土屋理義

マジックの切手
第32回

切手タイプのマジックのシール


 郵便を送る時に貼る額面の入った切手ではありませんが、切手タイプのマジックのシールを集めるのも楽しいものです。シールは、マジック大会の記念品、宣伝や郵便物の封、コレクション用に作られました。
 下図は、International Brotherhood of Magicians (IBM・国際奇術連盟)が、設立(1922年)間もない1928年6月に、オハイオ州のLimaでConventionを開催した時に発行された、オフィシャルな切手タイプのシール(Poster Stamp)です。椰子の木の下で、らくだに乗った人物が描かれていますが、当時マジックといえばロンドンのマジック常設館エジプシャン・ホールや、エジプトが起源という発想から、このようなデザインが選ばれたようです。この大会では有名なハワード・サーストンがショーを行っています。


IBMのポスター・スタンプ



 カップと玉のシールは、1958年にオーストリアのウィーンで開かれたFISM(Federation internationale des societes magiques:3年に一度開催されるマジック界最大の大会)で配られたシールで、ドイツ語のInternationaler Magischer Kongressの略である”IMK”の文字が入っています。グランプリはオランダ人のTonny Van Dommelenでした。


FISMウィーン大会・スタンプ拡大



 下はFISM第9回、スペイン・バルセロナ大会(1964年9月2日~6日)を記念して発行されたシールです。マジシャンが“Ⅸ(9回)“の布を広げています。この大会ではフランス人の聾唖マジシャンのPierre Brahmaと、ワイングラスの取り出しで有名だった西ドイツのMr.Coxがグランプリを獲得しています。


FISMバルセロナ大会・スタンプ拡大



 次はマジックウォンド上に“MZ”が書かれたセルフ糊のシール。ドイツ・マジック・サークル(MAGISCHER ZIRKEL v. DEUTSCHLAND E.V.)が制作しました(発行年不明)。


ドイツ・マジック・サークル・スタンプ拡大



 斜め前をにらんでいる男性は、近代奇術の父といわれるフランス人-ロベール・ウーダン(Robert Houdin)の肖像。生・没年の”1805-1871”が入っていますが、製造年や制作目的は不明。ウーダンをテーマにした集まりなどで記念に配られたものでしょうか?


近代奇術の父-ロベール・ウーダン・スタンプ拡大



 下は1992年5月6日から10日に、ドイツのBaden-Bardenで開催されたIBMヨーロッパ大会の時に作られた著名なマジシャンの切手タイプのシールと初日カバーの数々。上からWilliam Larsenは奇術雑誌”Genii”を発行したマジック・キャッスルの経営者ビル・ライセン、Werner HornungはこのBaden-Baden大会の主宰者、Martin Michalskiは多くのマジック本の著者として知られています。


IBMヨーロッパ大会の初日カバー
上からWilliam Larsen, Werner Hornung, Martin Michalski



 他にマジシャンのPat Leonhard、Kurt Freitagもシールになっています。

Pat Leonhard(左)とKurt Freitag(右)・スタンプ拡大

 謎のマジック・シールは、2002年に発行されたデビッド・カッパーフィールドの12枚連刷シートです。国名らしき“Karelia”という文字が書かれています。あるいはロシア連邦の最北西部に位置し、フィンランドと国境を接している「カレリア共和国」かとも思われます。しかしカレリア国は万国郵便連合には加入しておらず、切手のカタログにも掲載されていません。額面と思われる”5.00”の数字が、何の通貨を表しているのかも不明です(ルーブル?)。
 そのような共和国で、なぜカッパーフィールドの切手なのか?ひょっとして、2002年に彼がこの小さな共和国(人口約70万人)でマジック公演を行ったのでしょうか?あるいは、いわゆるファンタジーなシンデレラ・スタンプ(おみやげ用、あるいはマニア向けに作られた、実在しない架空の切手)なのか?・・・謎は深まるばかりです。


デビッド・カッパーフィールドの謎の切手シール・シート



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