平川一彦

私とエド・マーロー
第8回

<マーローのカードテクニック:3>

 マーローの“ワンハンド・ダブル・ターンオーバー”で両手を使ったターンオーバーを以前に解説しましたが、そのテクニックをもっと詳しくここに紹介したいと思います。

 カードマジックを長くやっている方は、何をいまさら、と思うかもしれませんが、カードマジックをやる時には欠かせない非常に大切なテクニックです。

 このテクニックは、カードマジックのバイブルとも言われているマーローの“カーディシャン”の中の“ダブル・ターンオーバー・チェンジ”に使われているものです。

 これは、あなたがダブルターンオーバーを行い、それから、それを再び元に戻して、そして外見上は、今見せたカードをテーブルへ配ったように見せるところの、よくあるテーブルスイッチのための新しい、そしてより改良されたテクニックです。

 この方法は、見せたカードを本当にテーブルへ置いたということを客に納得させる方法です。これは、ダブルリフトの手順に頼っているので我々がいつも使っている“ヒット・メソッド”というテクニックを手短に説明してみます。

  1. デックは左手にディーリングポジションで持ちます。左手親指をデックの左サイドに移動して、デックを右側へビベルします。次に左手親指はデックのトップに戻して、デックの上を下方へ強く押え付けて、少しだけ、くぼんだ形にします。
  2. カードを持ち上げる基本原理は、ビベルのために2枚カードを自動的に取る右手人さし指のカードへの“ヒット”(当てること)です。
    その“ヒット”は、カードの右サイドのどの位置でも出来ますが、スタンダードな方法は、そのカードの右下コーナー(右サイド側)で行います。
  3. いずれにしても、右手人さし指を伸ばして、ビベルしたデックの右下コーナーに付けます≪写真1≫。一種のうち当てる動作(ヒッティングアクション)で伸ばした右手人さし指を上方へ、しかも、デックの方へ力を入れます。そうすると、この人さし指の指先は、トップカード2枚を得ることが出来ます。ビベルのため、そのうち当てる動作と、少しの練習で、人差し指は、いつでも2枚のカードを一緒に取ることができます。
  4. 写真1
    写真1
  5. 右手人さし指の指先にトップ2枚を感じ取ったら、右手人さし指の指先をそのカード(2枚)のフェイス側に付けて、右手親指をトップ側に付けて、この2本指でカード(2枚)の右下コーナーの右サイドを握ります≪写真2≫
  6. 写真2
    写真2

 ここから、このカード(2枚)を1枚のようにターンするのですが、“カーディシャン”の中には書いてありませんが、マーローを含めて多くのマジシャンが使っているダブル・ターンオーバーをここに説明します。

  1. 右手人さし指の指先がデックのトップカード(2枚)を右サイドの右下コーナーで感じ取ったら、その人さし指をそのカード(2枚)の右サイドに沿ってカードの中央付近まで滑らせていきます。
    右サイドの中央にきたら、右手親指をトップの右側に付けてそのカード(2枚)を握ります。ここで、そのカード(2枚)をターンするのですが、その時に右手親指は、そのカード(2枚)のトップで下方へ力を加えて、右手首から先を左方向へ回転させます。
  2. すると、そのカード(2枚)は、縦方向に少しへこんだ(凹んだ)形になります。右手首の回転を続けると、そのカード(2枚)の左サイドがデックのトップ面を自動的に滑っていきます≪写真3≫。そして、ターンしてデックの上にフェイスアップになります≪写真4≫
  3. 写真3
    写真3
    写真4
    写真4
  4. 次に、右手の親指と人さし指を放して、左手に持っているデックのトップにフェイスアップで落とします。この凹んだ2枚カードの左サイドがデックの表面(トップ)を自動的に滑るようにいくと、2枚カードが1枚のように見えるのです。
  5. 何もためらわずに、右手人さし指と親指は2枚カードを1枚のように持ち上げ続けてデックの上にきちんとフェイスアップにターンします。そのカード(2枚)をフェイスダウンにするには、ヒットアクションを繰り返します。

