古川令

ミリオンカードの魅力

 初回はマジックを始めたきっかけを紹介しましたが、今回はミリオンカードの魅力について書いてみたいと思います。

松旭斎滉洋(奇術研究 1960年 20号 P.34 より)
松旭斎滉洋
(奇術研究 1960年 20号 P.34 より)

<子供時代の印象>

 子供の頃に印象に残ったマジックと言えば、やはりスライハンドマジックでした。当時のマジックの番組はシンプルでスライハンドが多く、松旭斎滉洋さんとか、初代の引田天功さんの演技が強く残っています。そしてスライハンドの中で一番好きだったのが、カードのファンプロダクションでした。

 子供心にもタネ(バックパーム)は容易に推測できましたが、なぜカードを片手で綺麗なファンにできるのかが非常に不思議でたまらず、特にバックパームからカードが出現してファンになるところが好きでした。その瞬間の「不思議さ」+「ぞくっとする美しさ」は、白いハンカチの中から鳩が羽ばたく瞬間にも通じるところがあります。

引田天功(奇術研究 1960年 19号 P.21 より)
引田天功
(奇術研究 1960年 19号 P.21 より)

 このような子供時代の強烈な記憶のお陰で、大学の奇術研究会に入った時、発表会での演技種目に迷わずミリオンカードを選びました。実は技法の開発にも、幼少時代の思い出が強く反映されており、その点についても今後紹介していきたいと思います。

<ミリオンカードのメリット>

 ミリオンカードの特徴と言えば、舞台映えでしょう。トランプは四つ玉やシンブル、ウォンドなどと違って身近な素材で、ファンにするだけでテクニックも伝わりますし、平面的なカードはプロダクションには圧倒的に有利という事に異論はないと思います。

 さらに付け加えたいのは、手軽さという点です。薄いカードを使えば、カードケースに約2組入りますので、それだけで十分に手順として見せる事ができます。サロンマジックの手順を組む場合でも、準備はカードケースだけで、セット不要で手順の何処にでも入れられます。私にとっては手軽さと効果という点でリンキングリングと双璧ですが、軽くてポケットに入れておけるハンディさでミリオンカードが勝ります。


ミリオンカード用の薄いカードはカードケースに2組入り、これだけで十分手順が組めます。
バイスクルのブラックタイガーのケースなどがちょっと厚めでお勧め。

 初心者時代はカードも消耗しますが、慣れてくると意外にカードの消耗が少なく(最近は出演回数が少ない事もありますが、何年も同じカードを使っています)、コストパーフォーマンスにも優れます。

 米国のセントルイス駐在時に感じた事は、アメリカではクロースアップやおしゃべりのマジックが得意なプロは多いのですが、スライハンドが上手なプロが意外に少ない事でした。ミリオンカードのお陰でいろいろとローカルイベントへの出演の機会を頂き、ダイバーノンが大好きだった事で有名なMidwest Magic Jubileeにも3度もゲスト出演させて頂きました。ミリオンカードに限らず、スライハンドはクロースアップと違ってBGMに合わせて自分のペースで演じられるので、言葉の通じない海外でも演技が容易です。ちなみにミリオンカードというのは和製英語で、英語では、Card Manipulationと言います。

 ミリオンカードには基本技法が難しく角度に弱いという弱点はありますが、最初の技術的なハードルさえクリアできれば、これほど役立つマジックは無いのではないかというのが私の持論です。

 前置きが長くなってしまいましたが、次回からはミリオンカードの技法や見せ方などに関する私見やこだわりについて紹介していきたいと思います。

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