氣賀康夫

電話口の奇術師
(Telephone Trick)


    <解説>
    昔、石田天海師のお宅に遊びに行ったときに「ダイ・バーノンがこういう動作を使って奇術をやっていた」という話をお聞かせくださったことがあり、それをきっかけにこのダウンアンダーと呼ばれる動作の数理的原理を研究したことを思い出します。 テレフォントリックというのは、電話を用いて通話の相手方に奇術を見せるという演出の奇術を指します。とにかく、相手の顔が見えず、通話口で相手がどういうことをしているかも確認ができません。そして、相手も電話の向うの奇術師の話だけを聞いているので奇術としても自ずと使える技法に制約があります。したがって、知られている多くのテレフォントリックは十分な不思議が実現できないのです。ここに提案する手順は、ダウンアンダーの原理を駆使して不思議を創造しようという試みです。

    <現象>
    奇術師から電話がかかってきて、電話を通じて奇術を演じたいと提案されます。そして、奇術師の手元には予言があると説明されます。そこで、こちら側では、その奇術師に言われるままにカードを一組出してきて、それを用います。奇術師の指示に従って、カードの一部を選び、それを点検すると、その中に確かに予言のカードがあると説明されます。そして、奇術師は直ちに予言の紙を開いて読みあげます。ここで、さらに指示に従ってカードを切り混ぜてから、それでダウンアンダーの動作(後術)を行っていくと、最後に一枚のカードが残ります。それを表向きにしてみると確かにそれが正に予言のカードであることがわかりびっくりします。

    <用具>

  1. 必要な用具は、WORKSHEETです。これは<写真1>に見本を添付しましょう。これをコピーすれば何回でも演ずることができます。
  2. この奇術では、術者が電話を通じて観客にいろいろと指示を与えるため、術者からは観客の手元が見えません。したがって、電話でも指示は明快でなければなりません。しかし、一方、幸いなことに、向うからも術者の手元が全く見えないわけですから、台詞のカンニングが許されます。こういう奇術は普通はありません。ただし、カンニングペーパーを使うときは、単なる棒読みにならないように、そして、電話の向うの観客が指示通り正しく動作を行っていることを確かめながら手順を進める配慮が必要です。
  3. 術者側、観客側の電話機にハンドフリー(スピーカー)機能があれば、それを活用する方が具合がいいと思います。そうすれば、互いに受話器を置いたままで操作ができ、両手が自由になります。周囲の観客にも状況がよくわかるでしょう。
  4. <写真1>