以上の4段階はダブルリフトの説明です。
次に“チェンジ”の方法は次のように行います。

  1. 左手にデックをフェイスダウンで持ち、ダブルターンオーバーを行って、そのカード(2枚)をデックの上に一直線に揃うようにフェイスアップにターンします。
    再び、その2枚カードをフェイスダウンにしますが、ここから少し変ります。そのカード(2枚)をデックの上に一直線に揃えて置く代わりに、ターンするときに≪写真5≫のようにそのカードの約1.5cm位をインジョグして置きます。
  2. 写真5
    写真5
  3. フェイスダウンに置いたら、左手親指をそのカードのトップに置きます。その位置は、セカンド・ディールの時と似ています。左手親指は、ジョグしたカードの右上コーナーの方へ充分に伸ばしておきます。(≪写真5≫参照)
  4. カードをテーブルへ配るには、ターンオーバーと同じ動作をします。つまり、右手人さし指は、横を見せている≪写真6≫のように、トップカードだけの右下コーナーを持ち上げます。
    そして、右手親指をそのカードの右下コーナーのトップへ付けて、右手人さし指と右手親指でカードを握ります。
  5. 写真6
    写真6
  6. 右手の指は、左手親指の下からトップカードをはぎ取りますが、その時、左手首をデックと共にターンして、左手の平を≪写真7≫のように下へ向けます。チェンジしたカードはテーブルへフェイスダウンに置きます。
  7. 写真7
    写真7
  8. チェンジしたカードが左手親指を放れるやいなや、この左手親指は、残っているジョグカードを前方へ押してデックに揃えてしまいます。これは、カードのバック越しに付いている左手親指を単に左手人さし指の方へ動かすことでわけなくできます。
    その時に、左手親指が左手人さし指の上へ突き出ることのないように注意して下さい。それは、単に左手人さし指に触れるだけです。
  9. 今度は、左手をターンさせる言い訳が必要です。すなわち、もし、カードをテーブルパケットの上に置いたのであれば、その後でパケットを両手で揃えます。もし、1枚のカードをテーブルへ置いたのであれば、左手でそのカードを違う場所へ押しやります。
    さらに、左手は、右手がカードをすくい取る時に、テーブルの1枚のカードが動かないようにします。このような動作を行った後に、左手を通常の元の位置に戻すことで、左手をターンしたという、一連の動作の意味づけが成立します。この時には、ジョグカードはデックにきちんと揃っています。

 ダブル・ターンオーバー・チェンジは、デックをフェイスアップで使用したときに特に効果的です。つまり、デックのフェイスカードをダブルリフトして、フェイスダウンにターンしますが、その過程において、そのカード(2枚)をインジョグします。そこには、カードのバックと、デックのフェイスがちらっと見えて、はっきりとしたコントラストがあります。

 したがって、カードを持ち上げ始める時に、カードを配るということにおいては何の疑問も起きないでしょう。

 デックをフェイスアップで扱うと言えば、左手をターンする論理的な言い訳がない時があります。そのような時は、カードをジョグするか、デックのフェイスにきちんと揃えるかのどちらかを使用する次の方法を行う必要があります。

  1. デックのフェイスカード2枚を1枚のように、デックのフェイスへフェイスダウンにターンして、右手人さし指で、トップカードだけの右下コーナーを持ち上げます≪写真8≫
  2. 写真8
    写真8
  3. 同時に、左手の指は、デックの右サイドを引いて、そのときに右手に完全に持っているトップカードの下で、デックと共に左手首を回転させます。
    この動きは、デックを隠さないで、まるでそのデックを左手だけではっきりと分かるようにターンしている以外は、1枚だけのカードの下で行う一種のハーフパスです。
  4. さらに、それは事実上、デックのフェイスに残っているリバースしている別のカードを隠しています。
    その動作が終ったデックは左手の指先にフェイスダウンで残っています。この位置から、ディーリングポジションに全く簡単に移すことができます。
    この動作は、たとえば、フェイスデックの反転をカバーするというような他の使いみちがあります。そのときも説明したテクニックを十分に使えます。

― The Cardician P.52~54 ―

 以上が“カーディシャン”の中のテクニックの解説ですが、如何でしたか。原書は、ずいぶん詳しく解説してあることがお分かりになったと思います。皆さんの中には、プロじゃないのだから、何もそこまでやらなくてもいいのではないかと思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、もし、あなたが人にカードマジックを見せるか、または教える立場にある人ならば、この基礎であるテクニックは、ぜひとも知っておく必要があると思います。基礎を知らない人のマジックはパズルのように見える時があります。しっかりとした基礎はマジックに余裕をあたえ、不思議さと美しさが生まれます。

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