氣賀康夫

四人のキャンパーの話
(A Story of Four Campers)


<解説>

 コインとカードを使い、別々の場所に置いたコインが一ヵ所に集まってくるという現象を表現する奇術がありますが、それを総称してCoin Assemblyと呼びます。
 この現象の奇術を効果的に演ずる工夫がいろいろなされていますが、ここに紹介する方法は誠にオーソドクスな方法です。その特色は4人の仲間のあだ名と性格の表現の面白さにあることがおわかりと思います。

<効果>

 ではこの奇術の現象を、連続写真でご覧いただきましょう。

写真1
四人のキャンパーにテント2個
写真2
四人の紹介!

写真3
こわがりは外で寝させられない
写真4
テントに寝かせた

写真5
そして、ちゃっかりは
写真6
何時の間にか

写真7
テントを占領した
写真8
二人が野宿となったが

写真9
さむがりが夜中にくしゃみをした
写真10
そこでテントに入り込んだ

写真11
テントは狭いが
写真12
二人で寝た

写真13
ひがみやが目を覚まし
写真14
一人だけ外はおかしいと

写真15
テントに入り込んだ
写真16
狭いが3人で寝た

写真17
翌朝心配でこわがりに声をかけた
写真18
こわがりは狭いテントに入りこんで寝ていた

<要具>

コインはアメリカの50セント銀貨(ハーフダラー)でよいでしょう。カードを2枚使いますが、これはハンドリングの都合上ブリッジサイズであることが必須です。テーブルにはマットが敷いてある方がいいでしょう。上等なテーブルクロスがかかっている場合にはそのままでも大丈夫です。

<方法>

1.4枚のコインを正方形の形に配置します。<写真19>

写真19

2.4枚のコインは4人のキャンパーを表すものとしますが、それぞれにあだながありますので、覚えにくいので別紙で示します。<写真20>

写真20

3.術者はカードを左右の手に持ちますが、左手のカードは表向き、右手のカードは裏向きです。

4.ここから大切な秘密の動作が一つ行われます。
まず、左手のカードを左上のコインの真左の位置に持ってきて、カードを持っている右手の食指でそのコインを左に押して、それが左手のカードの中央に位置するようにします。<写真21>この時点ではカードは水平に保ちます。このとき大切なことは左手の拇指と食指の間にカードを挟むようにして持ち、残るカードの裏に丸めておくという点です。コインは拇指が支えています。

写真21

5.「このキャンパーはあだなが『こわがり君』であり、全員がテントに寝かせることに賛成しました。」と説明します。

6.次にそのカードをコインの元あった位置に持って来て、右手のカードでコインの右半分を隠すようにしておいてから、左手のカードの右側を下げて、コインが右方向に滑り落ちるように仕向けます。
するとコインはテーブル上に滑り落ちるように見えますが、そのとき左手の三本の指を伸ばして、コインを密かに受け取ります。<写真22>

写真22

7.そして左手の三本の指を左に引いてコインがカードの裏に完全に隠れるようにしておき、右手のカードをそっとその位置に置きます。このとき右手拇指でカードを押さえるのも自然でしょう。
以上の動作がスムーズに行われると、コインは右手のカードの下に置かれたように思われ、それが左手のカードの裏に隠されていることには気づかないでしょう。<写真23>

写真23

8.裏側にコインを隠した左手を、術者から見て右下の位置にあるコインの真左のところに持っていき、そのコインを右手の拇指で左に押してカードの上に乗るようにします。左拇指がそのコインを支えます。<写真24>

写真24

9.「残る3人については誰がテントで寝ることも考えられたのですが、この人はあだ名が『チャッカリ君』であり、いつの間にか彼がテントで寝てしまいました。」と説明します。

10.次の動作が大切です。観客にはカードの上のコインを右手にトスするように見せかけて、実は隠した方のコインをトスします。その方法ですが、左手で持っているカードを裏返ししつつ、拇指でなく中指の方を放すようにするのです。<写真25>

写真25

11.コインを受取った右手はそのコインをテーブルに滑り落とします。

12.左手のカードを右手に取り、それでそのコインをカバーします。コインがハーフダラーで、カードがブリッジサイズですと、コイン2枚を隠すのは大変ですが、このときコインがぶつかってカチンと音を立てるのは最悪であり、2枚のうち、秘密でないコインは多少カードからはみ出していても差し支えないのです。<写真26>

写真26

13.ここで術者からみて左下のコインを左手に取ります。このときコインは左手の拇と食指で挟み持つようにします。これは左手だけでそうするべきであり、右手を補助に使ってはなりません。<写真27>

写真27

14.ここからコインを消す動作を行いますが、活用をお勧めする技法は基本技法の「嘘の手渡し(Fake Pass)」で詳細に説明した「天海のフェイクトス」か「ピンチバニッシュ」の手法がお進めです。
消す動作が2回続きますから、それぞれを使うという作戦もいいでしょう。

15.「夜中にこの『さむがり君』がくしゃみをして、寒いと言い始めました。しかたがないので、『ちゃっかり君』は『さむがり君』をテントに入れてあげることにしました。」これが台詞です。

16.コインの消滅の演出ですが、左手の拇指、食指で持っているコインを右手に手渡す動作をしますが、実際にはコインは左手に残り、右手は空のまま握ります。そして右手を開くと空であることがわかります。

17.ただちに空の右手で右下のカードを取りあげます。このときの指の位置は、拇指がカードの手前端、中指がカードの向こう端です。

18.右手を返してそこにもコインがないことを示し、コインを1枚隠していた左手の上にそのカードをそっと置きます。

19.右手でそのカードと隠しているコインを持ち、それで右下のコイン2枚をカバーします。この時もコインがぶつかる音を聞かれるのは最悪であり、隠している以外のコインが多少カードからはみ出すのは差支えありません。<写真28>

写真28

21.台詞は次のとおりです。「夜中に『ひがみや君』がトイレに起きたとき見ると『さむがり君』が居ないことに気が付きました。そこで『俺だけ野宿は不公平だ』と言い始めました。仕方なく狭いですが、こちらで3人が寝ることになりました。」

22.このコインを消す手続きは2枚目のときと同じですが、左手のコインを隠したカードを左手で裏返して見せる手続きを踏みましょう。これは手を返す瞬間に、左拇指でカードを押し出すようにする手法です。
コインが上手くカードに隠れるので、裏から見ても表から見てもコインがあるようには見えないのです。<写真29>

写真29

23.コインを隠したカードを見えている3枚のコインの上にのせるときも音は厳禁であり、コインがはみ出すのはOKなのです。

24.いよいよクライマックスです。「さて、朝になりました。このテントの3人は起きると顔を見合わせました。(右下のカードを指さす。)そしてあちらにテントに寝かした『こわがり君』のことが急に心配になりました。テントをノックしましたが、返答がありません。(左上のカードを上から指ではじく。)『こわがり君』は怖がって気を失っているのではないか。そこでテントをめくってみました。(左手で左上のカードを取りあげて裏返しして脇に置く。)するとそこには『こわがり君は』いませんでした。おかしいですね。そこでこちらのテントを開けてみました。(右下のカードを右手で取りあげて、裏返しして脇に置く。)驚きました。『こわがり君』は独りでは寂しくて寝られず、いつの間にか無断でこちらのテントに潜り込んで寝ていたのだそうです。」

以上でこの面白いお話とマジックは終わりです。

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