古川令

ファンプロダクション

 ミリオンカードと言えば、やはりファンプロダクションでしょう。 多くのマジシャンが演じていますが、残念ながら、完璧な(不思議な)ファンプロダクションというのは、ほとんど見た事がありません。 ファンプロダクションはミリオンカードの基本技法ですが、実際には極めて奥が深い技術と思います。 今回は、そのファンプロダクションについて、私がこだわるポイントについて書いてみたいと思います。

<そもそも、ファンプロダクションとは何か?>

 「空の手から、ファンが連続して出現するマジック」と考える人が多いと思います。 しかし、私は「カードを捨てた空の手からファンが出現する現象が、何度も繰り返されるマジック」と考え、少しでもそのように見せられる事を目指しています。

 前者と後者の違いの最大のポイントは、カードを捨てる毎に「全部捨てた」と見えるかどうかです。 簡単なようで、実はこれがなかなか出来ません。ほとんどの場合、ファンプロダクションが続く事が予想されます。 カードを捨てたと錯覚させるポイントは、ファンを捨てた直後の手の自然な脱力感です。 正しく脱力できているかどうかは手首が柔らかいかどうかで判断できます。

<ファンと捨て方について>

 ファンプロダクションのファンの形は、カード全体をほぼ均等にファンにする方法と、数枚だけをファンにする方法があります。 前者はカードを捨てる度にファンのカードの間隔がだんだん広くなってくるので、ファンプロダクションが何回程度続くかの予想ができてしまって不思議さが半減するので、私は後者が望ましいと考えます。

 また、捨てるカードだけファンにして、残りをバックパームする方法もあります。 この場合、見えているカードはすべて捨てられるので、捨てる場面だけ見れば一番良い方法とも言えます。 ただバックパームにする際にファンの動きが若干不自然になる部分があるだけでなく、少なくとも数枚以上のカードを捨てる必要があるという点が私の見方では大きなネックです。 私の目指すミリオンカードは、できる限り不思議に多くのカードを出現させる事であり、そのためには、ファンプロダクションの回数も多い事が望ましく、逆に言えば、如何に捨てるカードの枚数を少なくできるかがポイントになります。

写真1
写真1
写真2
写真2

 私のファンを写真にしましたが、ポーカーサイズのカード約5枚でファンにします<写真1><写真2>。 人差し指で残りのカードがファンになるのを抑えます。 この形からであれば、捨て場(帽子)には3枚捨てればよく、ファンプロダクションの回数が多く出来るというメリットがあります。

私が考えるカードの捨て方のポイントは、以下の3点です。

  • 手首を柔らかくスナップを利かせる
  • カードを捨てる直前にバックパームに持って行く
  • 「捨てるカードは伸ばした手の平の前を通る」

     実はこの3つのポイントは共通です。手首で自然なスナップを効かせる事は自然さを与えるだけでなく、捨てる時の時間を稼げるので捨てる前には完全にバックパームの状態にできます。 その結果、捨てるカードは伸ばした手の平の前を通過して捨てられます。 脱力感のある自然なスナップの体得には、カードを実際に捨て場に投げ捨てるという動作を、何度も何度も繰り返すと自然に体得できます。

 なお、同じ捨て方を同じテンポで続けると短調になるので、捨てる前にファンの裏を見せるとか、数枚のファンの後ろでバックパームを完成させてから、見えている全部のカードをゆっくり捨てるなど、捨て方にも変化も付けて、捨てる度に観客が「もう無いだろう」と錯覚するような見せ方がポイントです。 観客にファンを完全に捨てたと錯覚させる事ができれば、「空の手からファンが出現する現象を、何度も見せる」ことが可能になります。

 ファンプロダクションを練習されている方向けに書いたので、説明が伝わらずに消化不良の方もいらっしゃると思います。 マジシャン以外の方もアクセスできる場では、あまり詳しい種明かしはできないという事でご容赦をお願いします。

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