古川令

ストーリー性や演出について

 これから4回ほどに分けて、ミリオンカードの手順についての私の考えを書いてみたいと思います。最初にお断りしますと、必ずしもコンテストでスコアを出すための考え方ではなく、あくまで、実用的で私が演じたい手順についての考え方として読んで頂ければと思います。 「今のマジックではストーリー性が無ければダメだ」という意見があります。例えば、カーディニの演技を見ると、そのストーリー性のすばらしさに感動するので、ストーリー性の効果は否定しません。ちなみに今のFISMの審査基準は以下の6項目で、配点に厚みの差が無く、トータルで100点満点です。

 1.マジックの雰囲気
 2.アーティスティック・インプレッション/ルーティニング
 3.オリジナリティ
 4.テクニカルスキル/ハンドリング
 5.ショーマンシップ/プレゼンテーション
 6.エンターテイメント・バリュー

 これをみれば、FISMで高いスコアを得るには、ストーリー性や演出など、テクニック以外の要素での加点がポイントになる事は明らかです。大学入試のテクニックのように、トータルスコアを上げるにはウィークポイントを減らす事が重要なのは間違いないと思います。  ちなみにIBMでは、スキルやオリジナリティの比率はFISMよりもさらに低くなります。服装、音楽、照明、道具などだけでなく、ストーリー性などの演出がハイスコアのためには重要因子でしょう。ただ、演出面を突き詰めれば、最新のメカやギミック、それにプロジェクションマッピングとの融合とか、スライハンドとは違った方向が有利になるでしょう。


 私がチャレンジした2000年のFISMのマニピュレーション部門の審査基準は、テクニック4割、オリジナリティ2割です。ストーリー性に該当するのはプログラムの項目ですが、この配点はわずか1割です。また、リスボンのFISM会場では観客のオリジナリティに対する感度は高く、多少似ているだけでも、“Copy Cat(まねしっ子)”と揶揄されていました。私の感覚では、当時の採点の方が私のフィーリングには合っています。


 当時の基準ではジャグリングが有利になるというような意見もあって、その後配点が変わったと聞いた事があります。その影響からか、私の演技は“観客の受けは良いがジャグリングの要素が強すぎる”と審査員からはっきりとネガティブな採点をされた経験もあります。

 ジェネラルマジック部門には演出の要素は大きいと思います。しかし、ミリオンカード、鳩、四つ玉、リングなどの定番のスライハンドでは、必ずしもストーリー性が必要とは思いません。例えばカードなら出現、リングなら着脱の不思議さや美しさを見たいのであって、むしろ余計な演出などは無い方が私は好きです。もちろん、演出の効果が大きいケースもありますが、それば別の機会にさせて頂いて、次回は手順の流れについての考えを書いてみたいと思います。

フロントパームを突き詰める・・・        起承転結(1)