土屋理義

マジックの切手
第31回

エッシャー・視覚の魔術師


 エッシャー (Maurits Cornelis Escher, 1898-1972)は、独創的な作品で知られるオランダのグラフィックデザイナー(版画家)です。この切手はエッシャー生誕100年を記念して発行されました。彼の横顔の上に描かれているのは、モチーフとしてよく使われた爬虫類の姿が、平面を次々に変化していくパターンで埋めつくしていくデザインです。


エッシャー生誕100年(1998年・オランダ-切手拡大)




絵の中心にある白、灰色、黒の六角形が、放射状に外にいくに従って、
白、灰色、黒の爬虫類のモザイク模様になって広がっていく
(作品名・Development11,1939年)


 その幾何学的デザインはオランダの切手にも複数採用されています。下の切手は国際航空基金の付加金切手として発行されたものです。地図上のオランダの上空を3機の機影(前方が4エンジンのFokker機、後ろの2機が2エンジンのダグラス機)が飛んでいますが、翼の色調の濃淡によってオランダ国の上空に、あるいは下側にも飛んでいるように見えます(切手左下に作者の「MCE」のサインが入っています)。


国際航空基金付加金切手(6c+4c)(1935年・オランダ-切手拡大)



上記切手の原画(Cornelius Van S.Roosevelt Collection蔵)


 次の切手4枚は、万国郵便連合創設75周年の切手で、オランダ本国、同国領のスリナム(現在は独立国)およびアンティルで発行されました。郵便配達のラッパが幾重にも連なり、郵便による世界の結束を表しています。


万国郵便連合75年(1949年、左2種・オランダ、右2種・蘭領スリナム-切手拡大)


 切手のデザインには採用されていませんが、錯視による視覚効果を利用した、不可能立体の絵と呼ばれる騙(だま)し絵を素材にしたものは有名です。柱の前後関係が床と天井で逆転している「物見の塔」(下図)や 、落下して水車を回した水が、水路を流れて元に戻り、永久に水車を動かし続ける「滝」などは、まさに「視覚の魔術師」の本領を発揮しています。


「物見の塔」(1958)
(クリックすると拡大します)



「滝」(1961)
(クリックすると拡大します)


 エッシャーの作品の数々は、オランダ・ハーグにある「宮殿のエッシャー美術館 (Escher Paleis)」で常設展示されています。ここはベアトリクス前女王の祖母で元オランダ王妃エンマ女王の宮殿であったライヘ・フォールハウト宮殿の中にあります。
また日本では、長崎県佐世保市のオランダのテーマパーク・ハウステンボスが、約180点におよぶ世界有数のコレクションを所蔵しています。


宮殿のエッシャー美術館で(筆者)


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