古川令

バックパームでの工夫(1)

 今回はバックパームの話ですが、最初のお断りとして、今回もちょっとマニアックなテーマである事をご容赦願います。 バックパームは、手が完全に空に見えるパーフェクトな技法と考えられる方も多いと思いますが、実際にそうでしょうか?その点から考えてみたいと思います。

 個人的に気になる事は、ステージでカードのバックや側部を黒く塗っているマジシャンを時々見かける事です。「演技のバックパームを見て、カードのバックを黒く塗っている事が判る」という事の重要さ(問題点)を最初に指摘したいと思います。本人は、“黒く塗れば目立たない”と安心しているのかも知れませんが、考えて頂きたい問題は、「なぜ、黒く塗っても見えるのか?」という事です。その原因は、どこか不自然な状態でバックパームの手が止まっているからです。さすがに観客に向かって広げた状態で手を止めるのは不自然でもあり、その場合には黒かろうがカードのバックは指の間から見えるという事です。

 では、どうすれば良いのでしょうか?私は、見えないようにとカードを黒くして問題解決するのではなく、自然な手の動きでカバーするのが肝要との考えです。「もしパームしている手が完全に死んでいたら(自然にリラックスしていたら)、指の間から物理的には見えるカードのバックは心理的には見えない」というのが私の持論です。

 蛇足ですが、バックを黒く塗ったカードは、バックが上側で床に落ちた場合、真っ黒な特殊なカードという事が観客に判るという事も気になります。使っているカードが特殊なカードというイメージは避けたいものです。対策として、床に黒いシートを敷くというのはひとつの解決策ではありますが、動きが制約されるなどの問題点もあります。また、バックが黒幕でないステージでは演じ難いという問題もあるでしょう。

 手の動きに話を戻すと、パームした手を自然に見せるには、「バックパームした手を完全には止めない」という事が重要ですが、単に「バックパームの手を動かせばよい」という訳ではありません。例えば小手返しなどは、「手が空」というよりも「カードをうまく隠している」という印象を与えるので、仮にパームのカードが全く見えなくとも、小手返しの後で出現するカードの「不思議さ」は少ないです。

 それではどのような動きが良いかと言えば、手首と指先が自然な形でリラックスした動きです。 例えば手に1枚のカードを持っている時の無意識な動作もあると思いますが、 パームをしている手で同じような動きを行う事で、手は空であるという雰囲気が醸し出されると考えます。

 例えば私の場合、クロースアップで1枚のカードを示す時の癖として、パチンとカードを指で弾いたり、軽くカードを投げてスピンさせたりします。そこで、そのような動きをさりげなく行う事が、空の手の自然なアピールになるという考えで、出現させたカードでカードスピンを行っています。


 具体的には、バックパームの場合には、一枚出しで出現させたカードを親指、中指、薬指の指先で保持し、指と手首のスナップでカードを手前側に回転させて投げ上げ、キャッチしてから捨て場に落とします。
 実際にクロースアップなどでは手の甲が観客に向いているのですが、同じ動きを手の平が見える形で行います。

 パームした手で行うカードスピンの練習の際のポイントは、まずはパームしていない時の1枚のカードの自然な扱い(遊び)方をよく確認し、パームした手でそれと同じ動きを練習する事です。指先のリラックス感がポイントで、さらっと見せる感じです。

 次回は、同じような効果のあるカードロールについて紹介します。

フロントパームからのプロダクション    バックパームでの工夫(2)