    <方法>

  1. 以下に、台詞をもとに説明していきます。この台詞をカンニングペーパーにしておくのも便利です。電話の相手に次のように話を始めて演技が開始します。「カードを一組ご用意ください。それを用いて面白い実験をご覧に入れることにいたしましょう。」
  2. 「さて、実はここに封筒にいれた予言があります。そちらからは見えないとは思いますが、私はこれを忘れないようにこの電話機の前に大切に置いておきます。」
  3. 「それでは、そちらに用意した一組のカードをよく切り混ぜてください。」(観客がカードを切り混ぜる時間を十分に与えます。)
  4. 「十分混ざりましたね。ところで、この実験では、カード一組全部を使うのではなく、 カードの一部を使うことになっていますので、お手持ちのカードの一部分を取って、それをポケットに入れてしまってください。それは使わないカードですが、ポケットに入れるカードの枚数は多くても少なくても構いません。」(観客がカードの一部をポケットに入れるのを待ちます。)
  5. 「よろしいですか。さて、ここで、テーブルの上に残っているカードの中に予言のカードがあることが大切ですので、それをあらかじめ確かめたいと思います。というのは仮にポケットに入れたカードの中に予言のカードが含まれているようですと、この実験は失敗に終わってしまうからです。」
  6. 「では、カードを揃えて、一旦、表向きにテーブルの上に置いてください。」
  7. 「そうしたら、その一番表のカードの名前を読みあげてください。読みあげたらそれを手に取り、それを右側に一枚づつ重ねて新しい山を作って行くことにいたしましょう。お分かりですね。」
  8. ここで観客は指示どおりにカードの名前を読みあげて右に置きます。術者は念のためそのカードの名前を復唱し、WORKSHEETの「1」の欄にその名前を書き込みます。
  9. さらに「では、同じ要領で2枚目以下もカードの名前を読みあげて、右の山に表向きに重ねていってください。」とお願いします。電話の向こうでは、順に、カードの名前を読みあげては右の山に重ねていくことになりますが、術者は読みあげられたカードの名前を順にWORKSHEETに書き込んでいくのです。ただし、三枚目以降は奇数の番号のところはWorksheetに斜線が引いてあり、そこは時間の節約のため、書く作業を省略する方が賢明です。そして、観客がテーブルの上のカード全部を読み上げ終わったならば、その瞬間に、最後にカード名を書き込んだ(または書き込みを省略した)欄の数字の次に書いてある「>」の右に書かれた数字に注目し、その番号の位置の升目のところを探してその個所にに大きな丸をつけておきます。<写真2>
    <写真2>
  10. ここで、間髪いれずに次のように話します。 「はい、終わりですね。ありがとうございました。それでは、テーブルの上のカードを裏向きにしてください。予言のカードは確かにあったようですので、この実験はきっと上手くいくと思います。でも、ちょっと予言を確かめるために、封筒を開けてみましょう。」 ここで電話機の送話口のところでWORKSHEETの端を少し破いてそのビリビリという音を聞かせるように配慮します。そして続けて話します。「これが予言です。そこには『今日、...年...月...日、(実演の日を言う)...さん(相手の名前を言う)が選ぶカードは...の...(このとき、先ほどWORKSHEET上で丸をつけたところのカードの名前を読みあげる)になるであろう』と書いてあります。確か、先ほどのカードの中にあったと思いました。でも、念のため、ポケットのカードを確かめておきましょう。ポケットのカードを取り出して調べてください。その中には...の...はないと思いますが、如何でしょうか。(ポケットのカードを調べ終わったら)はい、たいへん結構です。では、そのカードはポケットにお戻しください。さあ、予言が大丈夫かどうか、先に進みましょう。」
  11. 「次に、テーブルの上のカードを揃えて、裏向きにしてください。そうしたら、上からだいたい2/3くらいを取って、右側に置いてください。そして、いま置いたカードのさらに上半分くらいを取ってさらにその右側に置いてください。カードの山が三つできましたね。たいへん結構です。」
  12. 「いま、テーブルの上に三つの山がありますね。それでは、一番左にある山を一番右の山のさらに右側に置いてください。次に、いま一番左側にある山を取って、一番右の山に重ねてください。そして、最後に、左の山を取って、右の山に重ねてください。終わりましたか。全部が一山になりましたね。たいへん結構です。」
  13. 「それでは、これから、お客様にダウンアンダーと呼ばれる動作をやっていただきますので、それについて詳しく説明しますから、よくお聞きください。ダウンアンダーとは英国ではオーストラリアのことを意味するのですが、ここでは、ダウンとはカードを一番上から一枚取ってそれをテーブルの上に置くことであり、アンダーとはカードを一番上から一枚取ってそれを一番下に回すことを表します。ですから、テーブルの上のカード全体をお取りになって、それお持ちいただき、このダウンアンダーの動作をやっていただきます。ダウンで、一枚カードを置く...アンダーで、一枚下に回す...というリズムです。そうするとお持ちのカードの枚数がだんだん減って行きますから、最後に手に残るカードが一枚になったら動作をストップしてください。ではお願いします。」
  14. これで観客がカードを手に持ち、ダウンアンダーの動作をやっていくと最後に一枚のカードが残りますが、これがWORKSHEETに丸をつけたカードになるはずなのです。
  15. 最後に、次のように言います。「カードが一枚残りましたね。このようにしてお客様のお選びになったカードがこの封筒の予言どおりになっていれば、この実験は大成功ということになります。では、予言を確認いたしましょう。そうです、先ほど申しあげたとおり、予言には『今日、...年...月...日、(実演の日を言う)...さん(相手の名前を言う)が選ぶカードは...の...(先ほどWORKSHEET上で丸をつけたカードの名前)になるであろう』と書いてあります。では、お手元の最後のカードを表向きにしてください。
  16. 電話の向うの観客は予言が当たっているのでびっくりすることになります。
  17. 「最後に、ポケットの中にしまったカードを取り出して、使ったカードと一緒にしてそれをカードケースにしまってください。これで、私の実験は終わりです。」と言って この奇術を締めくくります。

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