると言っています。

私は次のように行っています。ウォンドにはめたリングに中指を巻きつけて、親指の先をリングとウォンドに付けて握ります。

言い換えると、ウォンドを小指のベースと、小指・薬指のそれぞれのボール部に、そして人差し指の第一・第二関節の間にピタッと付けて、さらに親指のボール部をリングとウォンドの表面に付けて握ります。

中指はリングのみに触れていて、ウォンドにはほとんど触れていません。即ち、小指のベースと小指・薬指の指先と、そして人差し指の第一・第二関節の中間と、親指のボール部にある程度の力を加えてゆっくりスライドさせます。 すると不思議な事に、リングはほとんどウォンドに触れずにスライドします。

私の方法は言葉で表現しにくいですが、手の皮膚がウォンドに密着してその表面をスライドするので、音がほとんどしません。

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